大歓声
「もう少し具体的に説明してもらってもいいですか? ここは一体どこなんですか?」
この状況でも割と冷静に会話ができている自分に少し驚いている。
魔王を倒してほしいということだけはわかっているけど、僕には生憎そんな力はない。UFOキャッチャーが少しうまい程度の長所がせいぜいだ。こんな僕に魔王を倒してほしいなんて荷が勝ちすぎてる。
「勇者様!! 私共は勇者様を召喚するために集められた魔導士一同です。この日のために何年もかけ、準備に準備を重ねてまいりました。どうか、王国をお救いください」
「えーと、なんで僕なのかな? 絶対にもっと適任がいたと思うんだけど……」
「そんなはずありません。この勇者召喚魔法は王国が誇る禁術の中でももっとも高位の魔法です。その昔、魔王が現れた際にもこうして勇者様が召喚されたと言われています」
ということは僕が最初の勇者じゃないってことか。以前の勇者はアニメのようなすごい魔法や剣技が使えたのかな。それだったら魔王の討伐だってかなうかもしれないけど。
「そんなことよりも勇者様のお名前をうかがってもよろしいでしょうか?」
「え? ああ、僕はヒロキって言います」
「「「「おおおおおおーーーーー!!!!!」」」」
僕が自己紹介をしただけで大歓声が起こる。
流石に僕も驚きを隠せない。
「皆の者聞いたか!! 勇者様はヒロキ様だぞ!! ヒロキ様にバンザーーイ!!」
後方に待機していたいかにも王様っぽい人が前に出てきて叫ぶ。
「「「「ヒロキ様バンザーーーーイ!!!!」」」」
またも大歓声が巻き起こる。どうやら、この世界の勇者というのはとんでもない人物ということになってそうだ。この人たちのテンションがどう考えても常軌を逸している。
「あの……すいません。ちょっといいですか?」
「ヒロキ様がおしゃべりになるぞ。静まるのだ皆の者!!」
うん、やめてくださいよ。しゃべりづらいなぁ。
「こんなに喜んでもらってあれなんですけど、僕には魔王を倒すような力は備わっていませんよ。それに元の世界にも返してほしいです」
「またまたヒロキ様、ご謙遜を勇者様は誰一人の例外なく、人知を超える力を有していたと伝承に記されております。まだ、こちらの世界に来たばかりで体がなじんでいないだけでしょう。それと、元の世界への帰還方法ですが、役目を終えたときにこちらの世界に残るか、元の世界に戻るか選べると記されておりました」
とにかく、魔王を倒さないことにはどうしようもないってことなのね。僕にそんな隠された力が眠ってるのかな。それとも、もしかしてこの召喚魔法自体にとんでも強化魔法みたいなのが仕込まれてたり。
「わかりました。魔王の討伐ですが、前向きに検討します」
「ありがとうございます。これで我が国も安泰です。おっと、申し遅れてしまい、申し訳ございません。私はこのデンポルト王国の国王、ジュリス・デンポルトと申します」
「こちらこそよろしくお願いします。国王様」
やっぱりこの人王様だったか。服の豪華さからしてただものじゃないとは思ってたけど。
「様なんてつけなくて構いません。私のことはどうぞジュリスとお呼びください」
いきなり王様を呼び捨てにするのは心理的なハードルがものすごく高いんだけどなぁ。僕からしてみれば雲の上の存在の人みたいな感じだし。
「わかりました。ジュリスさん。これから僕は何もすればいいんでしょうか? いきなり魔王討伐に行くのはちょっと無謀な気がして」
「これから、ヒロキ様にはまずパーティメンバーを集めていただきます。先代の勇者様方も例外なく、四人のパーティを組まれていたといいます。一人目なのですが……こっちに来なさい」
ジュリスさんは後ろで待機していた、女性に声をかけた。
「はい、お父様」
「まずはヒロキ様に自己紹介をしなさい」
「初めましてヒロキ様。私はメリア・デンポルトと申します。よろしくお願いいたします」
「うん、初めまして。僕のほうこそよろしくお願いします」
こっちに近づいてきて気が付いたが、ものすごい美少女だ、顔が整っているのは言うまでもないが、光り輝くような金髪、スタイルもモデルのようなレベルだ。え? もしかしてこの子僕のパーティに入るの?
「メリアは私の一人娘なのです。そして、王国一の回復魔法、補助魔法の使い手です。きっと魔王討伐の力となるはずです。どうか、つれていってやってはくれないでしょうか? もちろん、パーティメンバーを決めるのは勇者様の自由でございますが」
「私からもお願いいたします。きっとお役に立ってみせます」
なんかこの子をパーティに入れてほしい感じ出してるけど、僕からしたら土下座してでもパーティに入ってほしいくらいなんだけどなぁ。
「わかりました。僕のパーティにメリアさんを加えることにします」
「皆の者聞いたか!! メリアが勇者パーティの記念すべき一人目の仲間として加わったぞ!!」
「「「「うおぉーーーーー!!!!」」」」
またもや大歓声。この世界の人たちはずっとこのテンションで生きているのだろうか?