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沈黙

最悪だ。嫌な予感は的中する。リュウの軽挙は、やはり高くついた。外装の調整作業で、まさか中尉も同席することになるなんて。


「ヒロセ中尉、こちらの仕様ですが」


 パイロットルームで整備計画に目を通す中尉から、返事は帰ってこない。


「リュウ二等兵!腹部装甲まで降りてきてくれ。腰のバックルを緩め過ぎるなよ」


 ちょうど格納庫の天井部から、宙吊りになる形で外装整備は行われる。タカノさんが言うように、バックルを緩め過ぎると急速に落下するので、注意しなければならない。


「無理に関わろうとするな。余計印象が悪くなる。だろ?」


 下まで降りると、タカノさんはしっかりと聞こえるように言い含める。


「タカノさん、意外と保守的なんですね」


「ったく。ちょっと次工程の計画書取ってくるから、ココのビス締めといてくれ」


 頼んだぞ。そう言いながら、手慣れた様子でバックルを緩めて地上まで降りると、事務区画へと走っていった。


 緩みがないよう慎重にドライバーを回しながらも、リュウは忠告を無視して、もう一度話しかけるタイミングを伺っていた。


 なにせ、中尉には己の復讐を託すのだ。軍の階級や規律というものを、リュウは十分に尊重している。だが、極めて個人的な動機が、それを超越する衝動を生むこともある。自分の思いと、軽率な発言の謝罪は、確実に伝えなければならない。


「あの、ヒロセ中尉!」


 意を決したリュウは、バックルを締め直し、胸部のパイロットルーム目掛けて整備用ワイヤーを急上昇した。


「うわぁ!」


 突然、視界の外から名前を叫びながら飛んでくれば、流石のヴァルキリーも意表をつかれる。

 女性らしい声を上げながら、咄嗟に取り繕う。だが、相手が先ほどの無礼な一等兵だと分かると、顔をしかめた。


「なにかしら」


 一瞬怯みながらも、リュウは覚悟を決める。


「私はリュウと申します。大陸からの難民軍人です。まず、先程の無礼をお詫びしたく……」


 そこまで言いかけて、リュウは異変に気が付いた。


 パイロットルームの中尉が、小刻みに揺れて、視界がグラついている。


 よく見ると、国掴神も振動していた。


「地震……?」


 リュウの声をかき消すように、けたたましいサイレンが鳴り響く。


「敵襲だー!」


 それは、帝国の再侵攻を全軍に知らせる災厄の音色。これは訓練ではない。本能がそう察知した。

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