しみ_04(無視)
*
挫折のない人間は他人に厳しい。
(なんで・もっと・頑張らない?)
彼・彼女たちには、(挫折も)糧になる。
(なんで・もっと・頑張れない?)
乗り越えられた者だけが生き残る。駄目だった者は消えていく。
誰も知らない・見つからない。
(立ち止まって・悩む・時間/無駄)
彼・彼女たちには当然・当たり前。
(どうして? 分からない)
けっして(逃げない・避けない・甘えない)
他人もそうだと(暗黙のうち)考える。
──どうして自分を追いつめるんだ?
(わたしが? いつ? どんな風に?)
いま、自分で・自分を・罰してる。
「律してる」の、と、彼女は云う。
「前回よりも、良いものを。昨日よりもずっと良いものを」つまり「満足は死」なの、よ。
大袈裟なんかじゃない。本気で思っている(だから分かり合えない)
──わたしは、この道を選んだ。
この手と(ぱんぱん!)、この足と(どんどん!)、頭で!(かんかん!)
考えて・考えて・考え抜き、スケッチして、スケッチして、スケッチして、形にする。
わたし自身で。わたし自身の手で。わたしの仕事。成果物(わたし自身)。
──なにもおかしくないじゃない?
そうだね。ぼくは否定する理由がない(それは)自分にとても(厳しく)だから、
──折れ易い。
自分が(弱い)太刀打ちできない(負け戦)──挫折。
絶対に勝てない勝負(挑まない)
逃げ道、即ち甘やかし(できない)
分かっていれば、(脇道・逃げ道)知らないで──誰も(自分を)守ってくれない。自分で自分に厳しいから/自分で自分を甘やかせない。
(容量超過)
目一杯、こぼれる
(決壊)
彼・彼女らは、自分の許容量の水位を認めない。
(それは甘えよ)
たとえ周りが(危険・信号)伝えようと(手を差し伸べても)
(甘えよ)
取りつく島もない。
(心は器・大きさは人それぞれ)
勘違い。
安全引き返し点・遠く・過ぎる。
間に合わない。
自分を大切にしないってことじゃない。
自分を知らないってことでもない。
彼・彼女たちは闘っている。
(自分で自分と)
間違えないで。
彼・彼女たちは、分かっているんだ。
そして、
彼・彼女たちは、立ち止まらないんだ。
それが、
彼・彼女たち(生き様)そのものなんだ。
堕落の効用を(一切)認めない。
だから彼女に(妥協も・脱落も)ない。あるのは納期・締め切り・予算(報酬)。絞りに絞ったアイディアの山(スケッチの束)
たとえば:百枚描いて、全部・捨てる。
それからまた更に描いて、描いて、少し残して、他は捨てる。
残したものを発展させて、描いて、描いて、
気に入ったら進む。気に入らなかったら、捨てる。
たまにゴミの中から拾って(真夜中)ジッと思案する。原点に戻ったり、遠くに投げたり。(真夜中)紙つぶて・投げて・唸って・またペンを握る(サインペン・ボールペン・ミリペン・浸けペン・マーカー・鉛筆・万年筆)
スケッチ・スケッチ・スケッチ。
「苦しいが楽しい」
彼女はマゾだ。編集者からのダメ出しの嵐 (へこたれない)。
「だから何?」
──なんでも。
ない、よ。
編集者をやりこめる(勝利宣言)。
一時の休みもなく、「次!」納品データを作りながら、次の次のアイディアスケッチ。幾つもの仕事・平行/作業。少しずつ・ずらしながら。スケッチ・スケッチ・たまに息抜き・アイディア探し。
彼女にとって世界はアイディアの源・塊。次の引き出し。いつかのストック。
生活=仕事・境は曖昧。厳しい人は、だから、厳しい。
(許容量/閾値・見過ごされ)PSR(安全引き返し点)/安全係数・取れるだけ、取れ。を、理解できない(だから)彼女は本に閉じこもった。
大好きな、本。
本の外に出たくないと願った。
毎年、一回は読み直すという(二冊目、三冊目)くたびれた・本。
同じ本が並んでいる。増えていく。
ぼくの願い:彼女を本から返してくれないか?
するとサカナは、
「──図書館へ」
行きましょう、と云う。
それで?
「図書館です」
要領を得ない(でも)紙魚の(言葉)。聞き流しても(良かった)なのに(従う)。
*
大好きな本の仕事を請け負って彼女は、
納期を無視した。
(捨身)
彼女は仕事を失った。
二度と本の仕事はできない。
(自損自尽)
彼女は本棚にラベルを貼り付ける。
赤のラベルは(大手古書チェーン店へ)
青のラベルは(セット売り)
黄のラベルは(オークション)
緑のラベルは、黒のラベルは、白のラベルは──(トリアージ)。
本棚の入れ替えを、彼女はひとりで(黙って)始めた。