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しみ_02(嫌いだわ)


   *


 彼女は紙を集める性癖がある。それは店先で、旅先で、レストランで。

 どんな紙でも(触って透かして、時に舐めて)、紙を愉しむ(指で舐める時々破く)

 待ち合わせをすっぽかされ、カフェの隅で紙ナプキンに文字を書いてたぼくを、彼女は(面白がって)連れ去った。

「いいね」

 たったそれだけ/連れ去った。

 古めかしい云い廻しなら穀潰しで、下品な呼び方なら(ヒモ)で、婉曲するなら家事手伝い。

(彼女が飽きない限り)何の・不満・ない。

(自尊心は幻覚で、羞恥心は幻想で)

 つまりそれは(蜃気楼)。

(いいんだよ)彼女は微笑む。逞しくも、頼り甲斐なくても(いいんだよ)

 ──つまりね。

(キミは悪くない)

 彼女の呉れた(魔法の)言葉。ひとは、やさしい嘘を吐く。それは(たぶん)自分のためで(誰かのためで)生きることに大切な、(何かのために)必要なこと。


   *


 短冊状の紙見本(何冊も・箱入りで)

 色も模様も、触り心地も(全部違う)

「宝物」

 愛おしそうに見せびらかされた・彼女の見本・宝物(竹尾)。

 曰く、

 ──紙は、人類の発明よ。

 印刷をする。大発明だわ。

 束ねる重ねる流通させる(大・大・発明よ)

 人類は(愚かしい程に)偉大だわ。

 なのに、

「選挙の紙」あの紙、あの質感。「嫌いだわ」

 だから彼女は(選挙の前日)機嫌が悪い。だからせめて(朝一番)空箱を見に行く。彼女は箱を覗き込む(空です)。首を巡らし、ぼくを見て(顎で促す)寝ぼけ眼で、(空です)箱の中身を確認する。

(蓋をして鍵をかける・指さし確認・ヨシ)

 鉛筆を持って記載台(揺れる・アルミニューム・組み立て式)並んで(カリカリ)文字を書く(画数が響く)──ぼくはいつも書いたフリ。鉛筆の先で天板を(カツカツ)コツコツ。

 彼女はユポを半分に折って、(心底嫌そうに)箱のスリットに押し込んで、

「あの紙」

 嫌いよ、と云う。

 ぼくは(特に)分からない。

 彼女は(すごく)気にしてる(嫌いよ)


   *


 紙と鉛筆で(レタリング)、文字を創る。文字を描く。ぼくは、方眼紙に(文字を)書く。

(透写紙に書き写し・ケント紙に転写する)

(線をなぞって、輪郭をとり、筆と絵の具で塗り潰す)

 文章を、言葉を文字に、分解し、

(一番小さな)要素・構造。

(息を詰める。線を引く)

 レタリングは無心になれる。

 創造力はいらない。指を使って/手を動かして/自分だけの文字が出来る。

(使わせて、と、彼女は云う)

題字(タイトル)にしたい、と、彼女は云う)

 彼女は笑顔で「世界にたったひとつの文字」だから、「いいね」

 彼女はコンピュータで仕事をしていて、

 それは(印刷と画面表示と)

 物理と、電子と。

(どちらも出版/パブリッシュ)

 彼女は(ご機嫌)機械に取り込む。(画面)モニタに映る(ぼくの文字)

「素敵な作品、ありがとう」

 どういたしまして。


   *


 ぼくは、文字は分かる

 なのに、

 文章が分からない。

 ぼくは学校を出ていない。行けもしない/興味もない。

 誰かが云う。他人と違うのなら(努力しろ)別の方法・あるはずだ。様々な工夫と試行錯誤・成功者(美談)それが、どうしようもなく他人を追いつめていることに気が付かない。

 有能な人は、他者に求めるものが大きい。

(誰かが上に立った時、底が誰が支えてる?)

 成功者は(他人に求め・失望し)頑なになり、足下が見えなくなる。

(平気で踏みつけ・手心・共感を持たない種族の次元違い)。

 善意と正義の勘違い。ぼくは避けて(時に逃げて)関わらない。

 彼女は違った。違っていたのは彼女だけ。


   *


 外国の映画が(好き)見たことない風景。知らない町並み、逢えない人たち。

 字幕は見ない(分からない)。

 画面と役者と音楽で、物語に没頭する。

(壮大な風景)(盛大な音楽)高揚する。

 映し出される/荘厳な画面レイアウト

 驚き箱。

 ぼくの(好き)と、彼女の(好き)。 ぼくらの(好き)が重なる。

 博物館・美術館・水族館。そして外食。メニューの写真を指さし、食事をする。

 彼女は面白がって、ぼくを連れ廻す。

(ぼくはそれがちっとも嫌じゃない)

(手を繋いで、彼女に引かれて、一緒に歩く)

 ──彼女に惹かれて。

(ぼくはちっとも嫌じゃない)

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