星の数だけポテトチップスを……
今日の夜は流星群が観られるらしい。そんなことより、コンビニでポテトチップスを買うか。へっへっへ今日は給料日。しこたま買ってやるぜ。俺の好物♪
世の中には唐揚げだのフライドポテトだのを好んで食うやつがいる。しかしなぁ、ポテトチップスの種類の多さ舐めんなよ。ただ揚げてるだけじゃねぇんだよ。見習おうぜ企業努力を。
俺は常にポテトチップスのことを考えている。ムカつく上司の顔もポテトチップスにしちまえば腹が鳴るってもんだ。かわいいあの子は……ほんのり桜チップス味! んめぇ!
家に帰ってテレビを付けてみる。カーテンを開けると、真っ暗になっていた。空には成型ポテトチップスのような月が昇っていた。うまそうだなぁ。
夕方のニュースがやっていて、もうそろそろポテトチップス……間違えた。流れ星の集合体? の流星群が観られるらしい。まぁいいか。ポテトチップスでも食べながらポテトチップスでもしてみるか。
俺は窓を開けてベランダに出た。お隣の爺さんも、双眼鏡を使って子どもたちときゃっきゃやっていた。多分孫だろう。例えるなら可愛いコンソメ味っぽい子どもだ。やんちゃだなぁ。さしずめ爺さんは昆布味っぽい。
「んめー♪」
俺は袋から一番ベタな、うす塩味を取りだして封を開けた。それを頬張りながら、
(岩塩味ってのも欲しいな)
なんて思った。
「おお、流星群が来たぞ! 流星群じゃ!」
お隣さんがはしゃぐから、空を見つめる。なるほど、これが大量のポテトチップス……流れ星。流星群ってやつか。ふーん、ポテトチップスの方が味気があって良いや。
「星は食えねぇもんな」
俺が流れ星を見終わった後、部屋の中で大きな物音がした。泥棒か!? まだあの味もこの味もご当地の味も食ってないんだ、せめて命だけは‼‼
「……ん?」
俺が振り返ると、そこには山積みになったポテトチップスの袋があった。色とりどりの未だかつて見たことのない袋の数々。おいおい嘘だろ! 俺は夢でも見てるのか!? と思いつつ、ポテトチップスに近づいてみた。
一応味の説明があった。
≪もくもく雲の味≫
≪太陽のシゲキ味≫
≪星の瞬き味≫
……
……は?
「へんてこな味のネーミングだなぁ。というか、これ食えんのか?」
いや、昔聞いたことがある。
流れ星に三回願い事を言うと叶うってのは嘘だということ。普段から願っている人が、たまたま流れ星を見て願いを叶えるのだということをだ。
「じゃあ、俺願い叶えたのか? よくわからんが」
とにかく今日は、ポテトチップス流星群に感謝ということで、≪星の瞬き味≫を食ってみる。ぱりぱりぱり……うん?
「アンタ。またポテチばかり食べて! 野菜も食べなあかんよ!」
聞き覚えのある声に、瞼を閉じて味わってみる。
「全く、今から回鍋肉つくってあげるから。まっとき!」
(あ、あれは、亡くなった母ちゃん!)
ポテトチップスが口の中から無くなると、母ちゃんが消えた。もう一度含む。母ちゃんは、俺に回鍋肉をふるまってくれた。でも、もう≪星の瞬き味≫は無くなってしまった。
まだまだたくさんの味があった。もちろんいろいろ食べてみた。例えば≪もくもく雲の味≫は、俺が新入社員になって初めて上司から褒められたときに観た空が浮かんだ。
俺は全てのポテトチップスの封を開けて、母ちゃんの姿を探していた。もう一度≪星の瞬き味≫を食べなければいけないのだろうか。しかし、もう無くなってしまった。
「――もう一度食べてぇなぁ」
俺はそう思いながら、近くのスーパーまで買い物に出掛けた。豚こま切れにピーマン二つ。キャベツ四分の一と回鍋肉の素を買うためだ。
「たまには、芋以外の野菜も食べなきゃな」
な、母ちゃん!
夜空に向かってニカっと微笑んだ。真っ黒な空に、まっすぐな流れ星が現れては、街灯の灯にぶつかるように消えていった。
おしまい。