終末から猫の助手として働くことになった
優秀な研究者を集めて作った気象操作装置の暴走だったか、とにかく自然環境は激変した。元・気候変動学者のおじさんは、変わり者と揶揄されたけど正しい選択をしてたんだ。
世界は壊れてしまった――
田舎で造った方舟のような家で自給自足。
おじさんは猫と一緒に呑気に生活してる。
それでも世界は壊れたんだ。
その日の食べ物にも困る時代になってる。
作物は育たない、家畜は飢えて痩せ細る。
海や川から、魚は消えた。
養殖プラントで、命をつなぐ種類はいる。
種の保存のため、食卓を飾ったりしない。
「来たか」
「どうも」
「カジケがうるさくってなぁ」
どこにも魚なんていない。
じゃあ、この七輪で焼いてる一夜干しはなんだろ?
「釣りをしようって魚をですか?」
「釣りだからな、釣るのは魚だろ」
おじさんは天を仰いだ。
「昔、詩人が編んだのさ。 秋刀魚は遠くなりにけり」
「んに"ゃ~あぉ!」
鯖猫が4本足で近づいてきて、スッと立って片手をあげた。
カジケという名前の、環境に適応して進化した新世代猫。
頭が良い、寒いの苦手、上手に立って歩く、気紛れで飽きっぽい。
つまり、あまり旧世代の猫と違いない。
子供用コートを嫌がらずに着るぐらい。
「元気そうだね、カジケ船長」
「うぁお、ぅあ!」
そして、言葉は猫語なんだ。
たすき掛けした紐を手繰ると、スマホへ器用に入力してく。
「竜巻で空に昇る……お魚が?」
「ぅあ~う」
「今日あたり真上を通る……お魚が?」
「ぅあ~う」
「食べたこと? ……あるわけないよ」
カジケ船長は目を細めて満足そうに頷いた。
4本足で自宅兼木造船へ入ってく。
おじさんが「離陸だ」と扉を指さした。
抜錨。
錨を巻き上げる鎖がゴンゴン船体を叩く。
窓の外で手を振るおじさん。
もう何年も空では乱気流がうねってる。
時折ギシギシと、船体が軋む音が響く。
不安をあおるように揺れて、傾いてく。
スマホを握り締めて操船し、気流を読みながら上昇させてく、カジケ船長の真剣な姿。
船窓に丸く切り取られた風景はすぐに白く濁って、濃淡が激しく渦を巻きはじめ、船体を透かして獣の遠吠えに似た音と稲光に包まれる恐ろしい時間が四半時も続いた。
不意に、ぷかりと雲海へ浮かび上がる。
あくびと一緒に緊張を吐き出した船長が、2本の釣り竿を手にとことこ歩いてきて、トンボの入った竹籠と『尻先にチョン掛け』と入力したスマホ画面を見せてきた。
「釣れますか?」と尋ねる。
カジケ船長は目を細めて「に"ゃ」と大きく頷いた――
※出典:【 秋刀魚タイム・ブルース 】
腰抜け16丁拳銃/クロモリ様
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