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逆転

絶対的魔法防御を誇る剣士との死闘。


バトルの熱は、嫌が応にも高まっていく。

「……なんだ!?」


 圧倒的な力感を備えたその遠吠えにシュトルフは思わず立ち止まった。その隙に、アキラは廊下に飛び出した。

 次の瞬間、銀色の疾風が閃くように現れた。銀狼の神威だ。アキラはすかさずその背に飛び乗った。神威はアキラとスゥが待ち合わせをしていたところから、つかず離れずアキラ達を見守っていたのである。


「逃げる気か!」


 アキラを追って廊下に飛び出して来たシュトルフに、アキラは思いっきり嘲笑を浴びせた。


「バ~カ。てめえにやっていい事と悪い事ってのを調教してやるには、ここじゃあ場所が悪りぃだろ。だからちみっと場所を移動すんだよ。ちっとは考えろ、このタコ」

「言わせておけば……」


 シュトルフは、怒りに顔を赤黒くうっ血させ、ギリッと音を立てて歯ぎしりした。視界が朱に染まり、酩酊しているような感覚。


「お~お~お~お~。いっちょ前に怒っちゃってまぁ。取りあえず俺様を追い詰められたら少しは本気になってやらあ。手が届かねえ限り、てめえはただのデクノボーちゃんでちゅからね~」


 もはやシュトルフには言葉を発する事が出来なかった。意味をなさない叫び声を上げてアキラに突進してゆく。


「おっと、なかなかすばしっこいじゃねえか。どでかいだけが取り柄かと思ってたが、なかなかどうして、感心感心」


 アキラがそう言って神威の背中をぽん、と叩くと、神威は矢のようなスピードで走りはじめた。


 神威に乗って階段をかけ降りながら後ろを振り向くと、シュトルフは憤怒の形相で追いかけて来ていた。さすがに差はじりじりと開いていくものの、人間離れしたスピードだ。怒りが常にない力を与えていたとしても、考えられない程の速度だった。


 アキラが地下への階段を降りていくのを見て、シュトルフはニヤリと笑った。外に出てしまえば逃げ延びる事もでき、シュトルフの疲労を待つという作戦も取れるのに、アキラが自ら地下のプールに追い詰められる結果を招いたからだ。はじめての建物だとはいえ自分の現在位置も把握していないアキラの迂闊さに、シュトルフはさらに唇の両端を吊り上げた。


 神威の背の上で振り返るアキラの表情に焦りの色が浮かぶのを見て、シュトルフは歓喜の雄叫びを上げ、速度を上げた。



 シュトルフが地下のフロアーに辿り着くと、アキラはプールサイドで油断なく周囲を見回していた。シュトルフを警戒しつつ、地下からの脱出経路を探しているようだ。が、校内の地理に関しては、シュトルフは圧倒的にアキラを凌駕している。


「逃げ場のないところに自ら飛び込むとは、大魔法使いの頭とやらも底が浅いな。覚悟を決めろ!」


 シュトルフはプールサイドに出てゆくと、一喝した。


 アキラは無言で神威の背から降り、シュトルフを見据える。神威はアキラを励ますように尻尾を振り、そばを離れた。


「……覚悟を決めたか。その潔さは認めてやろう。魔法使いなどという姑息な連中にしては、いい度胸だ」


 アキラは表情を変えてはいなかったが、顔色は青ざめていた。そして突然呪文を詠唱する。


「……くそっ……! くらいやがれ!! フォトンアロォーッ!!」


 光の矢が無数にシュトルフを襲うが、その全てが『暗黒の鎧』に弾かれ、シュトルフの歩みをいささかも止めはしない。


「無駄だ、無駄!! そんな苦し紛れのまやかしが何の役に立つ!!」


 シュトルフは勢い良く走り出し、アキラとの間を一気につめると、アキラの心臓をめがけて剣を突き出した。


 アキラは瞬間、身をかわした。が、いかんせん接近されては圧倒的に不利だった。心臓への直撃は避けることが出来たが、シュトルフの剣はアキラの右脇腹を深々と貫いていた。




「あははははは!! 結局貴様は無力なのだ! ただ逃げ回り、俺の剣のサビになる……。哀れだぞ!魔法使い!!」


 アキラの口からごぼっと音を立てて鮮血が吹き出す。空色のローブの剣に貫かれた部分に、じわじわと赤黒い染みが広がりだしていた。


 アキラが何かをつぶやいた。顔は更に青ざめていたが、目の光はまだ失われてはいない。


「……今、何と言った? 遺言なら聞き届けてやる」


 シュトルフの勝利を確信しきった顔に、アキラは血の混じったツバを吐きかけた。


「な……! き、貴様……」


 唾を吐きかけられた顔を拭いながら、シュトルフのその表情には疑念の色が浮かんでいた。


「……脳天気な野郎だな……俺様は『捕まえた』って言ったんだ……。もう一度言ってやる。やっとてめえを捕まえたぞ……」


 アキラの目が光り、マナが集中しはじめる。


「馬鹿め。魔法など効かんと言っている!」


「それはどうかな……微炎ファイア・ビット……」


 アキラの唱えた爆炎系最弱の呪文により、アキラの指先に小さな炎が現れた。あまりにも小さな威力の為、実際に用いられる事はなくなってしまった呪文だ。


「何かと思えばそのような炎……魔力も尽き果てたか」

「この時が来るのを待ってたんだ……逃がしゃしねえ。罰を受けてもらうぜ……この、炎でな……!」


 アキラは指先の炎もろとも、鎧の隙間に腕をつっこんだ。シュトルフの鎧の下で、着衣に火が燃え移る。


「ぐっ……!! ああぁっ……!!」

「……へへ、どうだ……道具の力をてめえの力だとカン違いしてやがるデクノボーが……。御自慢の鎧の中身の方は、こんなに小せえ炎でも防げねえようだぜ……?」


 シュトルフはたまらずアキラを貫いている剣を手放し、後ずさった。


「この程度……消えるまで耐える事など……」


 苦痛に顔をゆがめるシュトルフ。


「おう、そうか。がんばりな!

 ……さすがは魔法を遮断する鎧、しっかり魔力が外にもれねえように封じ込めてるじゃねえか」


 シュトルフは、鎧の内部で燃え広がっている炎を感じながら苦悶していた。身を焦がす炎を、叩いて消す事も出来ないのだ。


「あぁ……がぁああぁっ……!」


 きな臭い匂いがし始める。鎧の中で、アキラの放った炎がシュトルフの身体を焼きながら、高温で燻り続けていた。

 シュトルフは、たまらず鎧の留め金に手をかけた。


「留め金をはずすのは止めといた方がいいと思うぜ?」


 アキラは言った。


「もちろん、鎧を脱いじまうつもりはねえんだろうけどよ。おススメはしねえ」


 アキラの言葉を聞く余裕もなく、シュトルフは鎧の留め金をはずした。


 次の瞬間、シュトルフの身体が炎に包まれた。不完全燃焼を続けていた炎に、外気の酸素が大量に供給され、一気に燃え上がったのである。


「あああぁぁっ!! ああがぁああぁぁっ!!」


 シュトルフは倒れこむようにプールへ飛び込む。


「だから言ったろ! フラッシュオーバーってヤツだ。

 ……ついでに教えといてやる。水ってのは……雷撃系のサンダーを、良く通すんだぜ……。鎧の中まで、水が呪文を通してくれるってわけだ」


 鎧の重みで思うように身動きがとれないでいるシュトルフ。アキラの周囲に再びマナが集中する。


「こんなもんじゃ百億分の一にもならねえが……スゥに手を上げやがった罪、しっかり償ってもらうぜ……。

 ……紫電!! 雷光!! ……招来ッ、裁きの稲妻!! 轟雷絶獄ライトニング・デス・ヘル!!」


 轟雷がとどろき、シュトルフの悲鳴をかき消す。イオンの匂いがフロアを満たした。


「これで……とどめだ!!」


 アキラは間髪入れずに次の集中をはじめる。


「ひ……ひい……っ!!」


 シュトルフは恐慌に捕われながら、アキラとは逆のプールサイドに逃げようとしていた。


「……極寒の氷の柩の中で……永遠の眠りにつくがいい……安らかなる悪夢を……。獄凍氷撃ヘルケルビン・レイ!!」


 一瞬にしてプールの水が凍りつき、シュトルフの身体は氷付けになった。


「言ったろ……? 身体使って戦うだけのゴリラに、この俺様が負けるかってよ……。

 挑発に乗って考える事をやめちまったら、ただでさえアホなのがもっとアホになるぜ……? 覚えときな……」

残すところ、あと一話となりました。


剣に貫かれた少年魔法使い。

氷漬けになった剣士。


さぁ、決着の行方は……?



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