ボロアパートを襲った災害
挿絵の画像を作成する際には、「Ainova AI」を使用させて頂きました。
通学路から少し外れた所にあるボロアパートが、ここまで荒廃を来したのは極々最近の事だ。
9月上旬に上陸した大型台風は、木造集合住宅の瓦も外壁も容赦なく吹き飛ばし、所々で構造材が覗く無残な姿に変えてしまった。
入居者は無く、高齢な大家とは連絡がつかない為、役所も困っているらしい。
そんな大人達の心配を尻目に、子供達はボロアパートをお化け屋敷に見立て、アレコレ噂話を付与して楽しんでいたけど。
「見て、和歌浦さん!2階に誰かいたよ!幽霊かな?」
同じ堺市立榎元東小学校3年1組の袖掛町子さんに促されて目をやれば、アパートの窓辺に痩せ気味の老人が呆然と立っていたんだ。
「オイオイ、お町…あんなハッキリ出てくる幽霊なんて、有り得ないだろ。」
この「お町」というのは、私こと和歌浦マリナが袖掛さんに付けた愛称だ。
「大方、大家の爺さんが修理費を工面出来ずに途方に暮れてんだ。気の毒だから、あんまり見るもんじゃないよ。」
「う、うん…」
家路を急ごうとした次の瞬間、私達を激しい縦揺れが襲ったんだ。
「地震だ!怖いよ、和歌浦さん!」
「落ち着け!大丈夫だ、お町!」
怯える同級生の手を引き、私は付近の公園へ逃げ込んだんだ。
公園の中心で屈み込み、赤いランドセルで頭を庇う。
避難訓練で習った通りの対応をしていたら、やがて揺れは収まっていた。
余震を気にしながら立ち上がると、見慣れた景色に異変は無い。
只1点を除いて…
「ああっ、和歌浦さん!アパートが崩れてる…」
普通の建物なら難なく耐えられる微弱な揺れでも、台風で著しく傷つけられたボロアパートには止めの一撃になってしまったようだ。
「お町!あの爺さんヤバくないか?」
「そうだよ、和歌浦さん!」
恐る恐る駆け付けた私達が目にしたのは、瓦礫の下敷きになった老人の無残な姿だった…
「確かに見たんだよね?お爺さんが窓辺に立っているのを。おかしいな…」
第一発見者である私達の事情聴取を担当した婦警さんは、狐に摘まれたような顔をしていたんだ。
「大家のお爺さん、地震で死んだんじゃないの。鑑識が言うには、あの台風の日より以前に病死していたみたいなの。」
婦警さんの話が本当なら、お町と私が見たのは果たして何だったのか。
誰にも看取られず死んだ大家の老人が、見つけて欲しくて現れたのだろうか?