契約書と寝ぐせ?
ドラゴン(ターナー)の生態がまた一つ追加されたようです
俺らが国に戻るときにはすでに夜になっていた。
大きな門がゆっくりと開けられ、俺らは国の中へと入る。
電気という概念はないから、明るくするためには、炎を使っている。
だから、めちゃくちゃ明るいということはなく、ただ炎の柔らかな光が国中を照らしている。
つかれた俺は、城にすぐ戻った。
わけではなく、国の酒場へと行く。
もちろん年齢が年齢ということもあり、酒が飲めることはないから
わざわざフードをかぶり、顔を隠し正体がばれないよう酒場へとはいる。
酒場は、どんな時でもにぎわっている。
何人かで小さなグループができ、そこら中から笑い声やら
時には酔っぱらいすぎて気分がよくなったのか奇声が聞こえてくることもある。
えっ?
そんなところになぜ俺が行くのかって?
そりゃぁ。
俺がドラゴン使いって噂を流すためだよ。
今のところ俺は何か自慢できるようなこともなかったし
ただ国王の息子だからボンボンだろ、みたいな目で見られることも少なくなかった。
ここらでちょっと、噂でも流しとこうかなって思って。
そして俺は、グループになっているところへと入っていっては自分の武勇伝について語った。
そして、満足した俺は、城へと戻り、玉座の間で父上と母上がいる前で報告する。
もちろん『テイム』なるスキルが発現したと嘘を少し織り交ぜて。
「そうか、メリルにはそんなすごい能力があったのか」
父上は、感心したような声で言う。
しかも、目にはうれし涙なのか、うっすら涙が光ったのが見える。
「ドラゴンさん、でいいのかな。うちのメリルをよろしく」
と母上は、俺のそばにいるターナーにこうお願いをする。
いちおうターナーには、言葉を話せない設定にしといてと、言っておいたので、一礼だけしてもらった。
「そうとなれば、メリルの就任式を開かねばな。まぁ、時間も時間じゃし、今日はひとまず眠りなさい」
と、父上は、俺におつかれさまと続けた後、部屋に戻るように指示をする。
俺はいつものように軽く礼をしてから玉座の間を後にする。
ターナーは、一応俺と同じ部屋で暮らすことにした。
今まで広かった部屋も、ターナーがいるというだけで少し狭くなったような気がする。
そういえば、ターナーってどうやって寝るんだろうか?なんて考えていると
ターナーが俺の机の上にある白紙を取り出しさらさらと何かを書き始める。
そして何かが書かれた紙を俺のほうへと出す。
「なになに、契約書?これにサインしろと」
「うむ」
とターナーはサインをしてほしいところを指さす。
異世界だからさ、契約みたいのはあると思っていたけど、俺の想像する契約とかってさ血を吸って成立とか、ファンタジー要素があるかと思ったらちゃんと紙でやるのね…。
まぁ、ターナーは、俺と同じ世界から転生してきから、この契約書が普通だったから当たり前なんだけどさ…。
「まぁ、約束は守るとは思うけど、一応こういったことはしっかりしとかないとな」
とターナーが言う。
「わかりましたよ。一応、内容は確認させてもらいますからね」
そして契約書に目を通す。
大体は話してくれた内容と同じだった。一点項目が加えられたのを除けば…。
大したことはないんだけど。
それは、肉の提供にとどまらず、野菜もきちんとターナーに提供することという項目だった。
いや、健康志向かっ。
ドラゴンも健康を気にする時代なのかっ。
いや、でもターナーはもともと人間だしなぁ。
なんて思ったけど、そのくらいだったら大して変わらないのでさらさらとサインをしてターナーに渡す。
受け取ったターナーはなぜか破る。
「せっかく書いたのに何しているんだ」
「いや、ただ、形式的なものだったし、なんだかお前さんは信頼できそうだからこんなものは要らんな、と思ってさ」
何のために書かせたんだと言おうとしたけど、無粋だと思って喉元でどうにか止める。
そしてなぜだかわからないけどもう一度握手をして
「改めてよろしく」
というと、ターナーも、あぁと言ってそれに応じてくれた。
そして俺らは寝た。一応別々にね。
朝起きると、ターナーは先に起きていた。
そして俺は強烈な違和感に襲われる。
なんか…。ターナー、どこか違わね?
バランスが悪いような…。
あっそうか、角が変な方向に曲がっているのか。
これは、言ってあげたほうがいいのか。
でも、治らないものだったらすごいショック受けそうだしなぁ。
どうしようか?
そうださりげなく気づかせてあげればいいんだ。
俺は鏡を机の中から取り出し、自分の髪を整えるそぶりを見せる。
「そういえばターナーはさ、鏡なんてこの世界でまだ見てないでしょ。ここにあるから使ってみたら?」
ターナーはうーーんというそぶりを見せてから
「確かにそうだな。言葉に甘えて…」
そして俺は鏡を手渡す。ターナーは鏡をのぞき込む。
どういった反応をするんだ?
俺はなぜか、興奮してきているのを感じる。
「あっ、あぁあ、うわぁあ」
ターナーは焦ってるように見える。
「昨日からこうだった…。のか?」
ターナーは曲がった角を指さし俺に聞いてくる。
「いや、昨日はそんなんじゃなかった気がする」
ターナーはふぅーっと大きく息を吸い込んでから
「よかったぁ~~。寝癖がずっとついてたのかと思ったよ。ずっとこのままだったら恥ずかしかったわ」
と言って曲がった角を軽く触ると、昨日のようにまっすぐに治った。
「ええぇぇえーー。それ、ただの寝癖だったんかい」
俺は再びドラゴンの寝癖は角が曲がるという無駄な知識を手に入れる。
なんてやり取りをしてから俺たちは、服装などをと整えて再び父上に謁見しに行くのだった。