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召喚されてきた五人の他人  作者: あま かける
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山崎の部屋に春原が訪ねてきた

 どうやら4人全員が魔力の使い方の第一歩を踏み出したことを確認して山本は終了を宣言した。

「練習は続けていただきたいんですけど、最初からとばすと場合によっては倒れてしまいますのでほどほどに。今日はこれまでにしましょう」

 それぞれが用意された部屋に入る。

 部屋の広さは6畳ほどだろうか。三方の壁際に机と椅子のセット、ベッドとタンスがそれぞれ置かれたのみのシンプルな誂えの部屋だ。トイレや浴室などの水回りは共同なのだろう。

 山崎はベッドに身体を横たえ、休むことにした。『魔力ねえ』あの説明が正しいとして、何ができるもんのだろうか?と考えてみる。制限があるものの、これまで考えたことがないようなことができる、となると難しい。

 思考が散逸しそうで疲れてきたころ、ノックの音がした。

 訪ねてきたのは春原だった。

「山崎さん、ちょっといいですか?」

「いいよ」少し部屋を見渡し、椅子をすすめた。一つしかないので山崎はベッドに腰かけたままだ。

「どう思いますか?」

「どう、とは?」

「この世界のこともそうですけど、ほかのメンバーについてです」

 春原が言いたいのは、この、よくわからない環境で行動をともにする彼らに対する不安のようだ。

「まずは、山本さんです。あの人、最初は、『すぐに帰してくれ』とか言ってましたよね」玉座の間での話だ。

「で、食堂、でいいのかな、さっきの部屋では積極的にこの国に協力するように仕向けていました」

「最初はすぐに帰りたいと思ったけど、それができないからしてもらえるように方針をかえたってことじゃないかな」

「それでもいいんですけど、自分は2度目だって言ってましたよね」

「言ってたな」

「帰る方法があるとわかっている人の言動としてはちょっと違うような気がします」

「そう考えると違和感があるかもしれないけど、わたしが考えたのはちょっと違う」

「と、いいますと?」

「わかっていることからすると、というか、わかっていることは少ないんだけどね」

「はい」

「この世界には魔力がある」春原は黙って頷いた。

 山崎は考え、言葉を切りながら説明を続ける。

「召喚されたわたしたちはこの世界の人たちよりも魔力、魔筋力か、その力が強い。もしくは、素質が高い。

 山本さん自身は魔力を使えるけれど、世界をまたぐような力はない。

 召喚したこの国は我々をもとの世界に戻すつもりがあるかはわからない。

 となると、帰りたがっている我々の中の誰かが帰還の方法を見つければ、そもそも魔筋力が強いわけだから、実現の可能性が高い。

 と考えたんじゃないだろうか」

「それなら、納得できます」春原は素直な性格をしていた。

「だけど、これも想像でしかないから、我々の中で帰還の魔法に到達できるかはわからないんだよな」

「そうなんですよね。で、ほかの人のことなんですけど」

 まだあるのか?山崎は春原の顔を覗き込んだ。

「渡辺さん、あの人、術にかかっていたって話ですけど、その前にイライラしすぎじゃないでしょうか?」

「まあ、いきなり異世界にって言われてその上で戦えって言われたら、平静じゃいられないよね」

「そうですけど、山崎さんは落ち着いてますよね」

「そう見えた?けっこう動揺してるんだけどな。まあ、年齢と仕事のせいかもしれない。営業やってきて、上にも下にもお客様にも、それなりに平静なような顔をしながら頭の中で解決策を考えるってやってきたからね」

「渡辺さんって、そういうことが出来てない自分にいらつくのか、ちょっと危ない感じがします」

 実は、山崎の渡辺評も似たようなものだった。目的、目標が同じ集団でそれ以外のことを重視するメンバーがいると目標への達成が遠のくことがある。

「リーダーになりたがりってあたりかな?」

「はい」

「リーダーなんていいものじゃないんだけどな。まあ、やりたければお任せしてもいいんだけど、メンバーの話をちゃんと聞いてくれればね」

「リーダーのいいことってないんですか?」

「あるけど、それは、仕事として異質なんだよ」

「異質?」

「リーダーの仕事はメンバーとは違う」

「はい」

「リーダーは全体の方針を決めてメンバーに仕事を割り振る。わかりやすく言うと、調整役だね。そしてメンバーは、それぞれの担当の仕事を一生懸命やって成果を出す。

 メンバーは割り振られた仕事そのものに対する熟練とか完成度に達成感を得るけど、リーダーはそのメンバーの成長を助け、全体のバランスをとり、チームとしての成果を上げる」

「視点が違うんですね」

「うん、で、これが一番大事な仕事なんだけど」

「はい」

「チームの成果を会社に認めさせてチームメンバーの待遇をよくすること」

「そこまで考えるんですか?」

「そこまで考えないリーダーは失格だと思うよ」

「だって、待遇を評価するのは会社ですよね」

「そうだけど、リーダーがちゃんと報告しないと会社は知らないわけだし」

「それは大変ですね」

「大変だけど、しなくちゃいけないことだと考えている。しょせん、ギブアンドテイクの関係だから、正当な評価がなければうまくまわらないよ。ちなみに、酒の席でサラリーマンが一番口にするのは何だと思う?」

「なんでしょう?」

「俺は優秀だ」

「え?」

「このままの言葉じゃないけど、仕事に生きてきたとか頑張っているとか、そういう話をまとめると、そういうこと。で、なぜそういうことを言うかというと」

「と?」

「もっといい待遇であるべきだ。という不満」

「みなさん、大変なんですね」

 それを聞いた山崎はにっこり笑ってこう返した。

「楽しんじゃえばいいんだよ」

「楽しむ」

「そう、ゲームだとでも思えばいい」

「現実はゲームとは違うでしょ?」

「違わない」

「え?」

「工場は工作機械だとか工具を使ってより良い道具をより速く作る戦いをしてる。営業はニーズを把握する能力を発揮して敵である他社製品と比較しながら相手の懐に飛び込む。会社との折衝の話だと、営業成績という武器を持った。経営陣は金を出したくない。で、どうするか?」

「どうします?」

「今、少しの金を出すことで次の成果が得られる。それをなくしていいのか?って話をする」

「ははあ」

「この話をするときにも、前回はどういう話をしたのか、どういう話し方をしたときにどういう反応をしたのか、を考えて修正する」

「それは、ゲームみたいですね」

「そう、上司攻略ゲームだと思えばいい」

「下の人たちは与えられたクエストを攻略するゲームをしている。管理職はその全体を管理運営しながら報酬を得るゲームをしている。ですか」

「もちろん、いい報酬をゲットしたときには達成感と報酬そのものとで嬉しい、で、もっと大事なのは、メンバーの報酬をアップさせると、モチベーションが上がってもっと良い成果が出るようになるってことかな」

「まさしくゲームですね。冒険者のユニットだってレベルアップなんかの報酬次第のところがあります」

「まあ、そういうこと。というか、現実がゲームに似ているんじゃなくて、ゲームが現実をコピーしているんだけどね」


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