山本の指導の下、力を得る。
山本の指導でPKの練習をした。
「本当はB玉のような転がりやすいものがいいんでしょうけど」
紙ナプキンを丸めたものを各自テーブルの上に置く。
「この世界でも紙の使い捨てができるのか。文明レベルとしては結構高そうだな」
工藤が感想を言う。
「手を横からかざして手のひらから風を送るイメージで、こう」
と山本が実演してみせる。紙のボールがぎこちなく動く。
「まあ、これは、触らなくとも動かせるという実演ですけど、皆さんは少し触れた形からはじめてください」
「と言うと?」
「さわらないでも動かせるということを実演したのは、皆さんの頭の中から疑いをとりたかったからです。まだ、理性では懐疑的かもしれませんけど、そういうこともあるかな?ぐらいまでには理解していただけたかと思います」
「むしろ、さっきの光だよね」
「不思議体験ってやつだね」
「で、触るのは?」
「PKは不思議な現象ですが、物理法則にしたがう。ということです。いまある知識のほかに魔力が加わるとイメージしてください。この紙の玉を動かそうとしたとき、指先でちょんとつつくのと、てのひらで仰いで風を起こして動かすのと、どちらが疲れると思いますか?」
「そりゃ、風だね」
「はい。手で仰いで空気を動かして風を作って動かすのと比べたら、直接触った方が効率的なんです」
「となると、敵の頭の上に岩を落とすとか、そういう遠隔攻撃って」
「崖の下ならできなくはないと思うのですけど、真上を掘って落とす、しかも的まで崖からどれだけ距離があるか見て調整して、すごく疲れますよ。その力の百分の一も使えば手元の石を銃弾に匹敵するスピードで飛ばせますし、その方がダメージも命中率も大きくなるかと思います。
「できるだけ楽に仕事をすることを考えるってことだな」
「楽にですか?」
「大事なことだよ。どこの職場でも、とは言わないけど、たいていの職場ではやっていることだ。効率化って言ってね」
「根性で乗り切るとか言っている会社は従業員が疲弊して競争に負けてしまうわけだ」
「楽にもいいですけど、お手元に集中してください。どなたもまだ動かせてないですよ」
「リラックスしたら動かせるかと思ったんだけど」
「さすがに最初は集中してください。ほぐれたとは思いますけど、心理的抵抗がまだあるかと思いますので」
「よし、集中」
「目力はいりません、手のひらから力が伝わるイメージを持って」
5分ほど経ったころ。
「あ」春原が声を出した。ころりと半回転した。
すると、皆が次々と動かせるようになる。
「次は、もっと強く動かすように練習してください。そしてより速く、より重いものを、と強化し、ある程度の力がついたら、方向や力をかける加減を練習するようにしてくださいね」
「山本さんは、どのくらい命中できるの?」
「命中率は高くありません。銃弾の重さのものを飛ばすだけなら1kmぐらい飛ばせるんですけど、重力や風の影響を受けたりするのを修正するのが苦手でせいぜい100m」
紙玉は、一度動かせてしまえば雑談しながらでも動かせている。左右の手の間を往復させながら皆は話を続けた。
「それでもすごいですよ。弓道で30メートルので30センチの的にって聞いたことがあります」
「それは近的な。遠的っていうのもある。そっちは60メートル」
「那須与一が70メートルだったか」
「三十三間堂って、100メートル越えでしたよね」
「たしか、121メートルだったかと思う」
「そこまで届くのはすごいですね」
「そうじゃない」
「え?」
「すごいのは届くんじゃなく当てることでもなくて、連続して射て当てる競争をしていたってこと、そして、その記録。24時間で一万三千本以上射て、たしか六割、8千以上あてたと覚えている。江戸時代、17世紀の話」
「24時間」
「すごいっすね」
「その後、この記録は破られていないってところもすごいね」
「まあ、この24時間やるっていう競技がいつまで続いていたのかまでは調べてないのでわからないんだけどね」
「あー、ネットで調べたい」
「そうなんだよな。簡単に調べられるのはよくないって言う人もいるけど、情報に簡単にアクセスできるっていうのは大事だよね」
「それには賛成だな。生活の上で、あるいは仕事上覚えなくちゃならん知識と好奇心でアクセスできる情報とは別だと思う」
「好奇心でアクセスした知識を蓄積して他に活かすこともありますしね」
「ここの地理や歴史、政治に関する本、資料を読みたいね」
「本はあるでしょうけど、読めませんよ」
「読ませてもらえないってこと?そんなに普及はしていないとか」
「そうじゃなくて、ここの言葉で書いてありますから」
「あ」
途中から会話だけになっており、誰が言ったかということも書いてありません。これも仕掛けの一つなのですが、読みづらいというご意見が多ければ改稿します。




