渡辺さんの推察
「あれ?渡辺さん、食がすすみませんか?」
春原が渡辺の様子を見てそう言った。
「なんの肉かはわかりませんけど、牛っぽいですよ」
「いや、そうじゃなくてだな。」
渡辺はグラスの水を一口飲んで山本の方を向いた。
「山本さん」
「はい」
「あなた、この世界は二度目というお話でしたよね」
「はい、ご質問があれば、なんなりと。ただし、前回はこの国ではなく、内海を挟んだ対岸のサギャー国でしたから、このワウ国についてはそんなには」
「いや、そこじゃなくて。一度現世というか、日本に戻ったときの話なんですけど」
「はい」
「そのときも死にかけたんですか?」
「それはよくわからないのです。」
「とは?」
「寝て起きたら戻っていたもので」
「戻ってどうでした?」
「どう、とは?」
「失礼、順番を間違えたようです。最初の転送のときはどうでした?」
「気絶してました」
春原がステーキを平らげ、二人を見ながら言う。
「栄養が足りてなかったんじゃないですか?」
一瞬、手を止めた工藤が春原にむけて皿を押し出す。
「足りないのは君じゃないかな?食べ盛りの高校生なら足りないだろう?これ、食うか?」
「マジっすか?ごっつあんです」
「ぼくのもあげるよ。入るなら、だけど」
「喜んで」
「で、今の話は転送の条件についてってことかな?」
山崎が渡辺の様子を見ながら尋ねる。
「そうなんですけど、よくわかりませんね。」
「まあ、魔力ってことなんだろうけどね」
「あとは意識を失っていることぐらいかな」
「それ、大事ですよね」
黙って聞いていた工藤がゆっくりと食べ終わってナプキンで口を拭く。
「転移は意識がない状態で起こる。それには魔力が必要。僕らはここの人間より強い魔力を使える資質があるらしいけど、意識がない状態では使えませんよね。」
つまり、その他の条件を全員がクリアしてもだれか一人はこの世界に残らなくてはならないということらしい。