さぐりさぐりのお茶会
「とりあえず、わかっていることをたしかめよう」
工藤がポケットからスマホを取り出した。
「スマホ?」
春原がのぞき込む。
「うん。メモをとろうと思ってね」
「それでメモをとるのはいいけど、充電できないのなら後々こまるでしょう」
渡辺が首をかしげる。
「魔法が使えるようになったら、真っ先に充電魔法を覚えるさ」
「それ、いいですね」
春原が応じる。
「じゃあ、俺から」
工藤が口火を切る。
「どうぞ」
渡辺がやや不快そうな顔で促す。
「まずは、自分たちで魔法を身につけないと元の世界に戻れない。次に確かめなくちゃならないのは、この世界の国際情勢、どんな国があってこの国と敵対しているのか、連携できる国があるのか、それぞれの戦力はどれくらいなのか。」
続けて工藤が話そうとしたとき。
「わかった」
山本が口をはさんだ。
「え?何が?」
「これを見て」
山本が右手をテーブルの上に差し出した。なにか持っているのだろうか軽く握られている。
甲を上にして出されたふっくらとした手、その手首には赤ん坊のようにしわがある。
山本はその手首をゆっくりと返し、掌がわを上にした。そして小指から開いていく。そして薬指。まだ何も見えない。
「うわ」
その手を見ていた4人が声を上げた。指の中から閃光が走り、それぞれの目を貫いたのだ。
「おしまい」
山本はそう言って手を仕舞った。
「なんだよいったい」
渡辺が睨めつける。
「みなさん、お忘れじゃないですよね」
山本は茶のカップを口に運ぶ。
「ここは、魔法のある世界で、私たちは異邦人なんです」
「それを前提として対策を練ろうとしているんだけど」
渡辺が肩をすくめる。
「だけど、用心が足りません。というか、ちょっと遅かったです」
「山本さんは、この国にくるのが二度目、とか?」
山崎が確認する。
「するどい。というか、今の魔法を見ればわかりますよね」
「あの光は?」
「魔法です。魔法でみなさんの目を覚ましていただいたのです。魔法も万能じゃない、というか、限界もあるんですよ。それが魔筋力の強さによるものなんですけどね。で、この国では私たちをいいように使うために暗示のような魔法をかけました」
「暗示」
確認するように繰り返したのは渡辺。
「そう、暗示。渡辺さん、頭痛、いらいら、消えてませんか?」
「言われてみれば」
「すっきりしてるでしょう?彼らは渡辺さんに、この場を乱すような役割を与えたのだと思います。
それから工藤さんは場をまとめよう、話をすすめようとしてらしたようですけど、どうでしょう?」
「それも魔術で誘導されていたと?」
「そうですね。渡辺さんが場を乱せばここにいるそれぞれの性格がわかります。それだけだと
協力態勢を作るのが難しい。そこでまとめ役が必要となるわけです。」
「おれ、ぼくには?」
「春原さんにはすでにひとつ魔法が使えるようにしたようですね。」
山崎は山本が高校生の春原をさんづけしたことに感心した。
「なんだと思うんですか?」
「ステータスチェック。」
「わかります?」
山本はにっこり笑って続けた。
「おそらく、大きな数字が出ているんでしょうけど、それを信用しちゃだめですよ。」
「どういうこと?」
「そこに出ているのは主観的な数字であって、ほかの人と比べる意味がないってことです。」
「えーー?そうなの?」
「おなかがどれだけすいているかっていう感覚、じゃなければ疲労度の逆を数値化したのがHP、魔力のたまり具合を数値化して見せているのがMPかな。」
「それは数字にしなくても感覚でわかるわかるけで、いらない能力だよね。」
「目安にはなるので、いらなくはないんだけどね。」
「それで、魔筋力とやらが備わっているのはわかった、というか飲み込むしかないんだけど、魔力の使い方、魔法って言ったらいいのかな?それを教えてもらえたらうれしいんだけど」
渡辺が春原の真似をして右手で架空のタブレットを出す仕草をしながら山本と春原の顔を交互に見て言った。
「みなさん、おなかすきませんか?」
山本がそう言ってスマホを取り出した。それぞれも同じようにスマホや腕時計を確かめる。
「19時50分か、いや、これは日本時間であってこっちの時刻はわからないけど、夕飯の時間ではあるね。」
工藤が左手で腹をさする。
「じゃあ、晩御飯を出してもらえるよう、頼みましょう。なにか、食べられないものはあるかしら」
それぞれ、「ない」と答えた。
「良かった。基本的にはこっちでも肉魚野菜穀物の食事で味付けが違うだけと思ってもらえればいいと思うんだけど、好き嫌い言わないで食べられれば生き残る確率は上がると考えてもらえたら嬉しいな。」
山本はドアの外の衛兵に食事を持ってくるよう頼んだが、それは日本語で言っているようだった。
「山本さんに聞きたいことがありすぎて、なにから聞いたらいいのかもわからなくなっている」
工藤はそう言ってお茶を飲みほした。