fist01:念動変身
念動変身の口上の元ネタ、プラネット・ウィズからきてたりしてます。
あっちもウルトラマンのような要素がありますからね
行きつけの駅前のお好み焼店“かげろう”で食事を済ませた後、久我と白雪は帰路についていた。
気づけば、時間は八時前で他愛もない話をしていただけなのにどうも時間が経つのは早いらしい。
エリザベスに腹を空かせたまま、帰宅したのかと心配のメッセージが送られてきたので、白雪と食事をしたと送れば、「その話、お姉さんにしっかり聞かせなさいね」と帰ってきたので、明日は大変そうだ。
「先輩、ご馳走様でした」
「別にいいって。そういうのは、目上がするのは当然のことだろ?付き合ってくれてありがとな?」
「アランソン先輩の事は、良かったんですか?」
深々と頭を下げる白雪、久我は気にすんなと手をヒラヒラさせて歩き出す。
本当ならば、エリザベスの奢りで焼きそばだとかもんじゃだとかを食べる予定だったので、彼女の分も支払ったので財布も軽くなったのだが、新しく知り合えた後輩に奢るともなれば、悪い気はしない。
食事中、対面するように座席についていたのだが、生地を焼くところから切り分けまで全て久我がすると言ったものの、彼女にボールやら一式奪われてしまった。
焼くことも、切り分けも何から何まで手際がよく、エリザベスにさせられていた久我としては、誰かにしてもらうというのは新鮮だった。
「あの人とは、いつでも来れる。明日にでも聞かれるさ、今日のことをな」
白雪の言葉を深く考えずに久我は受け取り、行くぞと急かした。
色素の薄い髪の男子高校生と浮世離れした雰囲気の女子高生の組み合わせともなれば、通行人の注目が二人にも集まる。
“かげろう”で顔馴染みの女将が今日は不在だったのが幸いか、見られたら、エリザベスから乗り換えたのかと囃し立てられること間違いなしだ。
「先輩は、私のことを本当に知らないんですか?」
「なんだよ?急に。俺とお前は今日がハジメマシテだろうが?中学でも一緒だったのか?」
白雪は久我と並んで歩く。
五月、ゴールデンウィーク明けから二日目の今日、まだまだ日は強くなってはいないものの、気温が高く、少々蒸し暑さを感じる。
身長差がある二人、必然的に白雪が久我を見上げる形となるが、白雪の方から見ても久我に動揺は見られない。
どういったときにこの人は焦るのだろう、と興味を覚えながらも、いまいち要領を得ない答えに彼らしさを感じた。
「先輩みたいな人、中学校が同じなら忘れませんよ」
良い意味でも悪い意味でも、と付け加えられた言葉に久我は意味がわからず、こめかみをかいた。
「悪ィ、お前が何を言いたいのかさっぱり分からん。何が聞きてぇんだ?」
「私の悪い噂とか聞いてなかったんですか、ってことです。ちょっと、女子の方からはよく思われてないようで」
ニブいと女の子の受けが悪いですよ?
あァん?余計なお世話だっての。
そんなやりとりをしていたが、白雪から自己紹介をされるまでは鳳白雪と言う名前を久我ははじめて聞いた。
あの噂好きでお節介な生徒会長なら何か知っていそうだが、人を悪く言うタイプでもないと思っているので、聞いたことがなかったのであれば、悪い奴ではないのだろうと思うこととした。
「あんまり、そーゆーの好きじゃねえんだよな。なんていうかさ、ずるいから」
「……ふふ、ほんとに純粋なんですね」
かりかり、ともみあげをササッとかいた久我の言葉に騙されやすそうなタイプだなぁと白雪は思った。
感情表現豊か、それも人並み以上は豊かであろう。
リアクションもとってくれるし、初めて会ったばかりの後輩を特に下心もなく誘ってくれたところとか“良い人”である証拠になるのは間違いないだろう。
人と打算なしで付き合えるのは大したものだが、それにしたって久我は威圧的な外見に対して危なっかしすぎる。
「子供みたいに言ってんじゃねえよ。へそ曲がりの黒助よりはいいだろうが?」
「へそ曲がりの黒助……?」
アーケードを通り、ここを曲がってくださいと自然と白雪を久我が送らせることとなっているが、このお人好しな少年のことだ。
それを快く引き受けてくれるだろう、と善意に付け込む形となりながらも、会話を続けて歩を進めつつ、白雪は久我の言葉に首を傾げる。
本当に独特の感性を持っている人なのだなぁ、と思いつつも言い回しが高校生のそれではないので、誰かの口癖が移ったのではないかと思った。
「腹黒いってことだよ。へそ曲がりの黒助」
「なら、最初からそう言ってもらえるとありがたかったんですけど?」
気にすんな、と大きな口を開けて欠伸をする様子に意外とマイペースなのでは、と白雪は思った。
「じゃあ、話題を変えて。先輩、最近、この町で未確認生命体の出る話知ってます?」
校則のことは断片でも覚えているくせに、噂には疎いのは天然が入っているからではないのか。
純粋な彼であれば、もしかしたら興味を持つのではないかと思い、住んでいる地方都市のこの町で最近話題の一つを白雪は思い出した。
「なんだよ?両腕をちょきんちょきんさせた、バルタン星人とか出てくるのか?あんなのいたら、もっと人に見られてんだろうよ?」
「具体的なんですね……、というか知らなかったんですね。友達と話したりしないんですか?」
「なんでかよくわからねえけど、浮いてるんだよ。だからしねえ」
久我の言葉に白雪は彼には悪いが、説得力を覚えた。
天然でマイペース、独特の感性を持っているのであれば、周囲から浮いているのも頷ける。
それに生徒会長もなかなかにハイテンションな女性だ、そういうところが彼女の中で引っかかって気に入られたのだろう。
不服そうな様子で唇を尖らせている様子は幼子にも見え、可愛かった。
そのとき、何かが正面から猛スピードでこちらに飛んできて、―――気づいたときには、白雪は久我に肩に手を回され、地面に押し付けられるようにされていた。
「な、なにするんですか!?」
「責められんのは後で聞く!……バルタン星人の話してたらよ、バルタン星人が来たってよくわかんねえな……!」
――――普通、伏せろだとか言うでしょ?信じらんない。
久我の言動に内心、ご立腹なところに白雪が顔を上げてみると、
「なに、あれ……!」
それは、一つの頭に二つの顔、数メートルはありそうな双貌の怪物とも言うべきものだった。
先ほど飛んできたものが何か、後ろを見て確認してみれば、店のシャッターには怪物の武器だと思われる大きな刃物が突き刺さっている。
怪物の武器だろうか?よくみると、それは、バルタン星人のハサミの様な武器だった。
「ぐぎぎぎぎぎ、ぐひぃっ!」
右の顔が目をぐるぐる回しながら、唸り声を上げる。
唾液を垂らしながら、歯をむき出しにして唸る様子はお世辞にも可愛いとは言えない。
「対象の生存を確認、排除に映る」
左の顔が右の顔とは対照的に機械的に言葉を述べ、壁に食い込ませた鋏を回収するべく、何もついていない左腕を向けると鋏がそこにメジャーの巻き戻しのように勢いよく戻っておさまる。
「……!逃げろ!白雪!」
怪物がそのつま先の尖った足を少し動かしたところで、久我は妙な予感がしたので、白雪に怒鳴る。
「でも、先輩!先輩も来ないと!」
言われたとおりに鞄を手にするが、白雪は久我が気がかりだった。
もしかしたら、この人は、自分が今思ったとおりの行動をするのではないか。
そして、その行動は当たることとなる。
「お前が逃げる時間くらいかせがねえとな!俺も逃げてちゃあ意味がねえ」
あたりが恐ろしいほどに静まり返った中、武器代わりにとその辺においてあった赤いコーンを手に久我は怪物の方へと駆け出す。
「目標を変更」
怪物は久我の方に狙いを定め、姿を消したかと思えば、久我の首をその鋏で捉えようとする――――!
「先輩っ!なんで、ここまで……!」
怪物の力は恐ろしいほどに強く、怪力と言ってもいい膂力を前にしては、体力のある男子高校生の久我であっても、鋏の両端を掴んでも長く持ちこたえることはできなさそうだ。
それでも、白雪の心配する声にはなんとか笑顔を作って返し、口角を吊り上げてみせる。
がーがー唸るだけの右の顔、ロボットみたいなことを言う左の顔を持つ怪物にあおりが通じるとは思えないが、やがて地面から足が離れ、ばたつかせる形となっても久我は抵抗をやめない。
「俺の足なら、自分だけ助かろうとすれば助かるかもしれねえ。だけど、そんなの格好悪いじゃねえか。明日の自分に誇れねえことなんて、やりたかねえ」
「だけど、それで自分が死んじゃったら、それこそ意味ないじゃないですか!」
そろそろ、抵抗も限界だ。
手汗が浮かび、鋏を掴む手から力が抜けて行き、時間が経つのが遅く感じる。
もしかしたら、自分はここで死ぬのかもしれない。
明日には、まだ生徒会で文化祭の催しについて会議をしなくてはいけないのに。
明日は、もしかしたら、今日知り合った後輩と話せる時間ができたかもしれないのに。
「鳳、先輩っつーのは後輩を守るもんだろうが?」
ニッと歯を見せて白雪に笑い、彼女の悲痛な表情を目にした後、久我は覚悟した。
『君のその雄姿、確かにみせてもらった』
赤い光が、意識を手放す久我に向かってきたのが見えた。
そして、聞こえてきた声はとても優しかった。
※※※
そこは、妙な場所だった。
明るくかつ、それでいて暖かさと安心感を得られる不思議な場所。
自分の名前を呼ぶ声がしたことから、久我は目を覚ます。
怪我はしていないし、不思議と力が漲るのを感じる。
「そうだ!鳳は!?あの怪物は!戻らないと、あいつが危ない!」
辺りを見回すも、白雪も怪物の姿が見当たらない。
もしかしたら、あの赤い光も敵だったのではないだろうか?
そんな疑念を抱いているところ、一筋の赤い光が人型になった。
どことなく、幼少期の久我が好きだった宇宙の平和を守るヒーローのような赤い顔で青いパイロットスーツのようなモノを着た人型をしていた。
『落ち着け、少年よ。少女の安全は私が保証する』
人型は、言葉の後、しっかりと頷いた。
「どういうことだ?それに、お前は誰だ?」
自分がかつて好きだったヒーローと同じ姿をしていたとは言え、先ほどに出会った非日常のせいで味方とはとても考えられない。
『私は君たちで言うところの宇宙人だ。さきほど、君たちを襲ったのはダブルフェイスと呼ばれている個体。OutsideVisitor、縮めてアウスヴィ。いわば、宇宙生物だ。私はそれを追ってやって来た』
「質問を答えていないぞ。お前はどこの誰で、鳳はなぜ大丈夫なのかを聞いている」
宇宙人は感心した。
自分が未知との遭遇を果たしてもなお、この少年はあの少女のことを気にかけている。
『私は――C.グレイト、キャプテン・グレイトと呼ばれている。今、この世界は私が君の精神世界に入っている中で起きた出来事だ。私の能力により、外ではさほど時間は経っていない。よって、少女は大丈夫だ』
キャプテン・グレイト。
それは、久我が憧れていたヒーローと同じ名前だ。
姿も、名前も似た宇宙人に出会うとは、これほど驚いたことはなく、言葉が出なかった。
「本当に、キャプテン・グレイトなのか?」
『?なんだ?この星では、私の名前は知れ渡っているのか?未だ宇宙との取り引きを公にしていない惑星だと思っていたのだが……。まあいい』
久我が後輩の少女と同じような言葉を向けると、キャプテン・グレイトは不思議そうな様子をみせる。
記憶が蘇ってきた、まさにキャプテン・グレイトはこんな感じだった。
『私はダブルフェイスを追い、この地球までやってきた。途中にあった攻撃で私はほとんど瀕死だ。しかし、君たちをダブルフェイスが襲ったとなれば、見逃すわけには行かない。そこで、私は少女を守るために立ち向かった少年、クガ・ユーゴ。君を助けた』
どこかで聞いたことがあるようなやり取りだが、久我は真剣にキャプテン・グレイトの言葉を聞いていた。
『クガ・ユーゴ。君の意識が今あるのは、私が合体している為だ。しかし、私か君のどちらかしか助からない』
「じゃあ、もし、俺が助かったとしたら、キャプテン・グレイトはどうなるんだよ!?俺を助けてキャプテンが死んだら意味ないじゃねえか!」
いつしか、久我はキャプテン・グレイトを信じることができるようになっていた。
こんな御人好しの宇宙人が自分と後輩を助けてくれたのに、肝心の本人が死んでしまっては意味がない。
そのように思えていたのだから。
『ヘッヘッヘッへッ、心配することはない。私は既にかなりの時を生きている。少年よ、ユーゴよ。これから未来ある君が生きることこそ、重要なのだ。真に少女を救いたいと思っているのであれば、私の力と命を受け取って欲しい』
キャプテン・グレイトは妙な声を出した、笑っているらしい。
まるで親のようなことを言うのだな、と思っているところにキャプテン・グレイトは胸に手を翳すと、赤く光るエネルギーのような物を手にする。
「……これは?」
『これは、グレイトパワー。念動変身、そう叫べば、君は君の思い描いた超人の力を得る』
キャプテン・グレイトが久我にエネルギーを飛ばせば、そのエネルギーは久我の手首に腕輪としておさまる。
キャプテン・グレイトの姿が徐々に薄れ始める、エネルギーが先ほどの行為で切れ始めてきたらしい。
「キャプテン!身体が!」
『これでいいのだ。私が早くにダブルフェイスを倒していれば、君を危険な目に晒すことはなかった。この死は、私の責任なのだ。君に託すことになってしまうのを申し訳なく思う。強く、優しくあってくれ。明日を生きる子供たちよ――……』
身体が消えながらも久我に近づいてきたキャプテン・グレイトは優しく久我の手に自らの両手を重ねると、その姿が光の粒子となり、消滅してしまった。
「キャプテン……。いいぜ、俺は、」
キャプテン・グレイト。
彼が幼い頃に憧れたヒーローと同じようなあり方なのであれば、彼の言葉を信じるのに十分すぎる理由となる。
腕輪がおさまった右腕を掲げ、久我雄吾は恐るべき敵に立ち向かう言葉を叫ぶ!
「念動変身!!!!」
その瞬間、眩い光が腕輪から放たれ、キャプテン・グレイトから授けられたグレイトパワーが現実世界の双貌の怪物・ダブルフェイスに捕まった久我雄吾の身体を包み込み、一筋の赤い光となる!
その夜、一人の超人が誕生した。
次回、
ロケット鋏怪獣ダブルフェイス
念動変身超人
登場