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fist00:はじまり

今年でなろうに登録して10年目だったとかで、記念作品とかそういうアレです。

ウルトラマン+平成ライダーみたいなノリでできればと。


「腹、減ったなあ」


 生徒会の仕事が終わり、色素の薄い髪の学ラン姿の少年は椅子に座ったまま、大きく伸びをしていた。

 今年の文化祭を開催するに当たり、生徒会の役職に就いている少年は長い間、会議に参加していたからだ。

 テーブルの上に置かれた籠の中の菓子類は三年の生徒会長チョイスによるものだが、会議の中でほとんど全部食べつくしてしまい、中身はカラッポだ。


「お疲れ様、ユーゴ。この後、よかったら、駅前のお好み焼きでも食べに行く?」


 資料をとんとん、と揃えながら、うなじの辺りまでの長さの金髪を持つ派手そうな印象を受けるコーカソイド系の女子生徒がユーゴと呼ばれた少年を労う。

 時間は既に五時を回っており、あと四十五分で生徒は完全に下校しなくてはならないのがこの高校の原則だ。


「お疲れ様ッス、会長。これ、文化祭までずっとやるんですよね?……それ、だいぶ魅力的かもしれないッスね」

「そーよー?なんたって、貴方は生徒会副会長ですもの。副会長が帰ったら、どうするの?それに美人生徒会長であるエリザベス・アランソンと密室で二人きりなんだから、何とか言いなさいよ?」

「超感謝してます」


 ユーゴと呼ばれた少年――久我雄吾(くがゆうご)は一学年上のエリザベス・アランソンの言葉に手を合わせ、わざと大袈裟にリアクションを返した。

 久我の反応にエリザベスは満足そうに「分かっているなら宜しい」と何とか取り繕うとはしているものの、表情から喜びが漏れ出している。

 エリザベス・アランソンはその勢いから生徒会長に入学当初に選挙に立候補し、ぶっちぎりの票差で就任した後、三年連続で生徒会長の座に君臨している。

 しかし、他の役職を生徒会長が任命する権利を使う際は前回の生徒とは違う生徒を、と教師からお達しがあり、毎年生徒会のメンバーは入れ替わっている。


「私と一緒では満足できないか、そうかそうか!ってのは置いておいて。今日は気分がいいからね、貴方の分まで奢ってあげるわ。もんじゃでもイカ焼きでも好きなもの頼みなさい?」

「アランソン生徒会長バンザイ」


 気の抜けた顔で久我は両手を挙げる。

 最早反射的であった、これも一種のルーチンワークなのだと思えば、肩の力は強くなってきたと思う。


「じゃ、私より早く来てみなさい、おーほっほっほっほっ!」

「あッ!?ずりーぞ、エリザベス!」


 言うが早いが、エリザベスは高笑いを上げながら、ご丁寧に手を立てて添え、鞄を掴んで全力疾走で駆けて行った。

 あれでも生徒会長、本来ならば、生徒の見本になるべき人物のはずなのだが、ノリと勢いで生きているのがタマに瑕だ。

 それでも、生徒会役員選挙に出馬すれば、不思議なカリスマで票を獲得していくのだから、人は分からないものである。

 あんなことを言って走っていくくせに姿が見えなくなったあたりから歩き出すのだから、妙に真面目なところのある女性だ。


 思わず、久我が呼び捨てでエリザベスを呼んでしまうまでが一つのパターンとして出来上がっている。

 入学してから二年目、どんな出会いだったか覚えていないが、エリザベス・アランソンと時間を過ごしていて退屈だったことは一度もない。

 一度だけ、生徒会選挙の意思表明の際にマニフェストを立候補者が述べて行く際に同伴人が立候補者の人となりについて説明をする役回りとされたことは、まず断るところからはじめたが。


「さてと、とっとと行く……って、アレ?」


 また明日にも会議を行なうので、ある程度、机の上の書類は直しておけばいい。

 さらっとそれすらもエリザベスはしていなかったが、久我のすぐ近くに資料のファイルを入れる箱を置いていたのは、久我がやるところまで見通していたのだろうか。

 ペンケース、自宅で確認する為にファイルの一つをカバンの中に突っ込めば、久我は普段から感じている重みを感じない。


「……アレ、忘れちまったな。取りに行くか」


 早々とエリザベスから来ていた催促のメッセージに「忘れ物とって来ますんで、いつものところなら先に行っててください」と送った後、鞄を掴んで腰につけているウォレットチェーンにつけている鍵を取り出し、生徒会室の鍵を掛けて教室へと向かった。


 時刻は日も暮れかかっており、グラウンドでは運動部が練習しているくらいで生徒会室のある二階のほかの教室からは人の気配がほとんどない。

 久我の所属する2-Bの教室に辿り着くと、まだ教室の方は空いているようで、扉を動かそうとすると難なく開けることが出来た。


「お前、一年だよな?何してんだ」

「あっ、すぐ出ます。どうして分かったんですか?」


 教室にはまだ人が残っていた。

 どことなく浮世離れした雰囲気を持つ少女で、空き教室の中で教室の後ろのほうで一人立っていたところに久我と目が合えば、視線に気づくと柔らかく笑みを浮かべた。

 綺麗どころではあると思うが、エリザベスのようなサバサバしたタイプでなく、見せる表情によっては庇護欲と嗜虐欲を煽るタイプの異性だ。

 少し動くだけで長い髪は揺れるし、その眼差しは久我を捉えて離さないので、“そういう”勘違いをする男子も少なくないだろう。


 久我が自分の席のある窓際の後ろから二番目の席に向かえば、机の中から包みを一つ引っ張り出してカバンの中へと押し込んだ。

 弁当箱が入っているソレは食べ盛りで一日に何食も摂る男子高校生にとっては、一日の間の早弁に必要で大切な生命線である。


「ツラ見りゃあ、分かるんだよ。そもそも、リボンの色が違う。三年は赤、二年は青、一年はオレンジってな。ちったァ覚えときな。……んで?なんで二年の教室に居るんだよ?まさか、何か盗ってねえだろうな?」

「凄いですね、物知りです、先輩」


 久我の言葉にぱちぱち、と小さく微笑みながら拍手する彼女は気づけば、久我のすぐ隣にいた。

 女性は男性よりもパーソナルスペースがうんたら、と言うらしいが、彼女もまたそうなんだろうかと思いつつ、

――――つくづく、読めねえ奴だな。

 と、普通の男子高校生であれば、可憐な異性が身近にいることに動揺するところだが、エリザベスを待たせていることもあって久我はそんな感傷を抱かなかった。


「なんにも盗ってませんよ。ただ、今日は二年の先輩の呼び出されたんです」

「告白か。しっかし、一学年上に呼び出されるなんて珍しいよな?普通は、同級生にするもんじゃないのか?」

「そうですか?そういうのって、学年とか関係ないと思いますけど。……もしかして、先輩ってピュア?」

「はぁ?何がだよ?」


 久我の言葉に少女は本当にピュアな人なんだ、と感じたようでくすくすと笑いが隠せないようだった。

 当の久我の方は本当によく分かってないようで、ドラマか何かで見た学生が告白するワンシーンが同級生同士のものだったので、そうした偏見が植え付けられていた。


「面白い人、ってことです。私、一年の鳳白雪(おおとりしらゆき)です」

「やけに仰々しいミョージだな?割に名前かわいいじゃねえか。俺は、「久我雄吾先輩ですよね」……なんだ、知ってんのか?」

「生徒会副会長ですから。覚えてますよ。生徒会長と一緒にいる不良っぽい人だなって思ってました」


 色素の薄い髪、目が鋭いことと髪が立っている事に加え、身長もある。

 一見すると不良生徒にしか見えないのだが、エリザベスのゴリ押しによる推薦で生徒会に所属していると言うギャップがあり、容姿と役職が副会長で在ることが白雪の記憶に久我の名前を刻んだのだろう。


「よく言われる。ほら、早く帰れ。地獄のテーマが鳴ってんぞ?」

「はい、先輩。じゃあ、帰ります。今日はお話できて楽しかったです」


 生徒の帰宅を知らせるクラシック音楽が流れ出せば、スピーカーの方を久我は指を差す。

 僅かな名残惜しさをみせた彼女、白雪が教室を出れば、戸締まりをした後に久我も教室から出る。

 白雪の姿が見えなくなるまで手を振った後は、教室の中にフックにかけっぱなしになっていた鍵をかけた後、職員室に行こうとしていたところでスマートフォンがメッセージを受け取った。


『ごめん、ユーゴ!急用が入っちゃった!お好み焼きはまた今度ね!今日はお疲れ様!』


 メッセージを開いてみると、申し訳なさそうに頭を下げる動物のマスコットのスタンプも送信されている。

 予定はなくなってしまったが、しかし、かといって腹を減らしてしまったまま帰るわけにはいかない。

 そこで、久我は閃いた。


「鳳!」

「はい!どうしましたか?先輩?」


 さっき知り合ったばかりの後輩の名を大声で呼ぶと、白雪はちょうど角のところで顔を見せた。

 ちょっと困惑しているようだが、それでもその口元には小さく笑みが浮かんでいる。


「飯でも喰いにいくか?腹減っちまった」

  

次くらいで変身するのを目指します。


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