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幼い人格障害の僕と物好きな君  作者: ぱんだひぃろぉ&まつも
5/5

5、発覚

まぁバレますわw


 「あのさ……ごめん、すごい言いにくいんだけど」

 

 前置きを噛み締めるように述べ、槁本は再度口を開こうとした。

 彼の顔は少し青く色づいているようにも見えた。

 今日の空は幾らか雨模様だったから、多少は軽減されて見えたが、確実に青ざめている

彼の顔色はどこか不健康な少年を連想させた。

 無論、彼をそうさせた理由は僕だろう。

 誰だって、知らないうちに自らの生活を変えられるのは耐えがたい苦痛であると同時に、恐怖だ。


 僕は、逃げた。


 「待っ……」


 返事も待たず、目もくれず、通行人に変な顔をされながら、それでも僕は動かぬ足に理不尽な命令を出し、走り続けた。

 槁本は確か野球部だったはずだ。

 彼の爽やかな坊主頭は、今日ばかりは汗を垂らして今も僕を狙っているのだろう。

 早く逃げないと。

 僕の生存本能が、全力で警鐘を鳴らしていた。

 僕の心が壊れぬように。



—――――――――――――――――――――――――



 僕の足は、突然の逃避行の難をほどなく逃れた。

 僕は、玄関を出たところで捕まっていた。

 霞みがかった鈍色の玄関と正門は、放課後まだ早いためか、人はまばらだった。

 お陰で、僕と彼の青臭い闘争は、誰にも見られずに済むようだった。

 

 「あれやったのって、―――――くん、だよね?」


 彼は僕の肩に手を置いて、詰問する調子もなく、優しい口調で僕を問い詰めた。

 彼の口から出たあれ・・―――――その指示語の内訳を僕は誰よりも熟知していた。

 当然、予想できたことだった。

 彼が余裕のない表情をしているのは誰の目から見ても一目瞭然だ。

 そんな時に、僕に声を掛けようと思うだろうか。そんなわけないだろう。

 何か用があって来たのだ。

 しかしながら、僕はその事実を受け止めきれずにいた。


 彼は、見ていたのだ。

 

 僕の完全犯罪を、そして、何よりも、僕を。


 「……もちろん、見てたよ」


 僕が信じられない、という顔をしていたからだろうか。

 彼はそう僕に告げた。

 彼は突然の強い雨足に打たれながら、それでもなお、気にする風でもなく、僕を見ていた。

 風が時折、彼を、そして僕を強く穿つ。

 それでも彼は、僕から目を離さなかった。僕の肩を、痛いほど握りしめた。


 「……名推理だ。僕がやったよ」

 

 僕はとうとう白状した。

 彼の目にはまるで耐えられなかった。

 

 その瞬間、後悔が荒波のように押し寄せてきた。

 心の防波堤が無残にも侵されている様子が、僕の脳裏に色鮮やかに浮かび上がってきた。

 なんでこんなことをしたんだろう。

 人生で初めて味わう感情だった。久しぶりの心の痛みだった。

 まるで、あの時・・・みたいな—――――――


 雨が頬を伝って滴り落ちていく。

 その幾分かは、きっと僕の一部だろう。


 一呼吸おいて、彼は僕に言った。


 「俺は、別に気にしてないよ。だって、俺も【知り合いでもない】君に悪戯を仕掛けたのが悪い」


 彼は正論を言った。

 その正論が、僕の心に錆びた刃を突き通した。

 それは、僕が持っていた刃のはずだった。

 自己防衛の武器だったはずだった。

 だが、今は錆びて僕の心に突き刺さっている。

 

 明らかにあの時、僕の正常な心は失われていた。



 「俺が言いたいのはそういうことじゃない。あのプリントを返して欲しいっていうだけだ」


 


今後もよろしくお願いしますー

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