4、復讐
二話目のまつもさんの部分になります。
槁本の度重なる軽率な行動によって怒りが収まらない僕。「彼女」との一件もあり、不思議と僕の怒りのボルテージは時間と比例するように上がり続けていた。今朝の小さな出来事は、少しずつ僕にとって重大なものになっていっている。決して割れることのない風船が膨らんでいくかのように。
とにかく、僕の頭に思い付いたのは、「なんとかして槁本に、なんらかの報復をくだそう」という、なんとも稚拙な考えだった。いつも通り平静を保って考えれば、僕の考えはそう、まるで人に縄張りを侵害されて、怒りに任せて敵地深くまで入っていくような愚かな行為だと言える。簡単だ。しかも、頭の片隅で、ずっと頭の中の僕は警鐘を鳴らし続けていた。
でも、そんなことはどうでもよい。僕は自分自身の親切な忠告を蔑ろにした。
……それからというもの、僕はネチネチと小さな嫌がらせをし続けた。あまりやりすぎては問題になってしまう。誰にも気づかれないように行動するのには慣れているんだ。誰も本気の僕を見つけることは出来ない。
僕は、槁本のシャープペンシルの芯を10本ほど抜き取ったり、
こっそりファイルの中のプリントの順番をぐちゃぐちゃにしたり、
教科書を1ページだけ糊付けしたりした。
とある雨の日なんか、やつは不用意にも自転車のカギを刺しっぱなしにしていたから、
僕はここぞとばかりに自転車の位置を一つだけずらしたり、
自転車のカギを自転車にかけてあった合羽のポケットの中に入れたり、
その合羽を自転車小屋の床に落としたりした。
こんな感じで、僕の嫌がらせは全てうまくいっていた。
人間、興味のないところで何が起こっていても案外気づかないものだ。
誰も僕の完璧な犯行には気づかない。
そもそも僕の存在は無いに等しいのだ。
目撃者なんて一人もいない。
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僕の膨らみ続けていた怒りの風船は槁本へのささやかな復讐によって少しずつしぼんでいっていた。それとともに、僕はこの卑劣な行為にある種の快感すら覚えるようになっていた。少しずつやることがエスカレートしていく。
そして、僕がやつへの報復を始めてから1週間経った日だ。窓からの日差しがまぶしい朝、僕はカーテンを閉めて椅子に座りなおし、いつものように今日はどんな嫌がらせをするか考えていた。そういえば、あれからもう本も読んでいない。しおりだけは76ページに挟んだが、最近は本を読むひまがあれば槁本のことを考えていた。僕は図らずも、「彼女」のことをいったん忘れることに成功したのだ。
「おーい、―――――!」
何か聞こえた気がしたが、僕は聞き間違いだろうと思ってとりあえず聞き流した。最近あるのだ。槁本に呼びかけられたかと思ったら本当にただの幻聴だったときが。これもやつのせいだろう。
「おい! 聞いてんのかよ! 前にもこの流れやったぞ!」
僕は深いため息をついた。どうやらこれは幻聴ではないらしい。
「……なんだよ。五月蠅いな。そんなに大きな声で言わなくても聞こえている。」
「はぁ!? お前反応しないじゃん!」
「いいから、静かにしゃべれ。要件も手短に。あまり無駄に時間を割きたくない。」
やつはまだ何か言いたげだったが、ひとまずその言葉を飲み込んだらしかった。
「あのさ…
どうでしょうか?
だいぶ恋愛から離れてますが、その内そこまでもっていくつもりです(笑)
言っちゃうと、けっこうノンフィクションに近いんで、書きやすいですね。
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