FILE-2 「射撃訓練‐穿たれる銃創、漂う硝煙。」
予想していた通り、午前中の研修メニューには戦闘訓練が盛り込まれていた。
研修生の私達は個人兵装の種類別に分けられ、私は地下射撃場に案内された。
私と同じように地下射撃場に案内された研修生の個人兵装は、当然の事だが銃タイプばかりだった。
もっとも、私のような大型拳銃ばかりではなかったけれど。
サブマシンガンを個人兵装にした子もいれば、拳銃用の銃弾を使用出来るコンパニオン・カービンを扱う子もいる。
選抜射手の資格を取得しているのか、マークスマンライフルを扱う子もいた。
ショットガンを扱う特命遊撃士は少なくないが、セミオートとポンプアクション式では大きく違う。
両者の良い所取りをしたコンパーチブル式も、なかなかに人気が高い。
ソウドオフした短い銃身とポンプアクションが特徴的な銃剣付きトレンチガンを愛用する子も、少なからず混ざっている。
そんな彼女達を「ショットガン派」と十把一絡げにした日には、私は確実に文句を言われてしまうだろう。
特命機動隊の標準装備であるアサルトライフルをベースに、各自の趣味に合わせてカスタマイズした改造銃を個人兵装にした特命遊撃士も、少なからず存在した。
変わった所では、トンファーとしても運用出来る2丁拳銃やレーザーガン、可変式ガンブレードを選んだ特命遊撃士だっている。
私の隣のレーンに入って訓練を始めた、黒いツインテールが目立つ童顔の研修生は、レーザーライフルを抱えていた。
敵が近接戦を挑んできたらどうするのかと、他人事ながら気になったが、「斬撃モード」と称してレーザー銃剣を出せるから問題ないらしい。
当然の事だが、ここで私達が行った訓練は射撃訓練だ。
敵性生命体やテロリストを模した標的に向け、ひたすらトリガーを引き続ける。
急所を狙っての一撃必殺に、無力化を目的とした部位破壊。
戦況や目的に応じて変化する銃撃方法が叩き込まれる。
正直に言えば、防人の乙女である私達は全員、養成コース時代に銃の扱い方を一通り教え込まれている。
今でこそレーザーブレードを個人兵装にしているお京だって、アサルトライフルや拳銃を渡されれば、それらを上手く扱ってそれなりに戦えるだろう。
護身用に拳銃とトレンチナイフを与えられていたし、年齢的には小学校高学年に過ぎない訓練生とはいえども、有事の際の予備戦力として数えられていたからだ。
射撃精度と反応速度の維持向上と、敵と相対した際に躊躇なくトリガーを引ける感覚の維持。
私達が現在も欠かさず行う射撃訓練の目的は、主にそこにある。
「この次は、通常弾で行くか。」
弾倉が空になるタイミングに合わせて、装填する銃弾の種類を変え、私は一通りの訓練をこなしていく。
ポピュラーなフルメタルジャケット弾に、散弾。
そして、ダムダム弾。
焼夷弾やガス弾は、屋内だと火災やガス爆発といった事故を起こす危険性があるため、今回の訓練では割愛した。
私だって、訓練で始末書を書くのはごめんだ。
まあ、インドア・レンジで行う射撃訓練の限界だろう。
近いうちに屋外の演習場で、この大型拳銃で使えるありとあらゆる弾丸を、思う存分に撃ってみたい所だ。
「まあ、こんなものかな…」
標的に穿たれた弾痕を見た私は、今日も自分の射撃精度が一定以上の水準に達していると確認が出来たので、満足気に微笑んだ。
「一応、洗った方がいいかな…」
大型拳銃をホルスターに収納すると、私は自分の手を何気なく見つめた。
一通りの訓練を終えた頃には、私の手はすっかり硝煙臭くなっていた。
特命遊撃士養成コースに編入してまだ間もない小5の3学期頃は、この硝煙臭に違和感を覚えていたもので、射撃訓練が終わると直ちに液体石鹸で何度も手を洗い、仕上げに手指消毒アルコールを振り掛けるという念の入れようだった。
だが、この頃になると何も感じなくなっていた。
この頃でも一応、射撃訓練の後に手を洗ってはいたが、食事の前やトイレの後に行うのと、同じレベルの手洗いで済ませてしまう。
慣れっこになってしまったのか、それとも感覚が麻痺してしまったのか。
或いは、その両方なのか。
私としては、別にどうでも良かった。
都市防衛と人類文明保護のために、問題なく動けるのなら、それで良かった。