ジークは身の振り方を決めた
短いですけど、区切りがいいのでここまでにしました。
ジークはザッハーク大森林での凄絶な追いかけっこ――ジーク以外が追う側です――を話し始めた。
「始めには良かったんですよ。キツかったんですけどサーベルウルフとかには対処できてたんです。でも、アビスベアと運悪く鉢合わせて、なんとか逃げられたんですけど」
「ちょっと待て、アビスベア!?どの辺だ!」
「たしか、中間部の少し深部寄りだったと思います。それでも深部の奥にいると聞いていたので遭遇したときは焦りましたよ」
ジーク、のっけからいいパンチ打ちましたね。ロイは想像の遥か上のことに驚愕したが、兵として優秀なのだろう。優先すべきことがすぐに頭に浮かんだ。
「そ、そうか。ならすぐにどうなるとかではなさそうか?でも一応話は通しとくか……だがジーク、お前そんなところを一人でいたのかよ。自殺行為じゃないか?てっきり浅部を抜けてきたと思ったが……しかし、なるほどな、アビスベアにやられたのか。だとしたら納得だ。にしても良く逃げられたな。すげえよ。」
ジークの話を聞いてロイはウンウンと頷いていた。そればかりか、アビスベアから逃げのびたジークを感心したように見ている。
「え?違いますよ。確かにアビスベアにあと一歩まで追い詰められましたが、かろうじて無傷です。それに、僕じゃアビスベアの一撃だと即死ですって」
「は?」
「えっと、続けますね。その後、逃げた方向が悪くて、深部……といっても、その入り口くらいに入ってしまって。そしたらサーベルウルフの上位種やらギガン豚、ああタイラントカゲもいましたね……に襲われて、たしか2〜3日間くらい追い回されていたと思います。細かい傷はそれで。で、昨日の怪我はそいつらから逃げきって、ようやく森を抜ける。ってところで気を抜いてしまって、不意を突かれてソードラビットに後ろからやられました。いや〜、中間部や深部だったら今頃モンスターの腹の中ですよ」
ははは、笑いながら言うジークであったが目が死んでいる。
そしてロイとハボックは声を失っていた。
「ほ、本当によく生きていられたな?ちなみにどうやって逃げたんだ?」
なんとか再起動したロイは参考までに聞いてみた。
「いや〜、皮膚が厚いのなんのって、剣が一切通らないので、ひたすら速力をあげてダッシュですよ。それで、途中で追ってきているモンスターを別のモンスターに押し付けて、争っている最中に逃げました。おかげて、逃げ足はものすごい上達しました。はははっ」
参考にならなかった。
簡単にいうが、さながら怪獣大戦争である。
一歩間違えれば巻き込まれ、あの世行きだっただろう。
ジークは意外と運がいい?
「そうか。無事で何よりだ!よし、じゃあ、これからの話をしよう」
ロイはそう言って無理やり話をブった切った。
これ以上、ジークの話を聞くと何か大事なものが砕けそうな気がしたからだ。
ちなみにハボックは「どうやら疲れがたまっているようだ」といって、いなくなった。
「で、ジークはこれからどうするつもりだ?」
「王都を出たのも旅をしようと思ったからです。なので、これからも旅をつづけようかと思っています」
ロイの質問にジークは当面の目的を告げた。さすがに、初対面の人に、その原因――婚約者に振られた――を言うつもりはなかった。
「なら、身分証は必須だな。ということで、組合に身分証を発行してもらえ。幸い、この街にも組合はある」
「組合といえば、冒険組合とか商業組合のことですか?」
「おう、オススメは冒険組合だな。ジークの腕……はわからんが、その生存能力なら大丈夫だろ?旅をするってんなら、路銀を稼がないといけないしな。組合に登録すれば採取したものなんかは、それなりの値で買い取ってもらえるだろう。少なくとも損にはならないと思うぞ」
「なるほど、いいですね。それじゃ今から行ってきます」
「ああ、お前の保証人として俺もついていくわ。その方が場所も、手続きも早いだろう。今日は昼から出勤だからまだ時間ある」
ジークはロイの提案を受け入れ、身分証を発行してもらうべく組合にいくことにした。ちなみにロイがついていくことにしたのは、どこか常識のないジークが危なっかしく心配になったからだ。ロイはいい兄貴分なのである。
そうして二人はハボック––患者が来ていようで、治療中だった––に一声かけて組合に向かうことにした。ついでに登録後にサーベントウルフの素材を換金して治療費の足しにする旨を伝えた。
「お、忘れてた。ようこそ、ハックエストへ!!」
「いきなり、どうしたんですか?」
「なぁに、様式美ってやつさ」
ロイはそう言って、ニッとジークへ笑いかけた。一瞬ポカンしたジークだったが、つられて笑ってしまった。そうして二人は組合へと歩を進めた。
なぜだろう、ロイが設定より微妙にイケメン化している