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ジークは森を抜け天然をさらす


本ルートのみを残しました。


「やっと、やっと街が見えた!あと少し、もう少し!」


 クマさんと出会ってから早5日、ようやくジークはザッハーク大樹林を抜け、最寄りの街を確認できるところまで来た。

 だが、その風貌は仮にも貴族の子とは思えないほどボロボロである。

 髪は泥や埃でまみれ、フィーナ譲りの綺麗な白銀色はくすんだ灰色に、目の下にはひどいクマが、鎧は所々かけており、その下の服には血がにじんでいる。

 浮浪者といわれると納得してしまうだろう。

 

「ん?そこの奴、止まれ。って、お、おい!大丈夫か?これは!?衛生兵!重傷だ、早く!しっかりしろ!おい、おい!メディック!メディィィック!!」


 明け方近く、父からもらったロングソードを杖代わりになんとか門前までたどり着いたがとうとう体力が尽きたのか門前で気を失ってしまった。

 門兵は倒れたジークに急いで近寄るとその状態をすぐさま当直で治癒術を使えるものを呼んだ。


──────────


「う〜ん、ここは?」


 ジークは、まだ半分ほど寝ぼけているものの現状を確認した。


「えっと、森を抜けて、それから……そうだ門の前でたおれ!?痛っ!」


「おお、物音がしたからもしかしたらと思ったが良かったの。目が覚めたか少年、どこか痛むか?と聞くのは野暮かの?」


 そう言って扉を開けて入ってきた人の良さそうな老人に、ジークは痛みにもがきながら目をやった。


「えっとあなたは?」


「ほほ、しがない街医者だ。しかし驚いたぞ。明け方ぐらいに何事かとおもったら、ボロボロのお主が運ばれてきてな。致命傷はなかったが、結構傷がひどかった、特に左の脇腹に穴空いとったから、しばらく目を覚まさないと思っておった。だが、まさか半日程度で意識を取り戻すとは。見た目によらず体力あるのぅ」


「えっと、ありがとうございm『ぐ〜〜〜〜』、すいません」


「はっはっはっ!腹がなるのは生きている証拠だ。待っとれ、ちょうど夕餉の仕度が終わったところだ。スープであれば問題なかろう」


 老人はどうやらジークの治療をした医者らしい。

 ジークはお礼を言おうとしたが腹の虫が盛大に鳴ったため恥ずかしそうに顔を赤く染めた。


「ほれ、ゆっくり食うといい。消化にいいもので作っているからの」


「ありがとうございます」


「食いながら聞いとくれ。お主が――」


 老人が持ってきたスープをちびちびと食べながら、ジークは気を失ってからのことを聞いた。

 ジークが倒れてすぐに衛生兵の治癒術により応急処置がされたが、予想以上に傷が深かったため、門に近い町医者の老人––ハボックのところまで担ぎ込まれたらしい。


「そこそこ治癒術が使えるでの、大きい傷はあらかた塞いだ。もっとも完治まではしばらくかかると思うが。あと悪いが、でかいのを塞いだところで魔力が尽きてしまったので小傷は結構残っとる。痛むと思うが我慢しとくれ。明日の昼くらいには魔力が戻ると思うから、それから治そう」


「すいません、助かりました。でも、ここまで治していたたければ……再生促進リジェネレート。うん、大丈夫そうだ」


 そう言うと、うっすらとジークの体を淡い光の膜が包んだ。すると残されていた小傷はゆっくりと、だが確実に塞がっていった。


「ほ〜、お主珍しいのを知っとるの。再生促進リジェネレート、体の再生力を活性化して、怪我の治りを早くさせる支援魔法の一種だったか?実際には初めて見たぞ」


「ええ、あくまで促進させるだけなので、欠損や大きい怪我にはあまり意味がないんですけど。細かい傷には結構重宝します」


「いやいや、支援魔法は専門外だが治療系統は繊細で難しいと聞いたことがある。お主まだ若かろう?よく覚えられたものだ」


「治癒魔法に才能がなくて、いろいろ調べていたら支援魔法に似たような効果があるものを見つけたので、頑張って覚えたんですよ」


「いや、一概には言えんが一発で傷を塞ぐのと、効果を維持し続けるのは後者の方が難しいと思うが……」


「持続時間も短いし、何度もかけ直さないといけないから大したことないと思うんですけど……」


 ジークの治療魔法よりもなんてことはないという発言にハボックはやや呆れた顔をしていた。

  ジーク、結構それ難しいですよ?


「ま、早く治るならば、それにこしたことはないの。とりあえず今日はもうそれ食ったら休みなさい。あ、そうそう。明日の朝、お主を運んできた門兵、ロイが様子を見に来ると言っとったがその様子なら大丈夫そうかの?対応してやってくれ、奴にも職務があるのでな」


 とりあえず気を取り直したハボックは、そう言ってハボックは部屋を後にした。


 そして、翌朝──


「ハボックさん、おはようございます。彼は?」


「おお、ロイ。待っとった。昨日のうちに意識は取り戻していたぞ。応急処置が良かった。大事にはなっとらん。いちおうお主が来ることは伝えておいた」


「それは良かった。しかし、あの傷でよく半日で目が覚めましたね。俺も今日は様子見程度で終わろうと思ってたんですけど」


 ハボックのもとを訪れたロイが驚いたのも無理はないだろう。昨日のジークはそれほどまでにひどい状態だったのだから。

 そしてふたりがジークの休んでいる部屋に入ると、固まった。


「あ、ハボックさん、おはようございます。と、そちらの方が?」 

 

「お、おはようさん。そうだ、昨日言っとったロイだ。だが、お主。いくらなんでも治りが早すぎないか!?いや、昨日のことがあるから一概にも言えんか?」


「いや、ハボックさん。普通納得できんでしょ?え、なんでもう立ってられんの?」


 ふたりが驚いたのもの無理はない。

 うっすらと傷は残っているようだがほぼ完治したとした思えないジークがそこいた。

 当のジークは呑気に布で体を拭いていたが……。


「ハボックさん、改めて昨日は助けていただいてありがとうございます。ロイさんも門前で倒れた僕を運んでいただいたようで、ありがとうございます。ジークです」


「あ、ああ。昨日は驚いたぞ?少年、いやジークが明け方にふらっと現れたと思ったらいきなり倒れて、その上傷だらけの血まみれときたもんだ」


 とりあえず、このままではラチがあかないと思ったのでロイは話を進めた。


「最初に謝っておくと勝手に荷物を確認した。それで身分証や出領証がなかったが、君はどこから来た?気を悪くしたなら謝るがこちらも任務なので、怪しい者を野放しにはできない。昨日は緊急だったから特別に街に入れたが」


「いえ、気にしないください。そう思うのも仕方ないと思います。僕は今まで王都にいました。それから道を間違えてザッハーク大森林に入ってしまい、しかたがないのでそのまま森を抜けて、ここに着きました。で、昨日の怪我はその時に追いました。それから、身分証は故あって返却したので、今はありません」


「そうか。嘘は……なさそうだな」


 ジークの話を聞いていたロイはそう言って握っていた手を開いた。す

 ると手のひらに薄緑色の小石があった。


「これは?」


「聞いたことないか?審問石っていうんだ。原理は知らんが、これは相手の悪意や嘘に反応するっていう不思議な石だ。仮に嘘だった場合赤く染まる。俺たち門の警備をする奴らに貸し出されるんだ」


「へ〜、これが。あれ?でも王都を出る時にはもう身分証なかったんですけど、特にそんな検査されませんでしたよ?『夜も深くなってきたから気をつけろ』と言われたくらいで」


 石を眺めていたジークはふと疑問に思ったのでロイに聞いてみた。


「ああ、基本的に入る時にするもんだからな。危険なものやご禁制のもの、犯罪者を街に入れないようにするのが目的だ。出て行くとき検査するのは荷馬車なんかだけだ。じゃないと時間がかかりすぎるし、人も足りない。そもそも身分証を持たずに街の外に出る奴いると思わんだろ。普通」


「うっ、返す言葉もない」


 ジークはロイの言葉にぐぅのでも出なかった。遠回しにお前なにやってんの?常識って知ってる?と言われているのだから。

 まあ、それも仕方ないといえば仕方がない。ジークは今までそういった手続きを自分でしたことがない。竜騎士になりリンドブルムから王都に移るときにはフリードが、竜騎士の訓練で王都の外に行く時は教官が訓練生全員分をまとめて手続きしていた。ちなみに貴族としてのジークの身分証はリンドブルムに保管されている。


「で、そうなった理由はわかったけど。場合によっちゃ警戒体制をしかなきゃならねぇ。森で何があったかいちから説明しろ」


 すっとロイの目は細まり、熟練の兵士としての顔をのぞかせた。


「それは──」


 そう切り出して、ジークは森での出来事を話し始めた。

 それは竜騎士時代の訓練が生やさしいとすら思える内容だった。


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