ジークは森でクマさんと出会った
ジーク視点に一旦に戻ります。
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続けていけるように頑張ります。
城で大惨事が起きているとは知らず、ジークは森の中を進んでいた。
最初の襲撃を皮切りに何度か戦闘を重ね体には多くの小さな傷、衣類や鎧には泥が付いていた。
それでも深手がないのは日々の鍛錬の賜物だろう。
「あ〜、疲れた〜ちょっと甘く見てたかも。中間部の入り口でもこんなにキツいのか?父さんやっぱりおかしい」
ジークはリンドブルムの氾濫を思い出していた。当時フィーネが妹をお腹に抱えていたため竜化できずにいたとき、フリードは歩兵に混ざりながら先ほどからジークが戦っているモンスターよりも大きく強いモンスターを愛槍で高笑いしながらぶっ飛ばしていた。
その光景は今でもジークの記憶にこびり付いていた。
「竜と一緒なら苦戦しない相手でも四方から襲われるだけでこんなに難しいのか。これは仲間たちに感謝だな」
竜騎士の訓練時代、野営訓練として竜騎士見習いの青年たちは竜抜きで遠征を行った。その時は5、6人が一組となり、交代で見張りをしていた。
そのためよっぽどでない限りバックアタックを仕掛けられることはなかった。
「支援魔法を切らせた状態で不意打ちされたら一発でアウトだもんな……これはいい修練になりそうだ。そうだよ、キツくないと意味ないし!」
あの母にしてこの子あり。根性論炸裂である。
昨夜大勢の目の前で婚約破棄という名の公開処刑で沈んでいた青年はもはやそこにはいない。ジークは目をぎらつかせ、野生動物さながらの雰囲気を醸し出した。
『これより死地に参らん』といわんばかりの一歩を踏み出そうとした。
が、不運の星に生まれたのだろうか?ジークのワイルドモードは即時解除されることになる。
「うそ〜〜」
バキバキと木々をなぎ倒しながら現れたのはアビスベア。本来ザッハーク大樹林の深部に生息する巨大なクマ型のモンスターである。
「いやいや!さすがに無理!勝ち目ないって!身体強化、速力強化、脚力強化!」
自分がもてる全ての力でジークは一気に逃げ出した。それはもう見事なスタートを切った。
しかしジーク、知っていますか?クマ、もといアビスベアは足が速いのですよ。
「グルァァァアア!!」
「こっち来んな────!!」
壮絶な追いかけっこの始まりである。
木々を避けながら駆け抜けるジークと木をえぐりながら直進するアビスベアの距離はジリジリと縮まっている。
「やばい!?なら、これで、どうだ!……よっと、さすがになぎ倒せないだろう?」
ジークは眼前に迫っていた一際太い木の上に飛び乗りやり過ごそうとした。
作戦は悪くありません。しかしジーク、知っていますか?クマは木登りが得意なのですよ。
「なんでだ──!こうなったら、もっと上に!」
ジークが昇る、アビスベアが追いかけるを繰り返し、とうとう細い枝に追い詰められた。
「くそ、こんなところで終わるのか?──まだ始まってすらいないのに!」
慟哭がむなしく響く。
だが、関係ないとばかりにジリジリとアビスベアが幹から離れジークを枝の淵まで追い詰めた。
もはやアビスベアの腕が一振りされるだけでジークの命が消える。
と思われたその時、バキッ!突然の浮遊感がふたり?を襲った。
「は、え、ちょっ!?待っ!うわぁぁぁ!」「ガアァァァァ!」
アビスベアとジークは悲鳴をあげながら落下した。
「浮かべ!」
それでもジークはとっさに落竜した際の竜騎士の必須技能を唱えた。
再び浮遊感を感じたジークは隣の木の枝をつかみ落下を逃れた。
ドシン!!一方でアビスベアは、頭から地面に突き刺さっていた。
それでもまだに息があるのだろう。わずかに身じろぎしている。しぶとい。
「チャ、チャンスだ。今のうちに──」
再び最速状態になったジークは枝を足場にしてその場を後にした。
でもジーク、あなたが向かっている方向はファルニル領ではなく深部方面ですよ。
いつになったら街につけるのだろうか。
ジークの迷走はもうしばらく続く。
次はお待ちかねの「ざまぁ」になりますのでお楽しみにv