ジーク迷走、王都激震
コメントで一部読みにくい、変だというご意見をいただきました。それに伴い、一部加筆修正と『ザッハーク深森→ザッハーク大樹林』に変更しました。これ以降の大樹林へと変更します。
夜逃げ同然で王都から全力で離れたジークは現在、鬱蒼とした森の中にいた。
「ごほっ、ぜいぜい......きっつい」
あれから文字通り全力で駆け抜けた結果、体力魔力ともにほとんどスッカラカンになり汗だくになって木に背を預けていた。
「ふうふう、はぁぁ、ってあれ?」
そして息を整え周りを見渡してようやく自分がどこにいるか気づいたジークであった。
「ああ、やらかした。イエロ街道から外れてザッハーク大樹林に入ってしまった。しかもパッと見た感じ、外縁部じゃなくて浅部もしくは中間部の始め辺りか?」
王都から最寄りの街へ行くにはイエロ街道を道なりに進めばいいが、街道は大きく弧を描くように続いておりジークのように真っ直ぐ進んだ場合、街道を外れて大樹林へと入ってしまう。
「はは、普通こんなに木があれば途中で気づくだろ。どんだけ周りが見えてなかったんだよ……」
失笑といった感じである。
普段真面目なやつほど、そのキャパを超えた際、想像つかない行動を起こす。
そのいい例であった。
「ま、訓練時に何度か来たことあるし、なんとかなるか……な?とりあえず飯かな。たしか携行食の干し肉が何本か......」
しばらく栄養をとりながら体を休めていたジークであるが、ふと周りの様子に気づいた。日も程よい高さになったのか、木々の間から光が差し、幻想的な風景を作っていた。
「綺麗だな。訓練時にはこれっぽっちにも感じなかったのに……余裕がなかったんだろうな。ネヴィアにつりあえるようにって必死だったから……はぁぁぁ、何が悪かったんだろう」
そうやって木漏れ日と葉音に癒されながらも、おそらくは答えのでない解答を探すためうんうん唸っていたジークであるが、視線というよりも敵意を感じておもむろに剣を取った。
「グルァァ!!」
木の陰から一足に飛び出して来たのは、竜騎士の登竜門と呼ばれるサーベルウルフである。
犬歯が以上に発達し、剣のように鋭い成人男性と同じくらいの大きさのウルフだ。
「物理強化、魔力付加、硬質化、はっ!!」
ジークの喉笛を切り裂こうとその牙を立てたが、帰って来たのは自らの牙が折れた感触であった。
身を守る支援魔法3種と牙に切れ込みを入れた剣戟によりウルフの誇りはあっけなく根元からポキンと折れた。
「ごめんね。竜がいなくても身を守れるくらいには訓練を積んできたつもりなんだ!」
身を引こうとしたウルフへ剣の一振り、それで終わりであった。
目から光を失った襲撃者はその身を力なく投げた。
周囲に警戒しつつ、納刀したジークはほっと一息ついた。
「路銀にもらうぞ?」
答えないサーベルウルフに一言告げて、小剣で皮を剥ぎ、転がっていた見事な牙を拾って袋に入れた。
身は血抜きをしてから小分けにして、綺麗な布で覆った。
「さてと、食料も手に入ったけどこれからどうしよう。街道まで戻ってから最寄り街へ行くか、ザッハークを抜けるか。う〜ん、これも修行か。よし、このまま進もう。深部を避ければ大丈夫だろう。えっと、西へ抜ければ、ファフニル領だったはず」
地図と日の位置を確認してからジークは森の奥へと進んでいった。
この行動によりさらに王都では混迷極まる状況に進むとは、やっぱり考えてないジークだった。
そして大樹林への認識が甘かったと後悔することになるのはそう遠くない。
一方そのころ王都では......
「いたか!?」
「やっぱりもう、王都にはいない!そっちは!?」
「門の守衛からの報告では、昨夜から出都したは数件、で馬には乗っていなかったらしい!遠くまでは入っていないはずだ!手の空いている竜騎士に要請をだせ。空から最寄りの街までの街道を探させるんだ!最優先だ!!」
「なんでジークだって気づかなかったんですか!?」
「仕方ないだろう!!昨日のパーティでは陛下も出席されていたから、兵もそっちに回されて、門のところにいたのは、ほとんどが新人だったらしい!いちおうジークの知っているやつもいたが、運悪く休憩中で入れ違いだったそうだ!」
「ちくしょうめ!」
まるで戦場である。
王都に住む民衆は早朝の慌ただしい兵たちに何事かと戦々恐々としていた。
実際には夜逃げした若い竜騎士を捜索していたのだが......
そして王城では、
「まだ、見つからんか?」
顔を青白くさせた王、ゲオルギウスが執務室で報告を待っていた。顔の前に祈るように組んだ手は小刻みに震えている。
「陛下、恐れながら申しあげます。リンドブルム伯へ一報を入れておくべきかと。あとで知られるとなるとと……」
同じく全身を震わせなせながら側近の近衛はいった。顔面は蒼白である。
「う、む。しかしだ、な、どう書いていいものか......」
一国の王とは思えないうろたえぶりである。それもそのはず、リンドブルム伯、つまりジークの父であるフリードは『現王国最強の竜騎士』であり、建国後の長い歴史のなかでも、彼と同じ武の高みへと到達できたのは5人もいないと言われている。
そして、その愛竜たる妻フィーナも苛烈な戦いぶりと容赦のなさから『最恐のドラゴン』と恐れられ、かつて一騎、つまりフリードとフィーナだけでリンドブルム原生林から『氾濫』したモンスター大小合わせて500をわずかな時間で殲滅したのは記憶に新しい英雄譚である。
おそろしいことに……いや、普段であれば問題はなくむしろ素晴らしいことたが、二人とも家族愛に溢れ、曲がった事が大嫌いな性格である。
加えて、王家から打診した竜騎契約もとい婚約を最悪の形で破棄した事実を隠していた、と誤解された場合……王や側近のみならずあの場にいた一部を除いたものたちは最悪を想定して身震いが止まらない。
──側に控えている近衛は膝が震えている。
「全てです陛下。ここは包み隠さず、ありのままを申し上げましょう」
そう言った先ほどとは別の側近の顔も蒼白であり、膝は大笑いしていた。
「う、うむ。確かにそれしかあるまい。では──」
決断した王は、一筆したたいめるべく筆を取ろうとしたその時......
ズドン!!
「なんだ──何事か!?」
炸裂音とともに王城に激震が走った。
そしてわずかな時間を置いてから、執務室の扉がノックもなく乱暴に開けられた。
……ドンマイ、少々遅かったみたいですね。
「ご無礼をお赦しください陛下、火急の件にて」
「「ひぃぃぃ!?」」
「あなた。礼を失してはいけませんよ。ねえ陛下?」
ここで近衛の半分が脱落した。本来ここにいるはずのない二人のご登場である。
隠しきれない憤怒を滾らせたフリードと表情こそ笑っているがその目にはフリードに負けず劣らずの激情がメエメラと燃えているフィーナである。
あ、わし死んだ。先王より王位を譲られてからゲオルギウスは初めて死を覚悟した。
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