表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/20

ジーク旅に出ます

 会場を足早にあとにして住み慣れた寄宿舎の自室に戻ったジークはベッドに横になり何度目になるかわからないため息をついた。


 出会ってからもう6年になる。

 3年前、初めて竜化してドラゴンになったネヴィアに乗り、空を飛んだときは2人で手を取り喜んだ。

 予備課程での竜騎士としての鍛錬で苦しい時、初めて戦場に立ってモンスターの恐怖に怯えた時も2人で励ましあった。


 竜化ができなくなったと告げられたときも成竜になる前に誰もが陥るというドラゴンズブルーだと思った。それが不貞行為だ、なんて欠片さえも思っていなかった。


「僕が悪かったんだろうか......」


 家同士、特に王家が決めた婚姻=ペアであったためお互いに仕方ないという部分はあっただろう。

 しかし歴代の王族の中でも類稀な美しさと強さを持つドラゴンになれる彼女に気後れはあったものの、釣り合えるようにと武芸や魔法、いずれ継ぐことになる領地運営も学んでいた。

 もちろん女性として放っておいたつもりはない。

 毎日彼女とは会っていたし、時にはデートもした。

 友人たちに女性との付き合い方を相談もした。


「その全てが空回りか。これでも真剣に彼女のことを想っていたんだけどな。しかし、これからどうしようか……」


 婚約破棄とペアの解消は確実に実行されるだろう。

 あれだけの面前でやらかしておいて冗談でしたとはできない。それになによりもアレクとの本契約が明らかである以上、ネヴィアとは契約できない。

 

 そしてジークも竜を失ったため竜騎士という身分ではいられない。

 これが予備課程やその前であれば、新たなペアを探せたかもしれない。

 

 だが、本課程に進めるのはペアが確定した者だけだ。

 そんな訳でジークの周りの同世代の竜(女性)には例外なく相棒がいた。


「最低でも竜騎修練所はでなきゃならないし、リンドブルムに帰るにしても竜騎士じゃなくなった僕だと力不足だろう……よし、修行の旅に出よう!そして強くなってリンドブルムに戻ろう。そうと決まれば——」


 悶々と考えた結果とんでもないことを思いついたジークである。冷静に考えれば、再び予備課程に戻るなどやりようはあったはずである。しかし、ジークはまだ若く経験がない。そのためいくつかのステップをぶっ飛ばした結論に至った。


 そうして、元々それほど私物を置いておかなかったため荷造りはすぐに終わった……終わってしまった。

 腰にはリンドブルムを出る際に父からもらったロングソード、袋には訓練時にもらった支給品のテントなど旅に必要なものを入るだけ詰め込んだ。


「地図、携行食、装備——これでよしと。そうだ、多分大丈夫だと思うけど除隊届と文を残して……これでよし!!」


 ちっともよくありません。

 ジークはすっかり片付いた部屋を見渡してから一礼して住み慣れた自室を後にした。

 途中、管理人のおばちゃんとすれ違い、お世話になりましたと言ったら不思議そうな顔をされてたのは当然だろう。

 

 それから数時間後、ジークを心配して訪れた友人たちはノックをしても返事がないことを不審に思い扉を開けた。そしてすっかり綺麗に片付いていたジークの部屋に思わず言葉を失った。

 

 机に残されたジークの署名入りの除隊届と「旅に出ます、竜騎槍は返却します、あとはよろしくお願いします」と簡潔に書かれた手紙を見つけ大騒ぎとなった。

 ジーク、それでは書き足りませんよ。

 

 そんな阿鼻叫喚の騒ぎになっているとは全く考えず、ジークは王都ペンドラコの門をくぐり抜けていた。


「あ、リンドブルムの父さんたちに手紙書いてないや。……次の街でいいか。修行の旅だし、リンドブルムとは逆方向に行ってみよう、とりあえず全力でフィジカルアップ!」

 

 風になったジークはあっという間に王都から姿を消した。

 もっとも、この行動が後日の大騒動に発展するとはこの時のジークには想像する余裕がなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ