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幕間〜性格の矯正は計画的に〜

黒幕と姫のその後の話

*あまり気持ちのいい話ではありません。

*自己責任でお願いします。

 あの後――アレクを乙女にしてすぐに、ニーズヘック侯爵の報告に記載があった反逆者どもを捕縛すべく、ゲオルギウス王は竜騎士たちへ「関わった者を捕らえよ」と指令を下した。

 すると、団長を筆頭に城に常駐していたほぼすべての竜騎士がどす黒い感情滾らせながら飛び出していった。ゲオルギウスはその光景を見て「あ、やばい」と思ったが後の祭りである。


 ニーズヘック侯爵からの報告書によると、主犯格の男爵は王都からそう遠くない湖畔に居を構えていた。さらに、その最寄りの村そのものが件の乙女たちの家族を人質にしたなどで関与した。

 

 先行していたニーズヘック侯爵の私兵と協力し、瞬く間に被害者の救出と犯人たちの無力化を終わらせた。だが、話はそこで終わらなかった。

 

 被害者たちからの証言で竜騎士たちの怒りは臨界点を突破した。それはもう、かつてないほどに。

 結果――いろいろ消し飛んだ。

 

 竜、約50騎の怒りのドラゴンブレスが炸裂し、男爵の無駄な豪邸は敷地ごと跡形もなく消滅した。唯一残ったのは、前よりだいぶ広くなった湖だけだった。

 

 さすがに重要参考人を残し、証拠品を回収するぐらいの理性は残っていたらしい。それでもかなり際どかったが……


 その後、主犯格と証拠品のもろもろを手土産に報告を受け取ったゲオルギウスは頭を抱えることになったのはいうまでもないだろう。

 さすがにやりすぎではあるが、それを咎めて一斉に離反されたらたまらない。ゲオルギウスは「そうか、そういうこともあるよな」と自分を無理矢理納得させることにした。


 それから数日間は事後処理やリンドブルムからの絶縁によって生じた影響への対応に追われ、寝ずの日々を強いられることになった。


 そして現在、ゲオルギウスは竜騎士団長と今後の対応について打合せを行っていた。

 貴重な竜を4騎も失うことになった大元である男爵を竜騎士たちが優しく、丁寧に、時間をかけて尋問したところ驚くべき事実が発覚した。


「因子の発現した平民の探知だと?」


「はい、我々も自分の子が因子を持つかどうかは感覚で何となくわかります。しかし、それが他人となると不可能です」


「はじめはどこかの貴族と平民の落とし子かと思っていたが……因子がないため市井へ落ちた元貴族の子孫が因子を発現させ、あまつさえアレクがそれを探知できたなど――」


 今回、アレクと3人の女性たちが見つかったのは本当に偶然のことだった。件の男爵は竜騎士の家系に生まれたが自身は竜化因子―女性を竜化させる因子を持たなかった。通常であれば男爵は爵位継承権を持たなかったのだが、先代男爵が氾濫の防衛戦で深手を負い早逝してしまったため爵位を継ぐことになった。

 

 しかし、ペンドラゴン王国の法では因子を持たない―厳密にいえば竜騎士もしくは竜を排出できなければ数年のうちに爵位を返上しなければならない。そこで、因子を持つ女性を妻にと求めたが、因子のない男爵へ娘を嫁がせようという物好きな貴族はいなかった。これが高い爵位であれば話は違っていただろうが……

 

 そんな折、どこからか現れたアレクは「自分には特別な才能があり、因子を持つかどうかわかる」と男爵に陳情した。

 

 はじめは疑っていた男爵だが、件3人を集め、アレクに仮契約の仕方を教えるとその内のひとりを竜化させることに成功した。

 男爵は当初、因子持ちの彼女らの中から妻を選べばいいと考えたが欲が出てしまった。ぽっとでのアレクを類い稀な竜騎士として国へ推挙したという功績が欲しくなった。そして貧しかった村を金で買収し、抵抗する家族を力でねじ伏せ、アレクを特別に仕立て上げた。


「忌々しいことに才能があるというのは本当だったか――してどうする?」


「国のことを考えれば、アレを使うべきですが……」


「竜騎士としての感情がそれを許さぬか?」


「はい。奴は我らの築き上げてきた誇りを土足で踏みにじりました。できることなら二度と竜に関わらせたくありません」


「しかしな……リンドブルムから手を切られた今、感情を優先するわけにはいかん」


「わかっております――では、先の陛下の沙汰に加え、因子探知道具として使い潰すということでよろしいですか?」


「できれば、奴がいなくなってからも探知できるように血を残「――は?」いや、何でもない。そちらに任せよう」


 ゲオルギウスはアレクの探知能力を取り入れようかと考えたが、団長のひと睨みでその考えを霧散させた。

 下手に欲を出して、竜騎士全てを敵に回せば王家は即日解体となる。

 アレクの件はもうこれで終わりにしようと考えたゲオルギウスだった。


「それで陛下、もうひとつの件はお決まりですか?」


 王の苦難はまだ続いていた。


「待て、その前に――大臣、済まんがそれを取ってくれ」


「陛下、またですか?取り過ぎは体に毒ですよ」


「飲まんとやってられんわ!!」


 どこかの国の企業戦士みたいなことを叫びながら、ゲオルギウスは大臣から受け取った白い粉――胃薬を一気に飲み込んだ。

 陛下、お薬は用法用量を守ってください。

 

 ゲオルギウスのストレス性胃炎の原因―ネヴィアの処遇が決まっていなかった。とりあえず、あれから一歩も外には出さず自室に軟禁状態ではあるが、どの処遇が妥当か判断できずにいた。


 これまで、主に竜騎士からネヴィアの処遇に関する要望書が多く届けられた。

 

 そのほとんどが幽閉や極刑を望むものだが、持っている因子をただ無に返すのももったいない。かといって浮気者ネヴィア乙女アレクを竜騎士として使うという選択はない。

 

 また父としても、何とか処刑以外の道はないものかと考えていた。せめて悔い改め、性格を改善してくれれば受け入れ先が見つかりそうだが…閉じ込めている部屋から飛んでくる罵声を聞く限りその傾向はみられなかった。団長のジト目を受けながらゲオルギウスがうんうん唸っていると、ふと大臣は思いついた。


「陛下。ひとまず姫の性格を改善させてはどうでしょう?」


「それができるならやっておるわ!」


「ですので、こういったのはいかがでしょう――」


 大臣―主に外交で腕を振るってきた彼はその腹黒さ、もとい敏腕で「蛇」と他国から恐れられている。大臣の提案を聞いた王は見る見るうちにいい顔になった。


 ――後日、謁見の間に名立たる貴族たち、騎士団幹部クラス、かつて勇名をはせた先達たちなど、そうそうたる顔ぶれに交じって、ネヴィア、そしてこの場に似つかわしくない3人の平民が集められた。


「よく集まってくれた。これから先の件の処理について皆に伝えよう。まず―「ちょっと、父上!」うるさい、なんだ?」


「アレクはどこよ!?それに何日も部屋に閉じ込めて!ひどいじゃない!」


 相変わらずのネヴィアである。

 王は嘆息しながら続けた。


「だから、それを今から説明するというに――それと部屋に閉じ込めたのは貴様がこれ以上阿呆を晒すのを防ぐためだ。さて、話を戻そう。まず、アレクはそこの3人の娘たちに対して性交渉を強制したため、男性機能を全てそぎ落とした。今後の処遇は竜騎士団に一任する」


「はっ!!」


「ちょっと待ってよ、父上!!え、なに、アレクは私が初めてのはずよ!」


 ネヴィアは狼狽した。


「残念だったな……だが、お前の考え無しの行動の結果だ。あの屑はお前より先にそこの3人と強制的にだが契っていたのだ」


「うそ、うそよ……」


 信じたくないと、父を見るが嘘をついている様子はない。さらに、辛そうな表情の娘たちもその事実を後押ししていた。


「男爵および関係者は後日極刑する。また、ネヴィア、お前から王位継承権と王族としての権利の全てを剥奪する。市井に落とすと無駄に血が広がりそうだからこの決定だ」


「ど、どうして……それに権利ってなによ……」


「ネヴィアよ、お前はもはや王族でありながら平民と変わらん。貴様に残されたのは義務――すなわち血を残すことだけだ。だが、わしも親だ。降嫁ということにしてやろう。だれか、この娘をもらってくれないか?」


 ゲオルギウスはあたりを見渡すが一人として前に出る者はいなかった。そんな状況がよりネヴィアに恐怖を与え、顔を青くさせた。


「陛下、よろしいでしょうか?」


 1人の年若い貴族が前に出た。

 昨年まで竜騎士だったが、相棒を流行病で亡くしてしまったため早期に引退した、まだ年若いイケメンの子爵だ。彼は王との間に入り込み、ネヴィアに向かって笑みを浮かべた。


「あ……」

 

 ネヴィアには救世主にみえたのだろうか、頬を染めている。


「どうした?娘をもらってくれるのか?」


「いいえ、これは結構です」

「……え?」


 だが、子爵はすっぱりとお断り申し上げた。

 さらに呆けているネヴィアを無視して続けた。


「陛下、彼女らに求婚する権利をいただけないでしょうか?」


「なぜか?」


「聞けば彼女らにも竜の血がながれているとのこと。それに家族を救うためにその身を犠牲にした慈愛の精神に心を打たれました」


「そうか……許可しよう。他にも求婚を望む者がいたら前に出ろ」


 すると、さらに数名の元竜騎士が前に出た。彼らもまた戦や病が理由でパートナーに先立たれていたのだ。そして、それぞれ意中の女性に求婚した。

 

 イケメンたちからの熱烈なアプローチで最初は戸惑っていた娘たちも、今ではほんのりと頬を染め、差し出された手をとっている。

 

 ネヴィアそっちのけで、もはや謁見の間はただのお見合い会場になっていた。


「ああ〜誰か、うちの娘はいらんのか?」


「「「いりません」」」


「そうか……」


「なんでよ!?どう考えても私のほうがいいじゃない!」


 即答したイケメンたちに噛み付いた負け犬だったが


「また浮気されても困りますので」「汚い血は結構です」「若い使用人を襲いそうですし」


 と即カウンターで撃沈した。

 姫としてだけでなく、女としてのプライドもズタズタである。

 しかし、王はここぞとばかりに追い打ちをかけた。


「……ふぅ。仕方がない。義務すら果たせそうにないなら、せめてわしの手で送ってやろう」


 そういうとゲオルギウスは腰の剣を抜いて産廃ネヴィアの首に当てた。


「いや、父上!やめて!」


「さらばだ……」


「お待ちください、陛下!」


「……なんだ?」


 首が落とされる寸前に待ったの声をあげたのは純潔騎士団――女性のみで構成され、主に王族や貴族の女性の身辺警護をする騎士団――の団長だった。


「陛下、もしよろしければソレを我らにください。立派な兵として教育します」


「……ふむ、できるのか?」


「ええ、もちろんです」


「よかろう。ネヴィア、ここで死ぬか、兵として生きるか選ばせてやる」


「なりばす、べいになりばす」


 もはやぐちゃぐちゃのネヴィアは即答した。

 そうしなければ、本当に首をはねられると感じたからだ。


「よろしい、では頼むぞ。団長」


「おまかせください、陛下」


 胃炎の原因を除けた王はいい顔でその場を閉めた。

 

 こうして大臣によって企画された『阿呆ネヴィアのプライドをへし折るための茶番劇』は行われたのだった。

 

 求婚をした男性たち、ネヴィアを助けた?純潔騎士団長をはじめ、出席者は全て大臣があらかじめ用意した。知らなかったのはネヴィアと娘3人だけだった。もちろん、求婚自体は本気で行われたため、娘たちはその後、貴族の妻として忙しい毎日を過ごしながらも幸せに暮らしましたとさ。


 え、彼女ネヴィアですか?……今日も元気にボコボコにされてますね。


あくまで茶番劇です

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