ジークは提案を受け入れた
本日2つ目です。
ゼノに意識を刈り取られてから30分ほど経ったころ、ジークは目を覚ました。
「──ここは……そうだ。ゼノさんにやられたんだった。でも何がどうなって……」
気遣いだろうか、ジークは広間の端に運ばれ寝せられていた。
医務室へ運ばれなかったのは、軽い脳震盪ですぐに目覚めるだろうとの見立てだったからだ。
しかし、そんなことよりも近くで繰り広げられている光景にジークは意識を持って行かれた。
「だいたい!あなたはいっつも、そうやって新人さんを──」
「悪かったって勘弁してくれ〜〜!!」
アネット激オコである。
ゼノはアネットに説教されており、その巨体が非常に小さく見えた。
「えっと……」
「お!アネット!ジークが目覚めたぞ!もういいよな?な?」
「ちょっと!?」
『あなたが救世主か!』と言わんばかりのゼノだった。
そして立ち上がろうとしたが、正座で足が痺れていたのか立ち上がれず、4つ足でジークに詰め寄った。シュールである。
「体は?」
「う〜ん……なんともなさそうです」
「うし。じゃ、結果発表といこうか」
そして何もなかったかのように話を進めた。
ゼノは小さいことは気にしないのだ。
「お願いします。あ、でもその前に質問いいですか?」
「おう、なんとなく予想できるが言ってみろ」
「最初のは一体どうやったんですか?それとその後の剣に魔力通し──「待て待て、一気に言うな、しかもほとんど全部じゃねぇか!」すいません」
「ああ〜〜、お前って結構貪欲なのな……」
呆れたように言うゼノだったが、言葉とは反対に顔は満面の笑みを浮かべていた。
そしてジークとの模擬戦の中身を説明し始めた。
「まず、どうやって接近したかだが……簡単だ。俺はフォースアップ初めから使っていた。その上で、ジークが目を閉じた瞬間に踏み込んだから消えたように見えただけだ」
「え?ちょっと待ってください。身体強化?全然のその兆候が見られなかったんですけど……そうだ。それに魔力付加も最初からって……」
「無詠唱だ。それからお前の切り札をどうやって防いだかというと、身体強化大だな!」
「……はい?」
ジークは理解可能な範疇の外に置き去りにされた。
無詠唱は納得できた。ジークはまだ使えないが、高等技術として知られている。
だが、魔法が発動した兆候がないとなると話は別だ。止めに、ゼロインパクトの防ぎ方である。
ゼロインパクトは爆発の衝撃に指向性を持たせ、すべて相手に行くように魔力で調節しているが、それでも凄まじい反動がある。その反動を身体強化大で受け止めているだけで爆発を防いでいるわけではない。
それは開発段階で『指向性を持たせずに自爆した』ジークがよくわかっていた。
よく生きてましたね。ジーク……
「お、やっぱり驚いたか!!」
「いや、驚いたどころの話じゃないんですけど……」
「んで、種明かしをするとだな。実はお前も使っている『技』なんだぞ?」
「……え?」
「お前魔力剣を伸ばせるが、伸ばすのに必要な魔力はどっから持ってきた?それに伸ばせる長さにも限界があるだろう?」
「それは剣に魔力をまとわせて……長さの限界は付加した魔力量、ですけど……」
「そうだ。俺はそれと逆のことをしたにすぎないんだよ」
盲点とはまさにこのことだった。
ジークはこれまで竜騎士として欠陥─中遠距離の攻撃手段がないことを克服すべく、試行錯誤を繰り返していた。その成果の一つが魔力剣を伸ばすことだった。
今回ゼノの行っていた技術はその真逆のコンセプトだった。
「もうわかっただろう?『魔力の圧縮』これが答えだ。圧縮をかけてやれば魔力は霧散しない。だから魔力光が見えないんだよ」
「なるほど、でもそんな話聞いたことありませんよ。僕が調べた本にも書いていませんでしたし……」
「そりゃお互いさまだ。俺も伸ばして固定する奴はお前が初めてだよ。ま、普通はこんなメンドクセーことしねぇよ。高位魔法を覚えたほうが早いだろうさ。だがな?俺の魔力量は平均の半分もない。魔力をドカ食いする高位魔法は発現すらしない。中位魔法がせいぜいだ。だから生み出した」
ジークは思わず目頭が熱くなった。
自分と同じく欠点を持ちながらも努力を重ね、そして自分よりも遥か高みにいる人が目の前にいたからだ。その努力に尊敬の念を持たずにはいられない。
「圧縮で密度が上がれば、それだけ強靭になる。フォースアップならさらに肉体が強化され、剣にアームズコートをかけたなら切れ味は何倍にも増す。まぁ魔力光が見えなくなったことで、対人戦で相手は油断してくるから不意打ち仕放題だけど、それは副次効果ってやつだ」
「なるほど、それでぼくの奥の手も防いだということですか?」
「おうよ。まぁ魔力付加もかけて防具も強化したけどな……最後にお前を気絶させた技は……今は置いておくか。で、ここからが提案だ」
そして、先ほどの明るい雰囲気を消して真面目な顔のゼノはこう告げた。
──「お前、10級な!」と。
「──は?」
声を漏らしたのはジークではなく、側で話を聞いていたアネットだった。
「何言ってるんですか!?ジークさんの模擬戦観てましたけど、どう考えても6級、いいえ5級ですよね!?ジークさんに失礼ですよ!!ふざけないでください!ゼノさんはそうや──」
アネット、再び激オコである。
ゼノに詰め寄って不当な評価に抗議をした。
「別にふざけてねぇよ。それに提案だって言っただろうが」
アネットを宥めながらゼノは続けた。
「組合には新人教練ってのを任意で受けられる制度がある。ただし、それを受けられるのは8級までだ。そして下位の等級のヤツほど優先して受けられる」
「それに何の関係が?すでにジークさんはかなり強いですよ?」
「こっからが本題だ。ジーク、お前もっと強くなりたくねぇか?」
「それは……もちろんです」
「模擬戦をしてわかったが、お前、馬かなんかに乗ってたろ?重心が騎兵のそれだ。だから、踏み込みに体重が乗り切ってないから剣が軽い。簡単にいえばバランスが悪い」
言えない。まさか騎兵は騎兵でも、その最上位の竜騎士だったとは……しかも、竜に振られて竜騎士じゃなくなった、なんて言えない。
でもジーク、あなたは悪くありませんよ。
「他にもいくつか改善すれば、もっと強くなれるだろう。それを俺が指導してやる。それに圧縮についても教えてやる。どうだ?」
「やります。10級でお願いします」
「ジークさん!?」
竜騎士ではないジークの戦力は大幅に低下しており、このままでは帰郷したとしても、リンドブルムではお荷物同然になるだろう。
それに旅を続けるにしても、あの地獄の追いかけっこを何度も経験したくないジークにとってゼノの提案は願ってもない内容だった。
むしろこちらから頼みたいと思っていたくらいだ。
「よし!じゃ早速、今日から始めるか!アネット。さっさと登録してくれ!」
「アネットさん、すいませんがよろしくお願いします」
「はぁ〜〜〜、わかりました。後で言っても変更できませんからね……」
ジークとゼノはやる気に満ち溢れ、模擬戦のときよりも元気になっているように見えた。
ジークの中身がゼノに近いことに気づいたアネットは「これからゼノさんがふたりに増えるのか〜疲れるんだろうな〜」と遠い目をしていた。
こうしてジークは無事に組合に登録した。
その後、サーベルウルフの牙を売却して得たお金をハボックに届けたが「足らんよ……」とひと騒動あったが、それはまた別の話。
*『固定化』は伸ばした魔力剣を維持するのに必要な技術です。
ひとまずジークの導入編はこれで終わりです。
次は成長?修行?編に入りますが、その前に幕間の話をいくつか入れるつもりです。
今後ともよろしくお願いします。




