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第一話・めんどくさい仕事

はじめまして。初投稿なのでへたっぴですが、どうか暖かい目で見てやってください。

第一話

「めんどくさい仕事」



 長い髪を後ろで縛っている男性の態度はふてぶてしいものだった。

 

 両手をポケットに突っ込み、ガムを噛み、イヤホンで音楽を聴いている。音もれが酷い。サングラスに隠れて目は見えない。細身の体を包む服装、トレンチコートにパンツ、は全体的に小汚い。

 

 その視線の先には、化け物が女性の体を喰っている図が広がっている。

 鉄臭い、血の匂いが広がり、肉と骨を噛み砕く音が響いている。

 「地獄絵図」

 その言葉がぴったりだろう。

 

 男は無言でトレンチコートの袖から、三本のダガーナイフを素早く取出し、無音で化け物に向けて放った。

 ナイフは化け物に刺さった。

 どのような投げ方をしたのか、柄が隠れてしまうほど深く刺さっている。

 路地に化け物の、聞くに堪えない咆哮が響く。そのワニのような大きな口を持つ化け物はくわえていた女性の胴体?部分を放り捨て、怒りに震える瞳を男に向ける。

 男の態度は変わらない。


「…貴様ぁ。何者だ?」

 低い声がワニのような口から発せられる。見かけによらず、なかなかの知能を備えているようだ。そこに苦痛の響きはない。

 しかし、答えはない。

 いや、そもそも聞こえていないか。

「まぁ、お前が誰であろうと関係ない。お前もこの女のように…喰らってやる!!」

 ひざを軽く曲げたかと思うと、その化け物は男に向けて、矢のように飛び掛かった。そのスピードは常人の比ではない。

 化け物は大きく口を開けている。ねらいは顔だ。

 対する男は、何もしないで、ただ、むかってくる化け物を眺めているだけだ。 

 しかし、その顎が男に届くことはなかった。

 化け物の体は空中にある途中で爆発した。

 化け物の体液が男に飛び散る。ハンカチを取出し、顔に付いたものだけを拭く。

 死体を踏み越え、路地の奥へと進んでいく。

 そして、女性の胴体部分をみつけると、男は新たに袖から出したナイフで躊躇なく、女性の心臓部分に突き刺した。ナイフの刃はたやすく、心臓にまで達した。

 そして、男がナイフを抜くと、その先端には少し大きめのチップが刺さっていた。

 それをハンカチで拭き、角度を変えて、何度も男は見る。

「正解、か…」

 低い声で、つぶやく。

 チップを外し、左ポケットに入れ、ナイフを袖に戻すと、男は立ち上がり、路地から出ていく。

 化け物の死体をまたぎ、細い道に入る。

 そこで男は立ちどまった。そして、両手の掌を胸の前で向かい合わせたままで止めると、小さな声で何かを言い出した。

「悪鬼の爆炎。わが左の手に宿り給え。気紛れな時の精。わが右の手に宿り給え。………圧縮!」

 左手には赤い小さな玉が浮かび、右手には白い玉が浮かんでいる。そして、男は合掌するようにして手を合わせる。

 すると、左手と右手の間に、薄い赤色の大きめの玉が表れた。

「発動延長、三分。」

 そう言って、両手を離し、玉を放置したまま路地から出ていく。


 そして三分後。

 何百度にもなる、爆炎が二つの死体を包み込んだ。 炎が消えた後には、何一つ、燃えかすすら残っていなかった。


 男は彼のホームである、ビルを訪れていた。

 名前は「レイヴン」。

 この世界における、傭兵界の最大手だ。

「おかえりなさい、レク。任務完了かしら。」 

 受付嬢が声をかける。二十代前半だろう。きれいな茶髪をショートヘアーにしてある。

「ああ。」

「専務に報告はしてきたの?」

「後でする。それよりジジイは帰ってきてるのか?」

「そんな言い方してたら怒られるわよ。」

 受付嬢は手早くパソコンで調べる。

 彼女の名前はミリア・フック。レイヴンの受付担当でありながら、Bランクの傭兵でもある。

「………帰ってきてるわね。どうかしたの?」

「文句を言ってくる。」

「また、何かあったのー?」

 ミリーは笑う。

「魔獣と戦うはめになった。おかげで服が汚くなった。」

「いいじゃない。特別手当てが出るんだから。」

 笑いながらミリーは言う。

「話が別だ。」

「あっ、そ。相変わらずだね。それよりさ、今晩空いてる?おいしいお店見つけたんだー。」

「彼氏が怒るぞ。」

 ミリーは頬を膨らませる。若干幼い感じがする。

「いいもーん。あいつだって、私に秘密で女の子と遊んでたもん。」

「俺はもっと大人っぽい女が好みなんだが……。」

「誰が低身長の貧乳娘だーーー!!!」

 物凄い剣幕だ。

 それに誰もそんなことは言っていない。

「わかったよ。仕事終わったら電話しろ。迎えに行くから。」

「やったー!!約束だからねっ!!!」

 軽く手を振り、レクはエレベーターに乗った。

 



 その二分後、レイヴンの最上階の豪華な和室にレクはいた。

「ちっ。何処に行きやがった、ジジイ。」

「ワシはトイレに行ってはダメなのか?」

「タイミングが悪い。それに来ることぐらい分かってただろうが。」

 レクがジジイと呼ぶ人物は確かにジジイだった。

 身長はレクの腰ほどまでしかなく、長く伸びた白髪や、髭は仙人を連想させる。

「それにワシには、マラスという立派な名がある」

 この老人は、マラス・ベッカー。レイヴンの創設者であり、最高責任者だ。年をとってからは事務のほうをもっぱら担当するようになったが、若いころは凄腕の傭兵で、何でも、一万の軍勢を一人で撃退したやら、とらわれの皇女を一人で救出したやら、うそっぽい話が広まっている。それほど、その名は広く知られている。

 レクも下座に座る。

「で、なんのようじゃ?」

「一つ目は文句言いに。二つ目はこれについてだ。」 

 レクは左ポケットからチップを取り出し、それをマラスに向けて投げる。

「これは?」

「俺のターゲットにうみこまれていたものだ。」

「お前のターゲットにか?」

 レクはうなずいて答える。

 マラスはチップをまじまじと見る。

「………おかしいのう。お前のターゲットは王国側の人間だったじゃろ。なぜ、こんなものか体内に…?」

「王国の連中が禁忌を破るわけがない。可能性は二つ。一つはそいつの気付かないうちにやられたか。…もしくは、はなから帝国側に裏切っていたか。」

「…ふむ。」

「裏切りだとしたら、……大正解ってわけだ。」

「簡単には決められん。これは後で技術部に送っておく。」 

「技術部になら俺が持っていく。用事があるんでな」

「分かった、お前に任せよう」

 レクはチップを受け取りエレベーターに向かう。

 その背にマラスが声をかける。

「おお。いい忘れておった。」

「なんだ?」

「最新ニュースじゃ。和平は帝国側の罠だったみたいようじゃな。失敗に終わったらしい。」

「そうか。そりゃ、朗報だな。」

 残忍、と表せそうな笑顔をレクは見せる。

「じゃあな。」

 そうして、レクは部屋から出ていった。



 この世界「ル・ワード」は大きく分けて二つに分けることができる。 

 一つは、遥か太古から存在する、原初の国家「リエナ王国」。

 一つは、百年ほど前に出来ただけであるにもかかわらず、機械の力を用いて、急速に力を付けてきた新興国「グラシア帝国」。

 リエナ王国は主に、宗教の関係もあり、「魔」の力を重んじ、機械を用いることを禁忌としているのに対し、グラシア帝国は機械を重視し、「魔」の力を軽んじている。

 このように、両国は利害関係や宗教的な違いがあり、長年対立している。

 しかし、長年の戦闘により、両国とも疲弊している。そのような背景が傭兵ビジネスの隆盛をもたらしている。 

 傭兵が多く用いられ始めたのは、つい二十年ほど前。それ以来、さまざまな傭兵会社が興り、傭兵界は広がりを見せている。中には、特定の人物の私兵化している組織まである。

 そのような情勢下であっても、昔からトップであった「レイヴン」は現在でも、業界最大手である。


「SSランク。登録名、レクサス・ガルバ。1430に任務完了。任務中、魔獣と戦闘に入り、撃退したものの、下記のものを損失したため、特別手当を期待するものである、……か。ところで新型のナイフの具合はどうだった?」

 目の前の女性にレクは答える。

「中々だな。タイマーの設定もしやすかったし、威力も上々。ただ、グリップが悪かった。」

「魔力の伝導率はどうだった?」

「それはかなりよかった。考えていた通りの鋭さを見せてくれた。」

「そう。……まだ改良の余地がありそうね。協力ありがとう、レク。」

 レクが今話しているのは、レイヴンの技術部部長のミソラ・キユウ。弱冠十八歳で帝国の最高学府である、リスト大学を首席卒業した超天才。歳は二十五だが、童顔であるため今でも高校生に見られることがあるらしい。

「新しいものはないのか?」

「あなたのおかげで、ちょうど開発中のものが明日辺りにでも出来そう。ほしかったら、明日の朝にでも取りに来て。」

「分かった。それで、ここからは俺の勝手なお願いなんだが……。」

「何?」

 レクはチップを取り出しミソラに渡す。

「それについて、調べてほしい。中身は無理かもしれないが、製造元や、どの時期に作られたものなのか。何でもいいから。調べといてくれ。」

 ミソラはマシュマロを口に入れる。

「いいわよ。テストに協力してくれたし。そうね…、その程度だったら明日の朝には出来てると思うわ。」

「すまないな。恩に着るよ。」

「恩に着るなら、明日の朝、甘いもの買ってきて。後、五つしか残ってないのよ。」

「あまり食べると太るぞ。体にも悪い。」

「あなた達と違って頭使ってるから大丈夫。」 

 よく意味の分からない言い訳を聞きながらレクは技術部の部屋を出た。



「本当にもー、あいつはどういうつもりなのよー!!」 

 ミリーと飲み始めてから二時間。もう完全に出来上がっていた。

「声がでかい。」

「何であんな女を選ぶのよー。私のほうが尽くしてあげてるのに…。マスター!同じのもう一杯!!」

「荒れてるねー、ミリーちゃん。はい。」

 ジンフィズがミリーの前に置かれる。それを勢い良く掴むと一気に半分まで飲んだ。

「どうにかしてくれマスター…。」

 レクは目の前でコップを磨いている男性に助けを求める。

「運が悪かったねー、レク。ま、頑張って。」

 マスターは笑う。端から見ると大学生ぐらいにしか見えないが、レクがレイヴンに入ったときから、変わらぬ姿で、ずっとここで商売をしてる。年齢どころか本名すら誰も知らない。そしと、誰もそれに触れないままでいる。

「レクはおかわり要らないの?」

「じゃあ、頼むよ。」

「ちょっと、レク!聞いてるのー!!」

「はいはい。聞いてる聞いてる。」

 それからもミリーの話は三時間ほど続き、レクはモスコミュールを飲みながら聞き続けた。



「そんじゃ、送っていきます。」

「うん。よろしくねー。」 

 結局、ミリーはつぶれるまで飲み、レクが送っていくことになった。

「そんな真面目なレクサス君にプレゼント。」

「なんですか?」

「ミリーちゃんの彼氏だけど、注意したほうが良いよ。黒い噂が立ってる。」

 マスターはかなりの情報通で誰も知らないような情報を大抵知っている。

「それはどういう類のものですか…?」

「何でも、情報をリークしているらしい。他の傭兵会社にね。」

「へぇー。それはまた………。」

「ミリーちゃんには悪いけど、なんとかしたほうが良いんじゃない。」

「……ありがとうございます、マスター。有効活用させてもらいます。」

「うん。じゃあ、よろしくねー。」

 マスターはバーに戻る。

「まったく。すごい人だよ、マスターは。」

「…………ばかぁ……」

「はいはい。今から、帰るよ。」



 次の日。レクは二日酔いすることなく、レイヴンに行った。

 窓口にミリーがいないのは、まぁ、そういうことだろう。

「レクサスさん。」

「なんだ?」

 窓口にいる女性に呼び止められた。見ない顔だ。

「専務が呼んでいましたよ。」

「…任務か?」

「たぶんそうです。」

「そっか。ありがとう。ところで…、君は?見ない顔だけど…。」

 女の子は背筋を伸ばす。

「申し遅れました。先週付けでレイヴンの窓口担当となりました、アイリス・ヘグ、と申します。新人ですが努力しますのでよろしくお願いします。」

 歳は二十歳前に見える。黒髪をポニーテールにしてあり、それがやたら似合っている。

「…この会社には何で、こう、若い子が多いんだ。ああ、絶対、ジジイの趣味だ。」

「え、何かおっしゃいましたか。」

「いや、なんでもない。こっちの話だ。それで、専務は自分の部屋か?」

「あ、はいっ。」

「ありがとう。行ってみるよ。」

 レクは笑って歩いていった。

 アイリスが顔を赤くしているとも知らず。



 専務室を見た人間は九割方、ある言葉を思い浮べるだろう。

「悪趣味だなぁ。相変わらず…。」

「おお!よく来たな。まぁ、座れ座れ。」

 レクは専務と向かい合うようにして座る。

 専務の名前は、カルロス・リードバーグ。熊のような体躯を持ち、性格も見た目どおりだ。よく言えば、豪放磊落。悪くいえば、大雑把でテキトー。しかし、仕事だけは真面目にし、特に会計をさせればミスすることはゼロだ。

「ただ、部屋がな……。」

「おう?何か言ったか?」

「いいえ。何にも。」 

 金ぴか。表現するにはその言葉だけで十分だ。

「???。まあ、いい。任務の話だ。」

「今度の任務は間違いは無いんでしょうね。」

「うむ。心配するな。というか、万全の準備をしてもらわなくてはならん。」

「と、言うと?」

「皆さんお待ちかねの、Sランク任務だ。」

 Sランクとはレイヴンに属する傭兵の中でも、レクのような、Aランク以上に属する傭兵にのみ依頼される危険度の高いもので、各人の考えうる、フル装備が基本だ。

「…ずいぶん久しぶりですね。で、内容は?暗殺?戦闘介入?護衛?」

「護衛任務だ。ある人物たちを帝都、ミスタナまで送ってほしい。」

「それで護衛対象は?政府の高官ですかね?」

 急にやる気が出てきたようだ。前のめりになっている。

「聞いて驚け。おまえにしか任せられない相手だ。相手はな………」



 次の日。待ち合わせ場所にいるレクの表情は暗い。昨日とは大違いだ。

「何で、俺がこんなことを……。」

 レクは時計を見る。時間までもう少しだ。リュックサックを担ぎ、手にはスーツケース。刀身の広いロングソードを腰に差している。服装は前回とは少し違いトレンチコートの代わりにポケットが多くあるベストを着ている。

「レクサス・ガルバさんですか?」 

 声のしたほうに顔を向けると三人、彼の護衛対象がいる。しかし、レクの視線はかなり下だ。

 視線の先には年端もいかない子供が三人。男二人に女一人。

(あーあ、めんどくさくなりそうだ。) 

 「めんどくさい」この時点での彼の気持ちはその程度だった。

 後に到底「めんどくさい」では、言い表わせられない状況になるとも知らず。

 レクの頭上はすばらしい好天だ。

ここまで読んでいただきありがとうございました。あなたはきっと辛抱強い方なんでしょう。また、いつかお会いしましょう。

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