ゲームの世界へいこう
書きたくなったから書きます。
昔、世界は1つだった。世界を構成する者たちの均衡は保たれていた。不自由なく釣り合っていた。世界は満たされていた。しかしあるとき、対になっている光と闇が抜けることによって世界の均衡は崩れた。今まで綺麗に釣り合っていた世界は崩壊し始めた。光と闇が離れた後、次々と炎、水、風、土が離れ、そして最後に鋼がはなれた。世界は空っぽになったのだ。元の世界には何も残っていなかった。
光が無くなり明るさを忘れた。
闇が無くなり安息を忘れた。
炎が無くなり暖かさを忘れた。
水が無くなり潤いを忘れた。
風が無くなり流れを忘れた。
土が無くなり恵みを忘れた。
鋼が無くなり技術を忘れた。
今まで1つだった世界は7つに別れた。それぞれが独立した後、それぞれが新たな世界を造り出した。元々7つの要素で均衡を保たれていた世界は安定するのか、否、それは当然不安定になった。
世界は不安定になった。
世界の秩序は無くなった。
世界を守る術はなくなった。
そんな世界を救うために世界中の冒険者達が立ち上がり、安定した世界を取り戻そうと、バラバラになった世界をつなごうと旅を始めた。
困難な事があるだろう、理不尽な事があるだろう、逃げ出したくなることがあるだろう。
しかし、どんな時も立ち向かわなくてはならない。共に立ち向かう仲間もいるのだから。
あなたはそんな冒険者達のうちの1人である
………
そんな文句で始まるゲーム「七色の橋」は私、弓上奈々の大好きなゲームだ。追加データの配信があってストーリーは更新されて、キャラの育成もたくさんできる。公式の小技から噂レベルの裏技も全部やってみた。これ以上育ててどうするの?みたいなところまでやり込んだ自信はある。やってない事と言えばストーリークリアをしたら新しいデータでステータスを引き継いで出来るってことくらい。ステータス以外のアイテムとかは全部リセットだからもったいないからまだやってない。でもそのうちやろうと思ってる。
そんな私は今、幼なじみの川田遊希と一緒に街で見知らぬお婆ちゃんの道案内をしている。遊希も「七色の橋」をやってる。遊希は何周もやってる派の人。
私達は遊んだ帰り道でこのお婆ちゃんを見つけた。駅の前で地図を見ながらウンウン唸っていたので「何かお困りですか?」と声をかけた。街は夕焼けで赤く染まり始めていた。駅は家に帰る人達で少し混雑していた。
お婆ちゃんの顔には皺が刻まれていてかなり高齢に見えた。その足下には使い古した、よれよれの紫色の重そうな風呂敷が置いてあった。中身は多分本かな?
「えっと、ここですね」
私達が移動を始めてから10分くらいしたら遊希はそう言った。遊希が指したのは、薄暗い裏通りにある小さな建物だった。夕方だからさらに暗く見えた。
「おぉ、そうかい、ありがとうねぇ」
お婆ちゃんはそう言うとペコリと頭を下げてお礼を言った。
「お婆ちゃんここってどんな所なの?」
私は気になっていたことを聞いてみた。この街で育って17年になるけどこんな場所には1度も来たことがなかった。大通りから離れていて薄暗い裏道。危なそうだからあまり近づきたくなかった所だった。
お婆ちゃんが応える。
「そうだねぇ、強いて言うなら魔法屋ってところかねぇ」
辺りは一瞬静寂に包まれた。
近くでカラスがバサッと羽ばたいた。
都会の喧騒が遠くに聞こえた。
世界から切り離されたように感じられた。
ありえない言葉が返ってきた。私は耳を疑った。
「魔法屋ですかっ?」
私は思わず聞き返してしまった。
「魔法ってあのファンタジーによく出てくるあの魔法?」
と遊希も思わず聞き返していた。
「どんなもんを想像してるかわかんないけど、大体のことはできる便利な魔法かねぇ。そうだ、折角案内してくれたんだし、何かお礼をしてあげたいねぇ。何かしてほしいこととかないかい?」
やってほしいことかぁ、何かあったっけなと私が考えを巡らせ始めたとき、遊希が何か言いたげな目でこっちを見てきたので、
「魔法って……本物ですか?」
と私は尋ねた。確かに、確認しないとかないとだめだよね。でも遊希は何か諦めた顔をしてる、あれれ、間違った?
「あんまし派手なことはできないけどねぇ、これくらいなら。ほれ」
とお婆ちゃんが口を開と、私が代わりに運んでいたあの重そうな、実際に重かった風呂敷は空中にふわふわと浮かび上がった。
「おぉ」
驚きの声が漏れた。これはすごい、本物だ。
「あれ? こんなに浮かばせられるなら私が運んだ意味無いんじゃ……」
「そんなこと言いなさんな、若いの。魔法ってのは信じられない人の前じゃ使っちゃいけないのさ。あんた達は声を掛けて道案内をしてくれた。荷物も運んでくれた。周りの人が気にも掛けもしない中でね。それは信用に足る十分な証拠さ」
なるほど、そんなにみんなの前でポンポン使えるものじゃないのか。さっきの駅みたいに人がいるところで使っちゃうと目立ってしょうがないか。まぁそうかと考えながら、
「ファンタジーの世界みたい……」
と私が呟くと、
「その魔法って……別世界とかって行けたりしますか?」
なにかに気づいたように遊希が聞いてた。
「完全な別世界になっちゃうと無理だけど、童話とか小説とかの創作物の類の世界ならいけるねぇ」
「じゃあ、ゲームの世界とかは?」
「物語性があればいけるねぇ」
遊希がなにをしようとしてるか、そこでやっと分かった。そして次に私達は顔を見合わせてから口を揃えてこう言った。
「「『七色の橋』の世界に行きたいです!!」」
それから話はトントン拍子で進んだ。私達はゲーム「七色の橋」の説明をした。それから創作物、すなわちゲームの世界に行ってる間の注意を受けた。向こうの世界の設定を守るために許されないことがあるっていわれた。世界を変えるような技術を伝えるなどをすると即座に追い出されるらしい。世界観を守るためのマナーだそうだ。
あとは、もともとのストーリーから離れ過ぎたりしたら巻き戻しが入るといわれた。赤ずきんちゃんで狼より早くお婆ちゃんの家についたり、桃太郎で桃を拾わなかったりしたら大問題ってわけだ。それから時間について。向こうの世界に行ってる間は時間が進まないらしい。浦島現象は起きないって、一安心。
「じゃあ今から創作物の世界に行く方法を説明するよ。今から渡すペンダントには魔法がかけられてる、世界の入り口を開く魔法だね。このペンダントを行きたい世界がある物の前で掲げて、その世界にいきたいと強く願うんだ。そしたらその世界への扉が開かれる。あとはその扉をくぐるだけでいい。これは、向こうの世界とこっちの世界を繋ぐ大事なものだからなくしちゃならないよ。わかったかい?」
「「はいっ!」」
私達はそう答えた。
「じゃあ楽しんでくるんだよ。」
そう言って私達は見送られた。
ほんとはもう一話あげたかったけど、1日が終わりそうだからアップ