つめたい春
掲載日:2017/01/24
桜が咲いた。少しばかり乱暴な風に乗って、淡い花びらが飛んでいく。
春には重苦しいものがある。
希望に満ちた空気の、そのまろやかな鋭さ。
肺を満たしては薄く突き刺す暖かさ。
つめたい日常の中にスパイスとしてませた顔をしてやってくる。
しなやかなかぎしっぽの猫が、水溜まりを覆い隠す程の花弁をじっと見つめている。
私は決して春が嫌いな訳ではない。
冬に比べて雪は降らないし、寒くないので霜焼けもできない。
繊細な、美しい色で溢れるので好きな部類だ。
されど、この季節には期待という怪物が大手を振って歩き回っている。
その怪物の持つ爪が私を抉り、その手が心臓を握り潰し、そして耳元で「お前は非力だ」と囁いて呪縛と成していくのだ。
その怪物に殺される前に私は生きていかねばならない。
誰に頼るわけにも行かず、私は生きていかねばならない。
足元で相変わらず水溜まりを見つめる猫のように、非力であるなりの生き方を。
いくら理想を持とうと、いくら決意をしようと非力な者は非力でしかない。
常に真冬の吹雪の中に、薄く突き刺す暖かさと、希望という鋭い刃物を抱えながら、非力でもそれでも立ち向かわねばならない。
この真冬の中に、ほんとうの春を生み出すために。
そのために、つめたい春の怪物に立ち向かわねばならない。




