第7節 ~能あるゲスはスキルも隠す~
スイナが冒険者登録をしている間、切り取った下半分のステータスを俺は読んでいた。
『女神の加護』・・・あなたを殺せるのはあたしだけ
さっきステータスを見た瞬間に「レアスキルじゃね!?」と思ったのだが、改めて読んでみるとある意味恐ろしいスキルであることが判明した。
効果欄に書かれた「あなたを殺せるのはあたしだけ」と言う意味の分からない説明文。
加護なのか殺人予告なのかはっきりして欲しいものである。
加護と言うからには防御系のスキルだとは思うが、確認のしようがない。
効果の分からないスキル。
これほど使えないスキルがあるとは・・・。
分からないことをあーだこーだ言っても仕方ないので、大人しくスイナのお呼びがかかるのを待つ。
「ユウトさんが元いらした世界はどの様なところだったんですか?」
待合室の隣に座るフィリアが質問してきた。
周囲の冒険者達が聞き耳をたてる。
「安全な所でしたね。その分退屈ではありましたが…」
「争いのない世界、ですか?」
「少なくとも俺の住んでいた場所はそんな感じでした」
「素晴らしいところだったんですね」
「そうですね」
フィリアの言葉を聞きながら俺は昨日の事を思い出す。
不思議と戻りたいと言う気持ちはないが、夢佳の事だけは気掛かりだった。
「ユウトさん、手続きが完了しましたので、こちらに来ていただいてもよろしいでしょうか?」
スイナに呼ばれたので俺は受付へと向かう。
「では、私はこれで。またお会いしましょう、ユウトさん」
フィリアも手続きが問題なく終わると判断したのだろう。
自分の仕事に戻る為席を立つ。
「色々と助かりました」
「いえいえ、頑張ってくださいね、ユウトさん」
「はい」
フィリアの背中を見送りながら俺は手を振る。
フィリアも一度会釈をすると、冒険者ギルドを出て行った。
「ユウトさん、最終手続きを再開してもいいですか?」
スイナの声に少し慌てて振り返る。
別にフィリアに見惚れて忘れていた訳では絶対にない。
「あの子可愛いですから見惚れるのは仕方ないですが、あんまりオススメはしませんよ?ライバル多いですし」
「・・・・・・べ、別にそう言う訳では」
流石に苦しい良い訳だった。
「では手続きに戻りましょう」
「はい」
スイナは俺の前に5枚の紙を出すとそこに書かれた絵をもとに説明を始める。
「冒険者になる場合、職業種と呼ばれるものを選択する必要があります」
「え?冒険者が職業種じゃないんですか?」
「そうではあるんですが、もっと細かく分類する必要があるんです。得意分野の目安を決める意味もありますね」
「あぁ、把握がしやすいからですか」
「そうです。職業によってクエスト特性がありますから」
クエスト特性?
魔法無効化モンスター討伐に純粋な魔法使いは派遣できない、みたいなことだろうか?
「冒険者の職業分類は5つあります。1つ目は一番左の騎士の絵が書かれた“戦士型冒険者”。これは最も人気の高い前衛職です。剣士やその上位職である騎士、更に特殊な所で言うと侍や拳闘士などにもなれます」
ふむ、つまり前衛職。
インファイターというやつですな?
恐らく盾とかを持って攻撃を引きつけたりも出来るんだろう。
万人受けする最も扱いのしやすい職業、と言うやつだ。
「次がその隣。弓矢を構えた絵です。これは“後方型冒険者”と呼ばれる職業で、遠距離からの攻撃を得意としています。威力より命中精度を向上させた職業ですので、中距離での戦闘もこなせる万能型と言ったところでしょうか」
ザ・狙撃手。
狩りなどの場合は活躍しそうだし、近距離戦も鍛え方次第で戦えそうな凡庸性の高い職業か。
それに何より安全に戦える。
中々魅力的な職業だ。
「3つ目が真ん中の魔法使いが書かれた“魔術型冒険者”です。これは産まれ付き魔術特性が高くないと難しい職業になります。ただ、魔法使いや魔術師より少し劣りますが、魔導具師という魔法道具を使用する職業なら可能性はあります」
スイナの心遣いに胸が締め付けられる。
はっきりと「あなたには無理です」と言ってくれてもいいのだが。
なるつもりないし。
ただ、魔法道具と言う言葉は気になるところだ。
「4つ目の聖所の絵が“支援型冒険者”です。攻撃関連のステータスが著しく低下しますが、唯一回復と言う異能を使用することが出来ます。また、仲間の能力値を一時的に上昇させたり、逆に敵の能力を低下させたりすることも出来ます」
ヒーラーと言うやつだな。
これも専門職だ。
俺には合いそうにない。
「最後に、“移動型冒険者”と呼ばれる職業ですが、こちらは主に荷物の運搬をされる方がなる職業です。他のに比べ速力が高く、唯一バックパックと呼ばれるスキルを取得できます。一定数量までアイテムを補完できるスキルです。ただ、戦闘にはあまり向きません」
あぁ、あれか、荷物持ちって奴か。
長距離移動の際には便利そうだ。
俺は5枚のカードを眺めながら考える。
まず魔法と支援は除外だ。
適性がなさすぎる。
そうなると、次に消すべきなのは戦士職だろう。
攻撃力20の男が盾になったところで、1秒も稼げない気がする。
残るは遠距離と移動。
遠距離であればちまちまと安全にLvを稼いで実力を付けた後に大成していけばいいし、確実だ。
それに、途中で近接戦闘寄りに補正出来たりもする。
対して移動を選んだ場合は、荷物持ちとして金銭をちまちま稼ぐのが無難だろう。
それから装備をそろえて、Lv上げをしていけばいい。
俺は考える。
そして1枚の紙を手に取るとスイナに渡す。
この日、俺は人生で初めて冒険者になった。
職業選択ってRPGでも一番大切ですよね。
一番難しい所でもありますが。