第29節 ~アクティア改め、エミリー~
強い日差しと微かな匂いに俺は目を覚ました。
窓から差し込む朝日が眩しい。
ソファーから身を起こすと、俺が起きたことに気付いたニーナが近寄ってきた。
「おはよう」
「あぁ、おはよう」
主人より早起きとは殊勝な心がけだ。
まぁ、とくに命令もしてないので遅く起きたところで怒るような事もないのだが、良い事に変わりはないのでニーナの頭を撫でながら褒めておく。
ニーナも大人しく撫でられながら気持ちよさそうにしていた。
しばらくニーナと微睡を楽しんでいると、キッチンからいい匂いが漂ってきていることに気が付いた。
「朝ごはん」
「うん。ん?朝ごはん?」
ニーナが楽しみだと言わんばかりにキッチンを指さす。
「ニーナが作ったの?」
「違う。エミリ」
「エミリー?誰、それ」
「アクティアの事」
「あぁ」
ニーナの言葉と合わせたようにアクティアがキッチンから顔を覗かせた。
手には焼き魚の載ったお皿が握られている。
「あ、おはようございます。今ちょうどできましたので、そちらに持っていきますね」
そう言って、人数分の焼き魚をアクティアが机に並べていく。
「エミリーって料理できたんだな」
「はい、一通りは教え込まれてますので。それより、エミリーって私の事ですか?」
「ニーナがそう呼んでたからな」
俺の隣で「延して無い」とニーナがつぶやいていたが、頭を撫でて誤魔化しておく。
「ニーナの主人であるユウト様なら仕方がありませんね」
「何か渋々って感じだな」
「普通は親しい人以外には呼ばせない名前ですから」
なるほど、「呼んでいい」=「親しい」になる訳か。
ほぼ初対面の俺に呼ばれるのはあまり好ましく無い様だ。
とは言え、アクティアよりはエミリーの方が呼びやすいので遠慮なく呼ばせてもらおう。
机に並べられた焼き魚とエミリーを交互に見ながら俺は頭を捻る。
「この魚はどうしたんだ?」
「あ、これはニーナが朝一番で川から取ってきてくれまして」
「がんばった」
俺の隣でフンスッとニーナが胸を張っていたので、引き続き頭を撫でておく。
働き者は嫌いじゃないぞ、ニーナ。
キッチンで手と顔だけ洗い、俺は食卓の椅子に腰掛ける。
ニーナとエミリーは既に準備が出来ていたようで、椅子に座ったまま俺を待ってくれていた。
「じゃあ、遠慮なくいただこうか」
「どうぞ。召し上がってください」
「待ってた」
俺は手を合わせて「いただきます」とつぶやくとフォークを手に取り魚の身を口に運んだ。
その様子をニーナとエミリーが見つめる。
「おいしい?」
「おぅ、美味しいな」
俺の返答に心配そうに俺を見つめていたエミリーが安堵の息を吐きながら胸を撫で下ろした。
「良かったです。お口に合って」
どうやら味付けが心配だったらしい。
濃すぎない塩味で文句の付けどころのない出来だ。
魚も白身魚なので、どことなくアユの塩焼きを思い出す。
「ほら、大丈夫だった」
「ニーナの言う通り塩焼きにして正解でした」
俺の感想を聞いて安心した2人はそれぞれ自分の魚に手を付け始めた。
美味しそうに食べているので、自己評価も高そうだ。
魚の骨と戦いながら俺は今日やらなければいけない事を頭の中で整理する。
今日はとりあえず食料確保が最優先事項なので、一回街に戻って買い物するのが手っ取り早い。
手持ちのダレス金貨が使えるかはわからないが、当面は初心者殺しから返してもらった金貨でどうにかなるだろう。
あと、エミリーをどうするかも問題だ。
このまま解放してもいいのだが、再度どこかしらで同じような事が起こらないとは限らない。
いや、この子の事だ・・・2回目が絶対に起こる。
そう考えると、ニーナとも仲が良い様だし指定の場所まで送り届けるのが一番丸く収まる方法ではあるのだが、こればかりは本人の意思を尊重しようと思う。
2人が食べ終わるのを確認してから、俺は今日の目的を2人に伝えた。
「エミリーはどうする?送って欲しい所とかあれば希望は聞くけど」
「その・・・」
食料確保の話をした後に続けて希望の行き先をエミリーに尋ねると、歯切れの悪い返事が返ってきた。
隣のニーナが不安そうにエミリーを見つめる。
何で返答できないのか大体予想が付いている上で質問したので、俺は静かにエミリーの次の言葉を待つ。
喋り方やしぐさ、マナーなどを見た上での俺の推測だが、エミリーは恐らくどこかの貴族かお金持ちの娘なのだろう。
そんな戦闘スキルもロクに持たない少女が1人で旅をする、と言う事は余程の非常事態か家出かのどちらかしか思いつかない。
様子を見る限り非常事態とは思えないので、恐らくエミリーは家出中なんだと俺は推測する。
家出中の少女に変えるべき場所という選択肢はない。
そうなると必然的に親族や知り合いを頼るほかないのだが、昨日話していた限りではエミリーの“旅”に目的地は無い様に感じられた。
要するに、行きたい場所も決まっていない、と言う事。
おそらくニーナはエミリーの境遇をある程度知っているのだろう。
ニーナが俺の袖を掴みながら何かを訴えかけてきているが、俺は気付かないフリをする。
こういう事は自分から言うべきなのだから。
「何でもします。雑用でもなんでもしますから・・・その・・・」
俺の真っ直ぐな視線から逃げるようにうつむいたエミリーは、少しの間迷ってから消え入りそうな声で懇願してきた。
「一緒に連れて行っていただけませんか?」
もちろん、俺に断る理由などない。
雑用係確保ぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!




