第24節 ~ニーナから見える景色~
※今回はニーナ視点になります
暗い部屋に赤く濡れた自分の手。
床には親が倒れ、血だまりが広がっている。
ニーナがやった。
手に持った血濡れのナイフがそう物語っていた。
家の外からドタバタと大人の駆け込んでくる音が聞こえ、そこで夢はいつも終わる。
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今日もいつも通り目を覚ますと鎖の音が鳴った。
自分の手首を見下ろすと見慣れてしまった鎖が目に入る。
ニーナはあの日、犯罪奴隷になった。
親を殺して犯罪奴隷にされてしまった。
ニーナは必死に話を聞いてと訴えたが、周りの大人たちは誰一人として話を聞いてくれなかった。
夢の中のニーナは一人ぼっちだ。
そして今も一人ぼっちだ。
犯罪奴隷の中でも親殺しは軽蔑される。
どんな人でもニーナが親殺しだと知ると、近づこうとしなかった。
助けて。
そんな言葉に手を差し伸べる人はいない。
ニーナは親殺しなのだから。
いずれどこかの戦地か炭鉱の慰み者として一生を終わらせるんだろうと思う。
また、奴隷を買いに来た男がいた。
鉄格子の向こう側で店の男と話しながら首を振っている。
助けて。
その言葉が誰かに届くことは無い。
ただ、ひたすらに牢屋の片隅で涙を堪える1日が今日も始まる。
――――――◆◇◆◇◆◇――――――
目が覚めた。
朝日が窓から差し込み、その眩しさに目を覚ます。
いつもなら薄暗い石の床で目を覚ますのに、今日はふかふかのベッドの上で目を覚ました。
「・・・・・・夢?」
ニーナは自分の手を持ち上げる。
いつもしていた鎖の音はしない。
「お、目覚ましたか」
横の椅子に座る男が声をかけてきた。
そうだ、昨日この男に買われたんだ。
ニーナが昨日の事を思い出すと、お腹がくぅ〜と小さく鳴った。
少し恥ずかしくなって目線を外す。
ニーナのお腹の音を聞いた男が、待ってましたとばかりに自分のバッグの中からパンと水を取り出し、それをこちらに突き出してくる。
「腹減ってるかと思って今朝の朝市で買っといたから食べていいよ」
「ありがと」
パンと水を受け取りながらニーナは改めて男を見る。
何処か不思議な雰囲気をした変な男だ。
奴隷であるニーナをベッドで寝かせて自分は床で寝たり、美味しい食事をくれたり、ニーナに優しくしてくれる。
正直酷い扱いも覚悟していたので予想外だった。
「今日はモンスター討伐してレベル上げに行くから、しっかり食べて準備しとけよ?」
男の言葉に頷くと、ニーナはパンを頬張る。
ちょっとは役に立てるように頑張ってみよう。
そうしたらまた、美味しいご飯が貰えるかもしれない。
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レベル上げに来たはずなのに男はなぜかモンスターのいない森の奥へと向かっていく。
この先には近づいちゃいけない洞窟しか無いはずだ。
レベル上げならさっきまでいたゴブリンを倒すのが一番効率がいいと聞いたことがある。
なのにこの男はゴブリンを無視して先へと進んで行く。
しばらく歩いていると周囲の空気が変わった様な“嫌な感じ”がした。
洞窟に近づきすぎたんだと本能的に思った。
急いで周りの音を聞いてみる。
ズンッ――――――
何だか重い物が地面を揺らす音が聞こえる。
男は気付いていないのか、歩みを緩める様子は無い。
男を置いて逃げようか男に逃げるように言おうかニーナは迷った。
しかし、直後にそれすらすでに手遅れだと思い知る。
木々の間を抜けると目の前に洞窟が見えた。
そしてその中に赤い光点が2つ浮かび上がる。
足が震えた。
圧倒的な殺気が自分達に向けられているんだとニーナでも感じることが出来る。
あまりの重圧に耐えきれなくなったニーナはまともに立っていられず、男の袖を掴んで何とか体勢を保つ。
『黄泉の門番』
確かそんな名前だったはずだ。
牢屋の中で一人の女奴隷がよく話していたのを思い出す。
古の入り口を守る、不倒の兵士。
過去に腕に自信のある冒険者達が数多く挑んでいったが傷一つ付けれずにやられていったとか、あまりの強さに王国の騎士団も討伐できずその存在を黙認しているとか、様々な噂話がある。
中でも有名なのは王国騎士団長を筆頭とした精鋭50名の討伐戦。
参加したのはLv50を超える騎士団長と副騎士団長を筆頭に、騎士団の中から選りすぐられたLv30以上の騎士のみで構成された討伐隊だった。
現王国で最強と呼ばれた討伐隊。
しかし、その力を持ってしても討伐は敵わなかったらしい。
「よし、じゃあアイツ倒すからな」
「え?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
この男はあのモンスターがどれだけ強いのか知らないのだろうか。
それとも知っていて言っているのだろうか。
前者ならただのバカだし、後者なら大バカとしか言いようがない。
「えっと、作戦説明だけど・・・」
「・・・・・・」
ニーナは死にたくない。
Lv8のニーナと強そうには見えないこの男であのモンスターが倒せるとは到底思えなかった。
「逃げる」
「ん?何で?」
「勝てない」
「あー、確かにニーナは厳しいな」
この男はあのモンスターが近づいてきているのになんでここまで冷静でいられるんだろう。
そう考えると前者の可能性が高い気がしてきた。
相手の強さを知らなければ、これだけ冷静でいられるのも納得できる。
男はニーナの腰に差した短剣を指さしながら言った。
「それをあのゴーレムに投げれる?」
「無理」
「そうだなぁ、それができたら今夜は好きな物を食べに行こうか。それならできる?」
「・・・・・・」
モンスターはすでに目の前まで迫っている。
ここからニーナが全力で駆けだした所で逃げれるとは思えない。
それに今は足が震えていて動けないので男に頼るしかなかった。
どっちにしろ死ぬなら短剣を投げて死ぬ。
そうすれば運よく生き残った時にステーキが食べれる。
「見捨てないで」
「もちろん」
ニーナは震える手で思いっきり短剣を投げた。
短剣は放物線を描きながら飛んでいくとゴーレムの鎧に弾かれて地面へと落ちる。
ゴーレムがこちらを向いた。
「よく出来ました」
死を覚悟したニーナの頭を男が撫でる。
ゴーレムがハルバードを振りかぶり一気に近づいてきたのが見えた。
男がニーナを庇うように前に立つ。
「『韋駄天』」
男がスキルを発動した。
聞いたことの無いスキルだった。
そしてニーナの目の前で信じられない事が起こる。
ゴーレムの振り下ろしてきたハルバードを男が掴んで止めた。
「受け止めれるって事はやっぱり身体能力的にも強くなってるのか」
男がよくわからない事をつぶやく。
その横ではゴーレムが必死にハルバードを取り返そうとしているが、ハルバードがピクリとも動かず苦戦していた。
ハルバードを掴んだ状態のまま、男が蹴りをゴーレムの胴体に入れる。
まるでガラス細工を壊すみたいにゴーレムの胴体部分が砕け散り、兜の中から見えていた赤い眼光が消える。
しっかりと甲冑の隙間に蹴りを入れるあたり、実は戦闘慣れしているのかもしれないとニーナは思った。
ぴこん!職業が奴隷獣戦士にラックアップしました。
頭の中に誰かの声が聞こえてくる。
あまりにも呆気ない終わりだったが、どうやら今の戦闘でニーナのレベルが上がったらしい。
ぴこん!スキル『遠投』を取得しました。
ぴこん!スキル『短剣』を取得しました。
ぴこん!スキル『身体強化(小)』を取得しました。
ぴこん!称号【超感覚】を取得しました。
ぴこん!スキル『獣術』を取得しました。
昨日の朝は次の日にこんなことになるなんて想像もしていなかった。
ニーナは目の前に立つ男の顔を見上げる。
よくわからない変な人。でも―――――――――
「おーい、ニーナ行くぞ?」
「ん、わかった」
――――――今はちょっとだけこの“ご主人”を信じてみようと思う。
ぴこん!称号【王の従者】を取得しました。
自分の事を名前呼びしてる人の視点は一人称視点なのか
三人称視点なのかわかりづらいということに気が付いた。




