第15節 ~史上最低辺の戦い~
少し湿った土の様なベッドの感触に俺は目を覚ま――――――既視感!
俺は急いで起き上がると辺りを見渡す。
良かった、森の中では無い様だ。
原因不明の爆発に巻き込まれて吹っ飛ばされた瞬間までは憶えているのだが、その後は気を失っていたらしい。
周辺を見渡しても爆発したような痕跡は見当たらないので、相当飛ばされたらしい。
目の前の光景を眺めながら俺はため息をつく。
「見覚えのある山だ」
夢から覚めたら別の異世界、を願っていた俺からすれば落胆の事実である。
どうやら昨晩歩いた距離分丸々戻されて、初心者狩りに捨てられた山の麓に着地したらしい。
これで不死身の様な能力が俺にある事は不覚にも実証できた訳だ。
夢で見たLvUPが現実で起こっていたなら最高だったが、そんな感覚はない。
落胆しながらダメ元でつぶやいてみる。
「『隠密』」
直後、俺の全身に不思議な力が漲るような感じがした。
「おおっ!?何だ?」
不思議な感覚に体が包まれ、思わず自分の体中を触ったり眺めたりしてみる。
目に見えた効力がないのでこれで『隠密』が使えているのか確認のしようがないが、“何か”が俺の体に作用しているのだけは感じられた。
てっきり透明になったりするのかとも思ったが、自分の手は見えているので『隠密』は透明になるスキルではなかったようだ。
残念だ。非常に残念だ。
ひとまず効力の確認がてら、少し離れた川辺にゴブリンが見えたので俺は近づいていく。
気配を消すスキルであれば、これで効果が分かるはずだ。
100m・・・90m・・・80m・・・
ちょうど俺とゴブリンの距離が50mに差し掛かった時、ゴブリンが何かに気付いたようにハッと俺の方を振り返る。
そして、獲物を見つけたようににんまりと笑った。
「あ?」
予想外どころの問題じゃない。
50mって通常状態でも反応されない距離な気がするのだが・・・。
もしかして、夢はあくまでも夢だったって事か?そしてさっきの感覚はただの勘違い、だとでも・・・?
俺が現状把握に頭を悩ませる間、ゴブリンは棍棒を振り回しながら近づいてくる。
完全に逃げられないと悟った俺は、仕方ないので足元に落ちていた20cmくらいの木の枝を拾い上げる。
俺の知っている勇者は木の棒でモンスターを倒していたから、きっと俺にも出来るはずだ。
俺の腕ぐらいの太さがある棍棒vs小指くらいの太さしかない枝。
RPG協会もびっくりの戦闘だと俺は思う。
なんせ、ここに立っている俺自身が一番驚いているんだから。
「勝てるわけない!」
俺の叫びもむなしく、ゴブリンは棍棒を持ち上げると全力で振り下ろしてきた。
俺はその攻撃を避ける為、急いで横へと転がる。
ゴブリンの動きはそこまで早くないのでなんとか今の俺でも避けることが出来た。
攻撃なんて当たらなければ無いのと一緒だ!
「ゴブッ!」
「ジャンプ!」
「ゴブ!?」
ゴブリンが俺の回避に驚いたような表情を見せる。
「なんでこんな雑魚が回避なんて使えるんだ」的な表情だった。
実に心外だ。
「ゴブゴブ!」
「ぬ、フェイントだと!だが、あまい!」
「ゴブッ!」
「何のっ」
「ゴブブ!」
「これしきっ」
「ゴッ、ブッ!」
「俺にはっ」
「ゴブ!」
「朝飯前だな!」
ひたすらにゴブリンが攻撃し俺が避ける。
5分にも渡る史上最低辺の戦闘がここにあった。
史上最低辺の戦いに大きな変化が現れたのは、俺がゴブリンの攻撃を避け始めてから5分ほど経った頃。
そろそろ避けてばかりじゃいられないと俺が攻撃に転じる。
避ける方向を少し変えゴブリンの真横へと移動すると、持っていた枝でゴブリンの腕を叩く。
ズシャァッ
「ゴブゥゥゥーーーーー!!?」
直後、ゴブリンの左腕が斬り飛ばされた。
「・・・・・・」
目の前に事実に俺の頭がついて行けない。
もちろん攻撃を受けた側のゴブリンも何が起こったのか理解できていないようだった。
木の枝でなぜ斬撃が?
まさか、魔剣『木の枝』とか言わないよな?
どれだけ考えてもよくわからないので、瀕死のゴブリンにもう一度枝を振る。
ズシャァッ
「ゴブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
断末魔のような叫び声をあげてゴブリンが真っ二つになった。
「・・・・・・」
どうやらまぐれではなく、本当に魔剣『木の枝』とかそう言った類の何からしい・・・。
この木の枝があればひとまず何とかなりそうな気さえしてきた。
「・・・・・・よし」
考えるのも面倒になったので、俺は戦果(棍棒と魔剣『木の枝(主人公談)』)を握りしめながら街を目指して歩き始める。
お金や道具をどうしようとか、自分のスキルは何なんだとか、あの夢は何だったのかとか、気になる事は考えだすと終わらない。
しかし、ひとまずやらなくちゃいけない事だけは分かる。
“彼に怨返し”をしなくては、ね!!
最強だけど力に頼らない。
そんな主人公を俺は見てみたい。
あ、俺が書いてるのか。




