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血塗られた

ーーその日、ぼくは……


生まれたての、小さな手。それを父さんと母さんはぎゅっと握ってくれた。噛みしめるように。狂おしいほどの愛情を持って。何度も、何度も。


生まれてきてくれてありがとう、父さんと母さんは揃えて言ってくれた。ぼくに向かっての、最初の第一声。


瞬間、ぼくもその声に応えようと、父さんと母さんに初めての産声を届けた。言葉にもならない、なんとも言えないような声。それでも、そんな声でも。


優しくて、温かい。大きな両手で。父さんと母さんはぼくの頭を撫でてくれた。しばらくして顔、腕、足……全身を隈なく触って、笑う。微笑む。幸せなひと時。


そこでぼくは初めて気付いたんだ。


それはとても気持ち良いこと、なんだって。それはとても嬉しいこと、なんだって。それはとても幸せなこと、なんだって。




ーーその日、僕は……


薄々、勘付いてはいた。身体の異様さに。異常さに。異質さに。自分の存在そのものに少なからず恐怖を感じてはいた。それは紛れもない事実。事実だ。


けれど……まだ、父さんと母さんにはばれていない。僕の異変に、気付いていない。……はずだ。いや、絶対に。絶対に気付いてなんかいないんだ……。


その時の僕は、勝手に決めつけていた。いや、決めつけなんかじゃない。単に僕が、単純にそうであってほしい……という、願い。今日を生きる為に、生き抜く為に偽りの心が生み出した願望。


朝、昼、晩。何度、自分の身体の事について父さんと母さんに問い出されただろう。最初は、一年に一回聞かれるかどうかだけだったのに。気付けば、ほぼ毎日。数え上げるときりがない。


日を追う毎に、父さんと母さんの語気が強くなっていくのが子供心に分かった。そして、僕が6歳になる前日の夜。


「父さん、母さん。じ、実は……僕……ぼくは…………」


ついに僕は、二人に打ち明けた。打ち明けてしまった。紡いでしまったのだ。自らの口で。自らの意思で消し去ろうとした現実を。突きつけた。嗚咽混じりの弱々しい声で。頭を抱えながら、僕は崩れ落ち、両眼から涙を零した。


「…………」


「…………」


驚きの表情を現してはいるが、それでもなお二人は口を開かない。考える素振りもなく、ただただこの場に佇んだまま。何を考えているのか全くもって不明。謎。


長きに渡る静寂、と静かに啜り泣く擦り声。先に止んだのは、意外にもその両方だった。


「……ぐすっ……、父さっ……⁉︎」


「「ありがとう」」


僕は父さんに何かを伝えようとした。でもその前に、いつもの二人の優しげな声が聞こえた……最後に、僕は意識を失った。


そこからの記憶がぽっかりと抜け落ちてしまっている。あの時、僕はどうなってしまったのか。最後のあの言葉の真意も父さんと母さんの行方も、未だ分からず終いだ。


誰も答えを知る術なんて知らない。だからこそ、僕は突き止めなくてはいけない。自分が何者かを知る為に。この目で真実を確かめる為に。今は、何も分かっていないけどいつか……いつか必ず……‼︎




ーーその日、ボクは……





「…………」









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