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互助会新規事業相談窓口

作者: さゆき 諸星

100円ショップの和風コーナーに並んでいたキーホルダーを見て思いついたネタです。

『そうか、コレって和風(日本独自)なのか』と。

 昼食時、街中の食堂(兼、居酒屋)は小さな出窓に料理を飾る。


『本日の昼食(ランチ)』などと書いているが、ほぼ毎日変わり映えはしない。

 せいぜいオーク肉を薄切りにして焼くか、肉団子にして煮込むかだ。

 値段を書いた紙と一緒に、一食分を外から見えるように出窓に並べるのは、最近の流行(はや)りで、通行人の食欲を刺激して呼び込もう、と言う狙いだ。

 強い日差しの下に晒された料理は、時間が経つと干からびてしまうが、客寄せとして元は取れているようだ。


「こら、待て!」

 混雑した昼食時、何かに気づいた給仕(ウエイター)が、見事な瞬発力で飛び出して行く。


「ヤベぇよ、追いつかれる。」

「そこ曲がって隠れろ!」

 小さな盗人(ぬすっと)達は、路地裏に飛び込んで身を屈めた。

 追っ手をやり過ごし、取り返される前に胃の中に収めてしまおうと、手づかみで料理に手をのばす。


 ガチン!


「なんだコレ?(かて)ぇよ」

「石だ!石で出来てる。」

 逆さにしても肉団子の煮汁もこぼれない。

 次の瞬間、二人の首が背後からむんずとつかまれた。

「捕まえたぞ、悪ガキ共!」


「バカだなぁ」

 食堂の外に並べられたテーブルで、一部始終を見ていたクリス・マーティスは腹を抱えて笑った。

 路地裏に隠れたつもりの子供達が、クリスの位置からは丸見えだったのだ。


 今年で二十歳(はたち)になるクリスは、傭兵としての自分に行き詰まりを感じていた。

 傭兵と言っても、(もっぱ)ら臨時で商隊に雇われる、弓射手(アーチャー)兼、支援(バフ)系魔法使いである。

 魔力量の関係で、手の届く範囲にいる仲間の素早さや筋力を上げたり、自分の視力を一時的に良くしたりが精々で、攻撃魔法は勿論の事、離れた場所にいる敵の動きを妨害(デバフ)する事など無理である。


 近視で本当ならメガネを必要とするので、弓の腕も今一つ。

 15歳の時から5年間、どう考えても幸先はあまり明るくない。


 転機が訪れたのは3か月前、クリスは人より遅い『前世がえり』を起こしたのだ。

 その記憶の中に光明を見いだした。


 石化魔法で作る、『食品サンプル』である。



 状態異常『石化』の解除を練習するには、当然の事ながら石化された対象が必要である。

 だが、練習材料を調達する為に、コカトリスの群生地などに行って集めたのでは、化石(ミイラ)取りが化石(ミイラ)になるを体現してしまう。


 むしろ群生地から石像(遺体)が回収できる実力が有るのならば、遺族から謝礼金を貰えて生活には困らない。


 ではどうするか?

 適当な素材に、自分で『石化』をかけて、自分で解除するのだ。

 対象にするのは、狩ったり買ったりした肉の塊である。

 魔獣はもちろん、盗賊相手でも抵抗(レジスト)されてしまうので、戦闘用途では使えない、ネズミ相手でも生きていると成功した事がない。


 その程度の石化魔法で練習した、『石化解除』がコカトリスの群生地で役に立つか?

 答は否である。()瀬無(せな)い話だ。


 そこでクリスが思い付いたのが、石化魔法で作る『食品サンプル』である。

 日本では珍しくない食品サンプルは、前世はフランス人だったクリスには感動的だった。

 カッパバシの専門店は、大好きだった。

 精密な本物の業務用サンプルは五千円~一万円以上で、高価で買えなかったが、寿司や天ぷらのキーホルダーは、一時帰国の際にお土産として買い揃えた。


 本物の料理に石化魔法をかけただけでは、白黒灰色茶色の石になってしまう。

 今まで練習に使っていた肉は、やや傷み気味で色合いが悪くなり、石化魔法をかけて赤茶色の石になっても、あまり違いが無かったのだが、世界的に有名な、翡翠で作った白菜、のようなものを期待していたクリスはガッカリした。

 当たり前である。

 石化魔法で宝石が作れるのなら、今頃同業者は全員左団扇で暮らしている。


 気持ちを切り替えて、石化料理を絵の具で彩色し、スープは互助会が『ガラスもどき』の材料に使っている樹脂を色を付けて流し込む工夫をした。


 クリスは出来上がったサンプルの試作品とアイデアを(転生者)互助会に持ち込み、特許権(のような物)の保証と、食堂やレストランとの交渉の仲立ちもして貰っているのだ。



 店の料理を預かって加工し、それなりの料金をもらい受けるが、飾って捨てるだけの料理を毎日作れば、それはそれで費用がかかるし、夏の盛りでは見てわかる程料理が傷んで(腐って)、通行人の食欲を誘うどころではない。

 石化した食品サンプルなら、埃を払う事と絵の具の退色に気を配れば、何年でも使えるのである。


 特許権の概念の薄いこの世界では、互助会の承認があっても模倣されるが、実践であまり役に立たない支援系魔法使いはなり手が居ない、模倣するのにマイナー魔法の習得からでは、当分は大丈夫だろう。


 納品したサンプルと客の反応を見に来ていたが、盗人二人が噛みつくまで気がつかなかったのは、クリスの作ったものがそれだけ本物そっくりだと言う事だ。


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