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休話3

「……ん?」

 目が覚める、と言うのを言葉にするのは難しい。意識がはっきりしていないから何かを考えることが難しい。

 しかしそれは、目が覚めた所が見知った自分の部屋だった場合だけだ。見るからに旅館ではない所、自分の知らない所、来た覚えのない場所だったらすぐに意識ははっきりするってもんだ。

「どこだここは」

 端的に言うと、俺こと千葉昌昭は、今、全く分からない所に存在していた。段々と意識がはっきりしていくと同時に、得体のしれない恐怖感もわきあがってくる。

「何故俺は……縛られているんだ……?」

 恐怖の一番の理由であろうその縄は、完全に俺の身動きをとれないように座っている椅子ごと縛り付けている。正直体のあちこちが痛い。

 恐怖の根源はもう一つあり、それはこの部屋がとても暗く、なにも見えないと言うことだ。全く分からない、と言ったのはこの為である。暗いから何も見えないのだ。

窓もない、ドアがあるか分からない。椅子に座っていると分かったのは、俺の感覚による。もしかするとこれも椅子ではないのかもしれない……いや椅子だ、これは椅子なのだろう。

 え……と、それで何故俺はこんな所にいるのだろう。眠る前、俺は何をしていた?

「学校……はちゃんといったな」

 最も学校に行けども、まともに授業を受けていないけども。ええと、学校から帰って来て、それから後は何をした?

 俺はもっと深く考えようとしたが、それは中断された。眼を閉じ、うつむいた状態で考え事をしていた俺の視界は、突然明るくなった。

バッと見開いて前を向くが、眩しさの為眼をそらす俺。

「目が覚めた?先輩」

先輩?俺のことをそんなふうに呼ぶ後輩なんて、俺は1人も知らない。

今度は目をそらさないように、ゆっくりと瞼を開けて前を向く。

「ようやくこっちを向いてくれましたか、先輩」

そこには、俺の知らない……いや、この子を俺は知っている。髪をちょこんと後ろでくくったこの子、薄い栗色の髪がよく似合ったこの子、俺の一つ年下で、ちらっと見える八重歯がかわいい、そんな女の子を。

「お前は……確か……」

「え、いや、覚えてないでしょう。何せ一年も前の事ですからね。当時中学三年生の私は、先輩にナンパをされたんですよ?」

 そうだ、思いだした。当時俺は高校一年生。1人祭りで浮かれまくり、なにを思ったのか柄にも会わないことをしでかしたんだった。こうして今まで彼女なんていなかった俺のことだ、その後どうなったのかは言うまでもない。

「じゃあ、私たち、ようやく初めて自己紹介できますね、こうしてちゃんとお話しできる状態なんですから」

 ……いや、それなら俺の縄を外してくれないだろうか。とても、お話しできる状態ではないように思う。

「俺は千葉昌昭。……これでいいか?」

 しかし俺はそんなことはここであえて指摘しない。このこは……俺の望んでいたような子かもしれないからだ。

「私の名前は、千莉ちあです。やったね先輩、あなたの望んでいたメンへラ後輩ちゃんだよ」

 とたん、何を言われたのか一瞬分からなくなった。額ににじむ汗。しかし彼女は確かに、俺の望みを知らずに叶えさせようとしていたのだろう、それだけは分かった。

「先輩、なんて学校生活送っているんですか」

 まるで見てきたように彼女が言う。はっとして、俺は彼女の方をまず見る。

 キョロっと部屋の方に視線を逃がす俺。と、ここでようやく気付いたが、ここはどうやら誰かの部屋の様子。ベットがあり、棚があり、机がある。しかしところどころに俺の写真があるのはなぜだろう。例えば、机の上の写真立ては、俺の一年の時の写真だ。

「そうか……‼ここはお前の部屋なのか」

 俺は見まわした部屋にかかっているその制服を見て、ようやく理解した。なぜ俺の学校生活に詳しいのか、この子がどれほど俺の事を見ていたのかを。

「保健室って、何が楽しいんですか?ちゃんと授業に出ればいいじゃないですか、保健室通いなんてしないで」

 本当にこの子はいたい所を突くな……。いや、俺だって好きで保健室で授業を受けているわけではない。ちゃんとそれなりの理由もあるのだが……しかしそんなの、この子は全部知っているだろう。

 俺は再び目をそらしてしまう。ああ、そうだよ、あの日から全く前を向けていないよ……いっつも下ばっか向いて、光をいやがって……視線はいっつもきょろきょろしている。

「せんぱい」

 呼ばれて、前を向く。向いた先には、満点の笑顔を見せる彼女が。

「せんぱいは、こんな所で立ち止まる人じゃないんですよ?」

 この時の俺は、まさかこの言葉が冗談とか、勝手な妄想とかではなく、結構真面目に言っている話だったということを知らない。この時の俺は知らない、まさかこの子と一緒に世界を相手に戦争を始めることなど。

 そんな大層なこと、やはりこの時の俺は知らないので、さしのばされた手をとってしまった。その時、いつの間にか縄はほどけていたことにも気付かず、ただただ彼女からさしのばさてる手ほど、きれいなものはないと思い込んでいた。

 今、過去に戻る力が俺にあるなら、この時の俺に向かって、こういうだろう。


「そいつはメンへラ何かじゃない」




「どう……ですか?」

 緊張の一瞬、私は生唾を飲む。心臓がバクバクと動いている。ペらっ、ペらっと私の書いたそれをもう一度読み返している目の前のおっさんは、もしかすると将来私の担当者になるかもしれない人だ。

 ここはとある出版社の一つの小部屋。そこに二人、向かい合うように椅子に座っている片方が私だ。

「ん~……」

 めちゃめちゃ読んでる……私の小説めちゃめちゃ読まれてる……

「まずさ、みせかちゃん」

「は、はいっ!」

 急に名前を呼ばれたので変な声が出てしまう。

「おれ、超萌えるメンへラ小説書いてって頼んだよね?」

 それは先々週の事。小説の新人賞をとった私は、小説を連載させるため、担当の言う通りのプロットを一応書いてきたのだ。が、こんなもの私の望んでいた小説家とは違うし、頼まれた通りの物を書くなんてことはしたくない。

 しかし私がペーぺーなことは私が一番分かっている。反対すれば即打ち首だろう。なので、少しの抵抗として、頼まれたものとはちょっとだけ違う内容にしたのだった。

「やくそくも守れないの?そんなんじゃいつか締め切り破るよ?」

 いらっ。

 ……落ち着け、みせか。私はこんな時こそ冷静になれるタイプだろう。一回落ち着こう。

「ったく、なんでこんなガキの相手なんかしなけりゃならねぇンだ、メンへラの『メ』のしらねぇしよ、二週間も待たせやがって、速く書けってんだ」

 ブチっ。

「……かげんにしやがれ」

「あん?何か言ったかお譲ちゃん」

「いい加減にしやがれって言ったんだよくそがぁぁぁああああ‼‼‼‼」

 私はついに耐えられなくなり椅子から立ち上がった。

「あんた私をなんだと思っていやがるんだ!超萌えるメンへラ小説を書け!?ふざけんなよ!小説ってのは自分の書きたいものを書くものじゃねえのかよ!強制的に書かせるものじゃないだろ!大体私はメンへラなんて知らないっての!メンへラのどこに萌えるのかも知らない!どういうメンへラが萌えるのかも知らないんだよこっちは‼」

「ちょ、ちょっと、いきなりどうしたんですか?」

「いきなり!?いきなりじゃねぇだろ!もう私は怒ったぞ‼この際だから全部言うけど、何約束って!?女子か‼しかもその約束って深夜三時にかけてきた電話の内容だろ!翌日には忘れているに決まってるじゃん非常識か‼」

「いや、あのときはみせかさん全然寝むそうじゃなかったじゃないですか」

「深夜テンションだよ!わたしは今中学生だぞ‼あんた中二の女子なめてるの?しかもだよ、メンへラの事が分かってないだと!?そりゃそうだ、メンへラしらねぇし‼」

「ググればいいじゃないですか」

「ググったぞ!?とっくにググったわ‼確かにそれっぽいメンへラちゃんは出たけどな!いっこもわかんないだよ!なんでこれが萌えるのかが私にはわからなかったの!だから私にはこれを作るのは出来ない。作家と編集者ごっこならここじゃないどっかでやります、あなたの所はそれいかよ!」

 私はまくしたてるようにそう言うと、逃げるようにその部屋から出た。部屋の中は確認しなかったけど、きっと振り向いたらそこには鬼の形相をしたおっさんが今にも殴りそうな勢いで、こちらを睨んでいるのだろう。

 つまりは途中で怖くなって逃げてきました。


めっちゃもったいないことしてるよね。ワイも何でここ書いたのか分からんわ。


今日のポイント!みせかって結構キレやすい。

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