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拝啓、人間へ。我らはお前たちを支配しに行きます。  作者: 蒼筆野猫
序章「新たなる魔王」
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揺れる心の行きつく先

「どうじゃった、アルタイル?」

「一人で食べていたこともありますから、中々美味でしたよ」


レーニィに同席する形での、魔王城での初の晩餐は終わった。


メニューはどことなく、子供が好みそうなハンバーグといった趣。

しかしながら子供が嫌うであろう野菜などが一切省かれていないのは教育の指針だったのだろうか。

即位式典の態度はどこへやら、微妙に苦々しい顔で食べていたのは中々笑えるものもあったが。

そして現在はと言うと、食後のティータイムというやつだ。


食堂とも言えるこれまた豪勢な一室で、無駄に長い机に対面同士で座る。



「……ところで、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「よいぞ、わらわが答えれる事ならばなんでも答えてやろう」


ある種の言質は取った。

ここまで来たならばもうやることは簡単だ。

ぶつけるべき質問を遠慮なしにぶつければいい。


「即位の際に掲げになられた、あのお言葉ですが」

「ああ……この世界の頂点となることと、人間を全てわらわ達の僕としようとしておるという奴か」


「私がこの事を言うのもおごまがしいとは思いますが、お父上の理想とは……」

「ああ、確かに違う!」


……やはり、か。

求心のための虚言という線もありえるかと思ったが、それもなかったか。

しかしなぜ父の理想を捨ててこの道を選んだのか、それが気になる限りだ。



「では、なぜ……お父上の理想を選ばなかったのですか?」

「それは簡単じゃ、父上は理想に殺されたからじゃ」


「……ッ」

「アルタイル、おぬしも父の友であれば分かろう?」

ああ、確かにそうだ。

クラウドは人魔融合論という理想の元に魔王として動いてきたのだろう。


だがその理想の為に生きたのは良いとしても、結末はあんまりとも言える終局。

勇者による死……それはすなわち、理想は否定されたことになる。



「じゃからこそ、わらわは父上の無念を晴らさねばならぬのじゃ」

「だから、父の理想を継がない……と言う訳ですか」


その問いかけに、うむと首を縦に振る。

なんともやるせない気分になるとは、ずいぶん脆くなったものだ。


老いというものは勢いを殺し、思考を強くするとはいうがまさしくそうだろう。

選択はした、だがその選択が正しいのか否かが見えない。




「………少し、疲れたようです」

「そうか、ならお開きじゃな」

考え事をしたいがために、疲れを理由に席を立つ。

別段咎められなかったしそのまま食堂を出た。


執務室に戻る廊下を、独り歩いて戻る。

思考が堂々巡りを繰り返しながらも、収束していく。


やはり決めた道を引き返すことはできない、してはいけない。

だが彼女の意志もきっと硬いだろう。


そう思いながら、執務室に着くなり奥の扉へと向かい、扉の向こうに用意された寝具に寝転がる。

布団の上からではあるがそんな事はどうだっていい。


ただ今は、巡る思考を一点に収束させていき、そして眠りたかった。

私自身、間違っていることは理解している……だからこそ、答えを探していたのだろう。

どうすれば私は、この立場から彼女を動かすことができるのか


……ああ、友よ。

もし生きていたのなら君は、今の私をどう思うかな?






………いつしか私は眠っていたようだ。

布団の上から起きて、睡眠と着替えだけの部屋とも言える奥の部屋で、其処にもある

壁掛けの時計を重さが逆に増した体を起こして見つめる。


眠っていた割には、ずいぶんと短いな。

眠る前は時計を見ていなかったが、おそらくは長くても二時間くらいだろうか?


寝ぼけ眼をいじろうとして、その手を目元に伸ばすと、ふと頬に何か熱い物が流れていたのを感じ取る。

分かるさ、この感触が何者なのかは分かっているさ。


ああ、泣いていたのか。夢で涙を流したのか。


クラウド、きっと君に夢の中で出逢えたのだろう。


だから私に……僕に、こう言わせてくれ。




心配せずにあの世で待っていると良い、私はおかげで振り切れた。


外道だの、魔道だの。

そんな者に縛られるのはもうやめてしまおう。


私は真の魔王になる。


私の立場、魔王レーニィ・ベガ・ニルヴァーナの後見人にして懐刀の立場を大いに利用しよう。


魔王軍は私がほぼ掌握できているのも同然ではないか。

なんせ私は後見人であり懐刀。


私の言葉が魔王の言葉となり、魔王軍を動かす力を持つ。



ならばこそ………始めようじゃないか。



もし物語のようにこの策を題するならば、「魔王軍大革命」。


私の一世一代を掛けて、この魔王軍を絶対軍勢に仕立て上げる。

そして魔王レーニィ・ベガ・ニルヴァーナをその軍の頂点としてふさわしい存在にする。



さあ明日より、始めようか。

私の手がける魔王軍による勝利。


これが……これこそが、私の真の答えだクラウド。

序章とも言える部分はこれにて終了になります。


この後はアルタイルによる「魔王軍大革命」を主点とした内政パートと

魔王クラウドを討った勇者たち、および人間界の現在を描く第一章になります。


今後とも、応援の程をよろしくお願いします。

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