29人目の即位
ブックマーク増加と評価二件、これまたうれしい限りです。
これを糧にしてこのまま頑張っていきたいと思います。
「それでは、定刻になりました。只今を持ちまして、レーニィ・ベガ・ニルヴァーナ様の即位式典を行います」
先ほどの緊張はどこへやら、司会を任されたのかラエトゥルス少年の声が部屋に響く。
化粧室で顔を洗って眠気を覚まし、ラエトゥルス少年に目的の場所へ案内されて待つこと数分。
女の準備は長いなどと言うが、彼女が幼かったからそこまで時間は取らなかった。
子供の好きそうなパジャマ姿から一転、紫を基調とした子供用ドレスに身を包み次の魔王として精一杯振る舞う彼女。
あの年頃の子にとって、こういった式典は退屈な物も当然だろう。
それを我慢して、凛として貴賓席とも言える場所で自分の出番を待っているのだ。
傍ではポリアンナ氏が待機しているとはいえ立派なものだ。
アクタエオン最上階の30階、すなわち魔王城の最奥とも言えるこの部屋──玉座の間。
普段なら先代魔王の遺体を無駄に豪華な玉座に座らせ、その手を取り頭を下げる。
その後に遺体の頭部に飾られた魔王の証である、真紅の冠「ブラッドクラウン」を取る。
魔王即位の手順、もとい作法はそういった具合なのだが今回は親子、しかも本来座るべき遺体は
本人の遺言に則ってすでに葬儀に出した後である。
したがって、今回あの玉座は空席でありそこにはブラッドクラウンだけが置きっぱなしと言えるような状態で置いてある。
まあ流石に、今回ばかりは亡くなった父親を使うのは残酷にもほどがあるだろう。
誰が判断しかたはさておいて、遺体に泣きすがって式典が進まない可能性を考えればこれは賢明だ。
……玉座の傍に置かれた巨大なトーチに、黒い炎が灯る。
さあ、魔王が生まれる時だ。
二つの炎に照らされる玉座へと、ポリアンナ氏に促されたレーニィが歩む。
紫のドレスと金色の髪、そして魔族の証である二つの角。
幼いゆえにそれまでのサイズではないにしろ、この時はその角も黒い炎に照らされ
魔王としての風格を掻き立てるようにその場に存在していた。
一歩、また一歩と式典の参加者の間に、玉座の間の中心に用意された真紅の絨毯の上を歩む。
そして玉座にまで到達すると、ブラッドクラウンをその手に保ち、自らの手でその頭上に乗せるとこちらへと振り向いた。
「わらわはまだ幼子じゃ、それは認めようぞ……じゃが、この心は覚悟ができておる。」
その青い瞳の目頭は、涙に濡れるどころか燃える感情に任せるままに輝いていた。
彼女に中には、決意と熱い感情があるという証拠とも言えるその瞳。
本当ならば復讐鬼になってもおかしくはないし、魔王の座を降りるのも彼女の幼さならば何も問題はないだろう。
だが彼女はそれでもなお魔王として君臨する道を選んだ。
それは、私と同じ復讐か。それとも父の理想の後継者か。
あるいはただ、支配者として君臨するためか。
「お前たち……わらわの為に、我ら魔族の為にその血を流せ!これよりわらわは第29代魔王レーニィ・ベガ・ニルヴァーナである!!」
その叫びと共に、私と同じようにこの式典に集まっていた魔族たちの声が上がる。
それは歓喜か、欲望か。個人の全てが響く。
「魔族の為に……わらわは誓おうぞ!この魔界を、世界の左だけで終わらせぬ!わらわこそが、この世界の頂点となる!!人間は全て……わらわ達の僕としてくれる!」
な、なんだと!?
父の理想である人魔融合論を捨てたのか!?
……まさか、そこまでになる程にクラウドの遺体は酷い状態だったのか……?
だとしたらそれも分かってしまうが……とはいえ、これで決まってしまった。
人魔融合論は私が心の奥底で掲げるだけのものとなってしまった。
だが、私はこの"魔王"の腹心であり後見人である。
それでも、この魔王を操る存在。真の魔王となろう。
それしか私がクラウドへの手向けとして人魔融合論を叶えることができないからだ。