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拝啓、人間へ。我らはお前たちを支配しに行きます。  作者: 蒼筆野猫
序章「新たなる魔王」
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魔王

一件とはいえ、ブックマークが来ていました。

これほど嬉しいことはないです。


まだ名前も分からない、ブックマークして頂いた方。

この度はありがとうございます。

懸命に頑張らせていただきますので、今後ともどうか応援の方をよろしくお願いします。

「姫様……いえ、魔王様。そろそろお着換えを」

「んにゃ?」

私と彼女の名乗りが済んだところで、同じように叫びで起こされたポリアンナ氏から彼女に声がかかる。

着替えが必要なようだし、どうやら何かあるようだ。

まあとにかく部屋から出るのが先だな。



「アルタイル様は部屋の外でお待ちください。担当の者がすぐにご説明に向かいます」

「分かりました」

しかし説明と来たが……何か式典でもあるのか?

だとしたら、もう即位式典か?


確かに、ポリアンナ氏が呼び方を「姫様」から「魔王様」に変更した。

それを考えれば今日が即位式典と考えても何らおかしくは無い筈だ。


だがどうも早すぎる、先代にして父であるクラウドが散ってからまだ10日だ。

……もしかしたら、私を組み込むことを前提にした式典?


だとしたら……私はどういった立場に置かれるのだ?

そんな事を考えていたら、部屋に転がっていた玩具の一つに足が当たった。


ふと見てみれば、足元には子供に与える玩具の定例とも言える積み木。

……なのだが、どことなく様子がおかしい気がする。

とはいえ、着替えもあるのだし、なにより少し寝ぼけたままの顔では

この後に式典があるというなら流石にまずいだろう。


一度この事は片隅にでも置いておいて、部屋を出てロビーに戻る。

ふと思い、天井を見ると存在感のあるシャンデリアが改めて見える。


流石にシャンデリアに手出しはできなかったのか、このロビーに存在する豪華な品の中では唯一何も変化がない。

左右対称に配置されていた物が片方なかったり飾りとして柱に埋め込まれていた宝石の類。

金箔などなどは剥がれており、足元を飾る絨毯は所々で魔術でダメージを受けたような跡がある。


ロビーを一通り観察していくと、足音が聞こえた。

音の方向を見ると、スーツを着たあどけなさの残る少年が上の階へと続く、このロビーの角の方にある螺旋階段から駆け下りてくる。

この分だと、ポリアンナ氏が言っていた担当の者は彼でいいのだろう。



そう思いつつ、降りてくる彼を見つめているとそのままの足でロビーの右端である子供部屋の前、すなわち私の元へと向かって来るが

彼が辿り着いた頃は、息切れを起こしていた。

走らずとも良かったのだが、急いでここまで来たのだろう。


確か、このアクタエオンは全30階でありこの一階こそが最も広く階段の数によって複雑にもなっている。

……螺旋階段は、登れば一気に5階だった気がする。

そこから駆け下りてきたのか、足がもつれなくて良かったものだ。



「失礼、担当の者は君だと思うが……大丈夫か?」

「ひゃ、ひゃい……大丈夫れふ………」


いや、息が上がっている状態は大丈夫とは言えないだろうに。

とりあえずは当然と言わんばかりに彼の息が整うのを待つ。

説明はその後からでも遅くはないだろう。



「………もう大丈夫かね?」

「は、はい……ご迷惑をおかけしました」



「で、では改めまして……え、ええと。本日ア、アルタイル様の案内を務めさせていただきます、ラエトゥルス・ディディエールと申しまふ!!」

………どうも緊張しているようだ。

魔王の友人、という立場がまさかこんなところで響くとは。

正確には元友人というのが正しいと思うが、そこも置いておこう。

それにしたって、色んなことを置きすぎだろうが気にしすぎたらロクな事にならないだろう。


それに、元友人である頃を抜いたらロクに働かずに知識ばっかり溜め込んできた若干引き篭りの中級魔族だぞ私は。

宮仕えをしているであろう君の方がきっと立派だ、そう断言してもいい。



「まだ聞かされていないから聞きたいんだが、今後の予定は?」

「え、ええっと……」

質問を問うと、こじんまりとした体にぴったりなスーツの胸ポケットから手帳を取り出し

開いて予定が書いてあるであろうページを探している。


……どことなく懐かしさを感じた。

私もこうして、ひたむきに物事に挑んでいた日々があったものだと、ついグッと来る。



「あ、あのぅ……な、何か非礼がありましたでしょうか」

「……いや、なんでもない。予定を伝えておくれ」

そんな様子をじっと見ていたら、萎縮されてしまった。

怖い顔はしていなかったと思うが……それはそれで、ちょっとせつない。


「え、ええと……こ、この後は、ま、魔王様のご準備ができ次第、第29代魔王としての即位式典になります」

早すぎるとは思ってはいたが、やはり即位式典か。

ここまで早いのならば父の跡を継ぐ意思が、彼女の中で固まっているのだろうな。

だとしたら、その思考回路も人魔融合論を追い続けた父を知った上で彼女も選ぶのだろう。

父の理想を自分の手で叶えることを。



……しかし能力は大丈夫なのか?

いくら血統は完璧だとしても、そこが貧弱では魔王軍のシンボルとしてはただの飾りだ。

数代ほど、血統だけが取り柄だった哀れな魔王もいるくらいだ。


ここまで早急に即位する辺り……たぶん、大丈夫なんだろう。

魔王は代々、その身が朽ち果てたとしても、その妄執、その執念を受け継いで次の魔王が立つ。

その決意と、位の継承こそが「即位式典」の真意である。


女性魔王はここまでに何人かいたし問題もそうないだろうが、真の問題は最年少即位ということだ。

確かに後見人も必要なのも理解できる。


……目的の為に非情になるのだ。

人魔融合論をクラウドの望む形ではないにしろ、それを作り上げる。

それが人間への蹂躙と復讐であり、私の償い。



「……まだ余裕はありそうだ。今のうちに化粧室に案内してくれるかな?」

「は、はい!こちらになります!」


私が選んだ道を進むと、この道は間違っているが、間違ってなどいないと。

この即位式典で、それを心の底に秘めながらも唸る。

ああ、そうだとも。

私はもう選んだのだ。

ためらう必要など、どこにもないではないか!


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