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拝啓、人間へ。我らはお前たちを支配しに行きます。  作者: 蒼筆野猫
序章「新たなる魔王」
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少女の目覚め


桃色を重点においたファンシーな部屋にある子供用ベッドの前で、黒いローブの乙女と黒いスーツの男が二人。

大の大人が二人して水玉模様の寝間着を着た金髪の幼き少女の目覚めを待つ。

時間の経過は、部屋に備え付けられていた時計の音だけが響いて知らせてくる。


これがどこかの家庭の一室なら、どことなく微笑ましい光景なのだがここは魔界の首都、アクティオン・パレスの中心に存在する魔王城アクタエオンの一室。

魔界広しとも言えど、いくらなんでもこの光景は異質すぎた。




じっと眠る少女の目覚めを待つうちに、瞼が重くなっていき微睡に包まれていく。

眠気のままに瞼を閉じ、足がもたつき倒れかける。


それでハッとなって一度は眠気が飛んだ。

少し恥ずかしくなって、隣に立つポリアンナ氏を見ると彼女も少し眠そうな瞳をしていた。

……どうやら眠気はお互い様だったらしい。



うつらうつらと、互いに眠気に負けて体を揺らす。

流石に倒れてはまずい、と眠気を押してポリアンナ氏が部屋にある椅子を持ってきてくれた。

この部屋にあるのならそれくらいは私がやったのに、気が回る人だな。

そんな気遣いに甘えて、シンプルな椅子に座り込み……気が付いたら、意識が飛んだ。




「どうだクラウド、良いと思わないか?」

「流石だよアルタイル!君はやっぱり、僕のいい友人だよ!」

その中で懐かしい夢を見た。

ずっと昔、クラウドと共にいろいろと考えた夢。




「この術式を使えば、魔術見識は深まると思うんだが……」

「こうすれば寒冷地方でもしっかり暖が取れるんじゃないかな?」

魔族のさらなる発展の為に何ができるかとか、生活環境を良くできないかとか。




「目を覚ませクラウド!!人間は君の言葉など耳を貸しはしない!」

「僕たちは分かりあえる!アルタイル、君ともあろうものが何故分かってくれない!!」



「奴らは自分本位な存在だ、そんな存在が魔族の言葉に耳を傾けるとでも!」

「そんな人間はごく一部だ!真っ当な人間だっているさ!」



「そのごく一部が人間界を牛耳っているんだとなぜ分からない!!」

「君こそ、どうしてそんなにも人間を否定するんだ!」


……そして、宿命の岐路。

クラウドと大喧嘩して、そのまま喧嘩別れしたあの日の夢。



夢の中でも、最後の結末は変わらなかった。

口論に発展して、その後は互いに持てる力を出しての殺し合い。


……いや、互いに相手を完全に殺す気はなかった。

だからやっぱり、この場合は大喧嘩なんだろう。


夢の中でもやり直せないこの日。

きっと夢に見るたびに後悔が私の胸の奥で蘇るのだろう。


だがそれでも私は、魔道を踏み外して外道を進んだとしても歩もう。

人魔融合の道だと信じて、クラウドへの償いと「起きるのじゃーっ!!」



「ああふ!?ななな、何だ今の声!?」

「ど、どうやら姫様が起きるのを待ち切れずに、やはり私たちは眠ってしまったようですね……」

耳がキンキンする。

どこまで近くで叫んだんだ……?


悪い夢ではないが、いい夢でもない……そんな夢を遮られてしまった。

寝ぼけた顔ではあるが声の方向、ベッドの方向へと椅子から立ち上がり体ごと向ける。


そこには、ベッドの上に立ちその手を腰に当て、ふんぞり返る親友の娘の姿があった。

……パジャマ姿じゃ迫力も威厳もあったもんじゃないな。



「聞こえておるぞ」

「たとえそうだとしても心の中を読まないで頂きたい」

プライバシーの侵害だぞ。

特に次期魔王である君の腹心、もとい操り手になる男だしなにより君の父親の親友だ。

もうちょっと心を読まずに信頼してもらいたいかぎりだ。



「むぅ、ブラフじゃったのがバレたか」

「……さいですか」

そしてブラフなんて言葉をよく知ってるな。

12歳にしては耳年増なんだなこの娘は。



「ところで姫様、お名前は。」

「名乗りは聞く側からというのが礼儀じゃが、特別にわらわから名乗ろうぞ!」

……しかし独特な口調だな。

魔界広しと言えどもこんな口調は初めてだな。

奥さんのが移ったのだろうか?


結婚云々は小耳にはさんだ程度であった事を思い出し、同時にその程度の関係になってしまっていた事を痛感する。

……親友という立場だったのに、情けない物だ。



「わらわは第28代魔王クラウド・デネブ・ニルヴァーナが娘!レーニィ・ベガ・ニルヴァーナなるぞ!さあ、おぬしも名乗るがよい!」

「では改めまして……私の名はアルタイル・ローディング、あなたの父であり魔王であるクラウドの旧い友にしてあなたを支える者」


「おお、おぬしが父上の言っておったアルタイルか………父上には劣るが、予想より男前じゃのう」

「お褒め頂きありがとうございます」

彼女──レーニィの名乗りに対して片膝を付いて名乗り返すと、そんな言葉がかかる。

私、そんなに男前だったか?

昔から目元は鋭いとか、そういう言葉は聞いてきたが全体評価はどっこいどっこいだった気がするぞ。


……だが、今は置いておこう。

私は彼女を使うのだ。

駒として、飾りの魔王として。


……魔王軍革命による、人間の蹂躙。

計画を緻密に考えて思考を巡らせる。


だがこの頃はまだ思いもしなかった。

この少女の小さな体には歴代最強と言い切れるほどの力が眠っていること。

そしてそのせいで、手綱を引くのもやっとなじゃじゃ馬となっていたこと。


なにより、そのじゃじゃ馬っぷりのせいで私に心労が溜まることなど

この時、誰がそんなことを考えるものか。

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