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拝啓、人間へ。我らはお前たちを支配しに行きます。  作者: 蒼筆野猫
序章「新たなる魔王」
2/21

出会いの日


ポリアンナ氏が私の家まで到来した馬車に乗って、私はかつての友の居城へと向かう。

この家から出るのは、何時ぶりだろうか。

ましてやこれから居城へと向かう、それもまたあの日以来だ。



黒い馬車馬を二頭携えた、やや暗い赤で塗られた馬車。

装飾は控えめながら、その存在感は抜群の物を誇っている。



ふと馬車へと乗る際に、引く馬が気になってちらと見てみる。


……この馬車馬、魔界の馬の中でも最高位を誇る名馬「ヘルクロス・ホース」か。

黒き流れ星の異名を持つ黒毛の馬であり、小型の物でも人間界の馬を優に超える巨体を持つ。

大型の物ともなればそれこそ並みの動物よりも巨大であり、その毛並みもまた

体格が大きくなるほど美しく、そして身を守る防具としての役割を持つ。


しかも馬が足をふと上げたときにも見えたが、蹄鉄はおそらく最高品質の魔金属。

たぶん銀1:コバルト3:鉄6の、現在魔界で最もメジャーな金属である「魔合金カイル」だろう。


武器にも防具にも、装飾品も使える上にどういうわけか、かなりの軽量。

そんなシロモノを惜しげもなく蹄鉄に使うもんだな、と思いつつ、私は馬車に揺られる。

……にしても、御者がいないと思えばポリアンナ氏が兼任だったとは。



居城まで時間はあるだろう、じっと先ほどの選択を考え込む。

……決め打ちはしたものの、どうも心は黒い靄に包まれたままだ。


かつての親友の娘を操り人形にするが、本格的にやりすぎてしまえばいずれは第三者がそれに気づき、私を消しに動くだろう。

特にポリアンナ氏が私に「魔王様の言葉通りの存在」である事を求めている以上、一番この人が難敵とも言えるだろう。



クラウドと違い、戦闘力に恵まれなかった私では対抗は厳しい。

だがあいにくと魔力の量や扱える術ではこちらの方が上ではあるが、腹心の魔導士というポリアンナ氏の立場の以上、私が勝てる見込みは薄い。




どうせなら、外道になるのだから堕ちる所まで墜ちてみせようか。

闇討ち、罠、物量作戦もやってしまおう。

戦いは数だとかつて誰かも言っていた、何が悪いものか。


……だがまずは、かつての親友の娘に出会う事が先だろう。

しかし後見人が必要というのは分かるが、次の魔王としての即位が早過ぎはしないだろうか。


わずか10日での即位、当然と言えば当然だが今まで例もありはしない。

何か、裏がある。


最初から私に操らせるのが目的?

それとも、次の魔王としてそれだけの力がある?


……いや。

むしろ、思考回路に問題があるのか。



そんな事を考えた矢先、馬車が止まる。

ふと窓を見れば、流れるはずの景色は止まっていた。


それはすなわち、目的地であるかつての親友の居城、俗にいう魔王城に到着したことになるが

中庭と敷地外を隔てる外門もある事を踏まえれば、そこで止まったのだろう。


……しかし、私一人迎えるのにこんな馬車一台って豪勢だったな。

内面も赤が基調なおかげで、目がキツい気もするが、中々居心地の良い空間だった。


ともあれ、一度思考を切り替え、扉を開けてその居城の前に降りる。

やはり予想通りというか、外門で馬車は止まっており外門から魔王城からは歩きになる。


距離はそう遠くもないし、まとめるには歩きながらというのはちょうどいい。

それにしては、中庭の損傷が少なく感じる。

少し前に勇者一行が到着して、最後の戦いといえる物があったにも関わらずだ。




魔界の首都、アクティオン・パレス。

その中心に君臨するかの如くそびえるのが、今私の目線に移る漆黒の居城「アクタエオン」である。

最後にその雲にも届く、巨大な城を見たのは何時だっただろうか?

……いや、外道に堕ちる私には関係ないか。



だがせめてじっと、見えるかどうかも分からない城の一番上を見ようとして首を上げてじっと正門まで歩く。

空は私の心とは裏腹に、雲ひとつなく晴れ渡っていた。



ポリアンナ氏の同伴と共に、1,2分歩くと数mはある門が独りでに開く。

私の目に移った、その中の光景は先のクラウドと勇者たちの戦いを物語っていた。



無駄に豪華だったな、と初めて見たときはそんな感想であったが今もそれは変わらない。

だが、あまりにもほんの10日程前に最後の戦いがあったには綺麗すぎたのだ。

強いて言うなら、装飾が所々剥がれ取られているところか。


……随分と強欲な人間が勇者ご一行に紛れ込んでいたものだ。

これではどちらが魔族か分からないのではなかろうか?



……それにしては、魔法の跡もずいぶんと少ないし、何よりここに一行が来た以上は

魔王軍による決死の抵抗があったはずだが、それを犠牲を出すまいと止めたのだろうか?


だとしたら、とんだ自業自得……いや、虚しさを残したことだろうな。

その言葉に従い、心を縛られた者を大量に生んだことだろう。


クラウド、もし本当にそれを行ったとしたらそれは悪手だったぞ。

おそらくは言葉で語ろうとしていたのだろうが、勇者たちはそれに聞く耳を傾けず彼をその凶刃で奮った、といった所か。





「ところで、姫様……で呼び方は良いのかな」

「ええ、それで構いません」


「では改めて。姫様はどちらにいられるので?」

「そちらの部屋です」


ポリアンナ氏が指指した右の方を見ると、そこにあったのはやけに小さな、ロビーともいえるこの辺りの豪華さとは明らかに浮いた地味な扉。

パッと見、木材を並べてそれを扉として機能するようにした、そんな感じのシンプルな扉だ。



「………子供部屋、だよね?」

「ええ、その通りです」


「入口から近すぎない?」

「………お気持ちはわかります。でもなんせ……魔王様が数少ないご要望を……」


魔王になったわりには、随分とまた禁欲的だったんだな。

知識に対して随分と貪欲だった私も変人といえば変人だったが

クラウドもやはり、魔族でありながら禁欲的に生きれる辺り変人だったのだろう。



そんな彼が、貴重な要望を出した。

魔王として君臨する最上階付近ではなく、あくまで"父親として"愛娘との時間を得る。


きっと、この子供部屋はそのために作られたのだろう。

……扉の頑丈さはさることながら、限られた魔族にしか開けられないようだが。


それに、本来の頑丈さに加えて見た目は他の扉のような派手な物ではなく

倉庫や物置と勘違いされかないような地味な物だ。


……機能と見た目を両立するとは、さぞ高い買い物……いや、この場合は作り物か?



「そこは我々が気を利かせました。魔王様も最初は予算に小言を申されましたがしっかり説明すればご理解を頂きました」

「そりゃ娘の命と予算の天秤なんて、どっちが重いか分からない奴じゃないだろう」


それが分からない奴だったら、いくら変人同士の友情があったとしてもこの話は無かったことにしていた。

外道に堕ちるのは私一人で十分だ。

だから今は、友人が真っ当に、自分の理想を追い続けた男であることが嬉しいが。



二人で装飾の所々欠けたロビーを進むと、さっき指された扉へと歩きその前に着いたと同時に

ポリアンナ氏が懐から桃色の鍵を取り出し、それを使って子供部屋の鍵を開ける。


カチャリ、と鍵の開く音がしてそのまま扉が開く。


その中の光景はまさしく子供部屋であった。

幼い少女が喜ぶような物で固められた、泣く子も黙り戦く魔王城アクタエオンに存在するとはとは思えない一室。


一言でいえば、あまりにもファンシーであった。

まるで童話の世界から飛び出したような一室。


その物珍しさに、しばらく立ち止まっていると、私より先に部屋に入ったポリアンナ氏から手招きが入る。

それに気が付いたものでさっさと動いた。

部屋の観察はまた後にしよう。



招かれるままに、部屋の奥へと向かうと桃色のベッドがひとつ。

豪華ながらも子供用サイズのそのベッドの上で眠る少女を見ると、そこにはクラウドに似た金髪を持つ美貌の少女……ってあれ?随分小さくないか?



「……次女かな?」

「いえ、紛れもなく魔王様の一人娘であります」


「………じゃあ、いくつ?」

「今年度に12になられます」



………後見人が必要な年齢。

それを聞いて私はとんだ先入観を持っていたのかもしれない。


低くても16、高くて二十代。そんなもんだと思い込んでいた。

魔王として格が足りえない、だからこそ後見人が必要になったのだと。


だが現実は違っていた……いくらなんでも幼すぎないかこれ!?

幼子じゃないか!


こんな幼子に魔王の血統とはいえ、位を継がせるというのか!?

マトモなのは私だけか!!


………いかんいかん、思考かブレにブレた。

だが逆に考えよう……好都合、だと。


彼女の幼さ、これを利用する他ならない。

逆に余計な知識を持ち出した年齢よりも純粋な分操りやすい。


人形にならない程度に教育を施して、私の力が不要になる程に

支配者として育て上げれば魔王として完璧になってくれるだろう。


途方もない計画を考えて、ポリアンナ氏と共に彼女の目覚めを待った。


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