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拝啓、人間へ。我らはお前たちを支配しに行きます。  作者: 蒼筆野猫
序章「新たなる魔王」
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新たる魔生

魔王である我が親友……いや、もう友人と呼ぶのも微妙だろうか?

ともかく、第28代魔王クラウド・デネブ・ニルヴァーナはつい近日

もはや人と魔のぶつかり合いの定例と化した勇者によって打倒された。



彼の本心は人と魔の融合であり、自身も含めて28代の魔王と無数の勇者が幾度も無く戦ってきた以上、それを終わらせたかった。

人と魔の和解の道を信じ、ぶつかり合いではなく和解の道を進んでいた。

それにも関わらず、人間はそれを認めずにまるで「自分たちこそが正義」と言わんばかりに力を奮い、クラウドに死を与えた。


俗に魔界と呼ばれる世界地図から見れば左半分では彼の死を悼みはしたが

彼の遺言に則って、その葬儀は慎んだものだった。



……しかしその葬儀から早10日。

今、クラウドの友人である以外はよくいる中級魔族であるこの私、アルタイル・ローディングの前にはそのクラウドの元腹心である魔導士、黒いローブを纏ったポリアンナ・カテジナがいる。


こんな中級魔族にすぎない存在に、魔王軍のトップの腹心、かなりの立場にいる方が何の用か。

しかもこちとら、最近は何をしていたかも話すに話せない時間の許す限り知識を漁っていたような奴だ。

流石に来てもらった以上は、こちらも早急にUターンしてもらう訳には行かない為、独りで暮らす程度の家に上げて、客間役をやってもらう居間に通す。



とりあえず、最低限のもてなしの準備はできたが、そのすぐ後にポリアンナ氏から想定外の言葉が出てくる。

魔王クラウドの遺言に則り、次期魔王である彼の娘の後見人を務めろと。


「………ギャグか何かですかね?」

「いえ、マジもマジです。」


本当にどういうことなの?

まさかクラウドの奴、遺言に私絡みの事を書くとは思わなかった。


しかも一人娘の腹心と後見人をやれってか。

ふざけんな、生きてたらその怪しい生え際を後退させてたぞ。



「……遺言に則るべきなのも、亡き友の意志を選ぶべきなのもわかります。しかし私は買いかぶられて「そうでしょうか」

後見人も腹心もやれる訳がないだろうと、クラウドには申しわけないと思いつつ

お断りしようとするものの、ポリアンナ氏に遮られる。



「常々魔王様は呟いておりました。あなたがいてくれたら、あなたと道を別たなければと……」

「……道を別たなければ、か」

話は彼が魔王就任を果たす前までにさかのぼる。


私とクラウドは友人であったが、その日初めて人生……あいや、魔生を別つ大喧嘩をした。


人魔融合論、人間と魔族の調和を理想とするクラウドと、魔族頂点論、魔族による徹底管理を是とする私。

最初のうちは口論で済んではいたが、次第にそれはエスカレートし挙句の果てに互いに半死半生の傷を与えて喧嘩は終わった。

その日に、彼と私の友情は終わりを告げたが………少なくとも、クラウドの中では終わっていなかった。


私とクラウドの友情は終わっていた筈だった。

だから私は最後に分かれてからクラウドに会いに行かなかった。

互いに殺し合いギリギリにまで発展した大喧嘩の後で、どんな顔を見せればいいのか分からなかったし

何より、また互いに大喧嘩となりうる可能性を否定できなかったし次は半死半生で済むかと聞かれれば怪しかった。

逃げているだけだと言われればそれを否定できない、だがそれでも、もうクラウドと私は友であるかも怪しいだろう。



もし私があの日、彼の理想を否定せずに彼の傍に立つことを選んでいれば。

彼が理想を見つめるだけでなく、現実も見る事ができれいれば違ったのだろうか。


私は現実を知り過ぎた。彼は理想を追い過ぎた。

もう彼と語らう事もできない今、私は君の心を汲み取るべきか?


いや……それは私の役目ではないな。

一度君と道を別った男だ、それを君がいなくなってから戻そうなどとは都合が良すぎるだろう。



「……だがそれでも、私の役目としては重過ぎます。」

「そう………でしょうか?」



「ええ。ですから申しわけありませんが、このお話はご辞退させて「ダメです!」

む、お断りして席を立とうとしたら手を取られて彼女の両手で握られてしまった。

瞳に髪がかかる程度には前髪が長い物だから、そう押して来ないものと思っていたが第一印象で決めつけていただけらしい。

どうもしっかりとお断りしなければならないようだ。



「一度彼と道を別つ事を選んだ男が、彼の意志とはいえ彼の亡きあとに道を戻そうというのは都合が良いのでは?」

「それが魔王様のご意志です、だからこそ私はこうしてここにいるのです」


「ならばあなたが役目を果たせばいい、彼の腹心だったのでしょう?」

「ええ、私はそうでした。確かにクラウド様にお仕えしていた女です」

ぐっ、と手を握る力が強くなる。

引き留めようとしているのか、強い意志があるのか。

………だがそれでも私の意志に変わりはない。


そう思っていた時、彼女のその金色の瞳にいつの間にか涙が浮かんでいた。

ちょっと待て、この話を無かったことにしようとしている以外に何かしたか!?



「私が、いながら……私の意志で、お仕えしていながら、魔王様は………」

「……ああ、勇者一行か」


「あの時……魔王様のお言葉に、姫様を頼むという言葉に従ったのです」

「……それでいいんじゃないか?」


クラウドは予感めいたものでも感じていたのだろうか、だから今よりも未来を優先したのだろう。


父がいなくとも生きてはいけるが、そこに生がなければ何も成す事はできない。

その判断は間違いではないと言い切れるし、クラウドもこの場に居たらそう言うだろう。


……ああ、分かってきた。

無念の涙。腹心として仕えながら、主君の言葉に従った結果その主君が死んだ。

言葉に従う事を選ばなかったら命はあったのかもしれない。


その「もしや」が、彼女の心を縛りあげているのか。



「でも、でも私は……!あの時、戻っていれば……!」

「………必要はない。クラウドは君に娘を、未来を託したと思えば」

私はこんなキャラじゃないのに、口が勝手に開く。

もしやこれを見越して、遺言を立てていたのか?


だとしたら……君はとんだ、食わせ物だろうよクラウド。



「………アルタイル様。どうか、お願いします」

「何を、私に望むのか」


「私のこの胸中は、貴方を信じれない……貴方が、魔王様の言う程の存在なのか疑わしい」

「でしょうね、その言葉も気持ちも分からない様な生き方はしていないつもりだ」

その瞳が、涙を浮かべたままにじっとこちらを射抜く。

その言葉が分からない程バカじゃない。


主君の遺言がそうでも、納得できない部分があるのは当然だ。

いや、本心ならば腹心である自分自身が後見人となりたい筈なのだろう。


それを今、押し殺して、主君の最後の言葉として、受け止めているのだ。

………絵に描いた忠臣だったじゃないか。


娘を頼むというのはが名目で、本当は彼女に生きてほしかったというのが真実でも納得できるくらいだ。




「だから、私に見せて下さい。貴方が、魔王様の言葉通りの存在であることを……姫様の後見人としてのふさわしい事を」

「……………。」



…………その言葉で、答えは決め打った。



先代魔王、第28代魔王クラウド・デネブ・ニルヴァーナよ。


もし私が逝ったのならば殴るなり受け入れるなり好きにするがいい。

だから私は、君の娘をコントロールする。魔王軍をコントロールする。


……ああそうとも、これは私の復讐だ。

人間の可能性を信じて、あえて止めてほしかった魔王になどならない。

人間を愛してしまったが故に、心の葛藤の果てに自害した魔王にもならない。


私は君の娘を利用して、真の魔王となる。

人間たちの希望を奪い取ろう、人間たちを支配しよう。


人間が全てか?人間こそ絶対なのか?

その疑問はすべて否定する。


人間の時代を終わらせてやる。

人間はもう頂点には立たせはしない……!



もしも私にほんの少しだけの情を残せと言うならば、こうしよう。

人間は殺す。


ただし……マトモな人間だけは生かしてやる。

人間が人間を虐げる時代は終わりだ。

人間が人間を食い物にする時代も終わりだ。


私は魔族、真の魔王として支配者階級をすべて殺す。

そして、その支配者階級は魔族に置き換える。


クラウド。

君の唱えた人魔融合論は、ずいぶんと歪になっただろうな。

だがこれはきっと叶えて見せよう。



あの日、君と道を別ったことで君を見殺しにしてしまったことへの、君への償いなんだ。

もうどれだけになるのかも分からない人魔間の殺し合い。


それをこの生涯の間に終わらせること。

それこそが、私の君へできる、最高の償いだと思っている。


だから、どうかひとつだけ許してくれないか。






「分かりました、魔王クラウドの遺言のままに」


君をもう一度、親友と呼ぶことを。


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