5.書類受取
こんにちは、葵枝燕です。
『救いたがりの死神』、第六話です。
本当は、次話となる第七話でリオを人間界に下ろそうと思っていたのですが、長くなりそうだったので先延ばしとなりました。でも、もう少しです。
久々の更新となりました。一ヶ月くらいですね……。相変わらずの無計画&不定期ぶりです。お待たせしました。
それでは、第六話です。
書類を取りに行くため、ナノの所属する部署に向かった。しかし、肝心の本人の姿は見当たらない。所在なげに立っている僕の元にやって来たのは、屈強な見た目の男性死神だった。任務に必要な書類を取りに来たことを告げると、彼は手早く書類を集めた。思わず見とれてしまうほど、無駄のない動きだった。
「こちらでよろしいでしょうか?」
三種類の書類を拡げ、彼は問うた。僕はそれを確認して、頷いた。表情を変えないまま、彼はそれらを茶封筒に入れる。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
お礼を言いながら、ちらりと彼が首にかけているネームホルダーに目をやった。小さく書かれた番号を見て驚く。一人一人に割り当てられるその番号の上一桁は、何期生かを表す。それを見ると、どうやら彼は、僕やナノの一期後輩にあたるらしい。それにしては随分と、ナノよりも手際がいい。ナノは今でも、同じ書類を複数枚封筒に入れたり、必要な書類を入れ忘れたり――思わずこちらが手を出したくなってしまう有様なのだ。
「ところで」
先ほどから気になっていたことがあった。
「ナノは、どこに?」
そう訊ねると、彼は僅かに口元を緩ませた。困ったように、苦笑したのだとわかった。無愛想だと思っていたけれど、案外そうでもないのかもしれない。
「ナノさんは、ちょっと所用で……」
笑いを堪えながら、彼はちらりと自分の肩越しに背後を見た。それを追って、僕もそこを見る。そして、大体のことを理解した。
そこには、この事務方部署を一手に引き受ける女死神――通称お局様に怒られているらしいナノの姿があった。
「見ての通り、怒られております」
「あはは……」
乾いた笑いが零れる。大方、さっき廊下を走った件で怒られているに違いない。お局様は、少し考えが古いところがある。「女なのに、あんな大きな足音を立てて廊下を走るなんて! みっともないというか、はしたないというか……。慎んでちょうだい」とか言われてるのだろう。どちらかといえば静寂を愛するお局様にとって、騒がしいナノは苦手なタイプかもしれない。
まあ、それはさておき。このままここにいると、説教の終わったナノに絡まれそうな気がする。一刻も早く退散すべきだろうな。
「あの、書類、ありがとう」
「いいえ。仕事ですから」
そう短く言葉を交わして、僕は彼から背を向けた。
最後にちらりと、ナノの姿を捉えてみた。怒られているにも関わらず、どこか本気で受け止めていない感じの顔をしていた。あれじゃあまさに火に油を注ぐ――余計怒らせるだけなのだろうな。お局様も可哀想に……深く同情します。
そう感じながら、僕は持ち場に戻ったのだった。