2.青いファイル
こんにちは、葵枝燕でございます。
『救いたがりの死神』、第三話でございます。
「こんな終わりにしたいな」という結末は考えているのに、中間部分を考えてないので結構大変です。今更ですが……きっとなるようになると思いますね。
それでは、どうぞご覧ください。
自分の席に戻り、青いファイルを机の上に置いた。飾り気も何もない、ただ青が自己主張するだけの物だ。
そのファイルに手を置き、目を閉じる。心を落ち着かせたかったのだ。こんな高揚したまま書類なんて見たら、何か大事なことを見落としてしまうかもしれない。そんなことをしたら、兄に怒られるだけではきっと済まないだろう。そんな失敗だけは、避けなければならない。
「よし」
自分を鼓舞するようにそう言って、僕はファイルの表紙を繰った。
【報告書】
最初の紙には、そんな単語が書かれていた。ただの表紙だった。気合いを込めて捲った自分に少し恥ずかしくなる。接している席に誰もいないことが、せめてもの救いという感じがした。
気を取り直して、紙を捲った。
【戸張藍音】
最初に入ってきたのは、そんな文字だった。今回の任務の対象、ということだろう。一言一句逃さないよう慎重に、指でなぞりながら文字を追っていく。
そして、僕の指はある項目で止まった。
「こんな……」
思わず発した言葉が止まる。それ以上継げなかった。
【死亡年齢 十七歳】
それは、あまりにも残酷な数字だった。こうして報告書に上がってきた以上、この戸張藍音という人間が死ぬことは変えられない事実だ。それでも十七歳なんて、あまりにも小さな数字ではないか。
「あ……」
死亡年齢の欄で動きを止めた指に気付き、慌てて次の項目に進む。死因が書かれたその欄には、漢字がたった一文字だけ記されていた。
【死因 病】
詳しい病名などが書かれないのは、それを知ったところでどうすることもできないからだ。僕らは死神であって、医者ではない。一命を取り留める救いが目的ではないのだ。誰にでも来るべき命の終わりに立ち会い、その身体から生命を切り離すのが役割だ。わかっている。わかっている、つもりだったんだ、きっと。
本当は、わかったふりをしていただけだった。
「十七歳、か」
呟いたところでどうにもならない。僕では、きっとどうにもできないのだから。それでも――若くして亡くなってしまうことがどういうことかは、何となく感じられる。
本当に、この任務を僕がやってもいいのだろうか。十七歳で一生を終える人間を、僕みたいな新人が担当してもいいのだろうか。
そんな思いばかりが、胸中を渦巻いていた。