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1.与えられた初任務

 こんにちは、葵枝燕です。

 『救いたがりの死神』、ようやく第二話ができあがりました。

 やっと本編に入れますね。

 それでは、どうぞご覧ください!

 兄に呼び出されたのは、事務作業を一通り一人でこなせるようになってきた頃のことだった。

「兄さん、呼んだ?」

 そう声をかけると、兄は眉間に(しわ)を寄せて僕を見た。

「仕事中だぞ、リオ」

 不機嫌そうな声が射抜く。しかし、その効果はほぼない。兄の膝の上に載ったそれが、その声の効果を潰しているせいだ。指摘したいのは山々だが、それを言えば僕の頭には兄の拳がぶつかるだろう。好き好んでそんな制裁を受けたいほど、僕は痛がりやではなかった。

「すいません、ザイさん」

 兄に向かって頭を下げる。仕事上の関係についても目上にあたる兄は、実の弟だからといって甘く接することはしない。むしろ、僕に対して誰よりも厳しい態度を示す。

 だから、僕はまだ実践経験を積むことすら(ゆる)されていないのだろう。

「自覚が足りないんじゃないか? ここでは兄弟ではなく上司と部下だと言ったはずだが」

 厳しく威圧感のこもる声には、少し恐怖する。しかし、それに全く似合わないものを膝に載せているのだから、反応に困る。

「長年の癖はそう簡単には抜けませんから。努力しますよ」

「どうだかな。まあいい。お前に初の実践任務をやろう」

 一瞬、その単語を聞き逃しそうになった。

「今、何て?」

「聞こえなかったのか? 初任務を与えてやろうと言ってるのだが」

 ハツニンムが初任務だと、脳が変換するのにどれくらい時間がかかったのだろう。混乱したまま、僕は兄の顔を見つめるだけしかできなかった。

「お前もそろそろ実践任務をしていい頃だろう」

 そんな短い発言を飲み込むことすら、満足にできていなかった。初任務という単語に、浮かれているのかもしれなかった。

「お前の焦りはわかっているつもりだ。だが、仕方ないだろう。実の兄弟だからこそ、こういうことになってしまったのだからな」

 それは、僕もわかっているつもりだった。

 兄には兄なりに、実弟である僕を甘やかしたくない思いがあったのかもしれない。兄にそのつもりがなくても、周囲からそう思われるのが(いや)だったのかもしれない。僕自身そう感じているからこそ、単純な事務作業ばかりを今までやってきたのだ。それは正直、僕じゃなくてもできる仕事であり、即ち「誰にだってできる仕事」だった。

 同期は実践任務を着々とこなしているのに、僕だけが置いてけぼりを食らっていた。そのことに、焦っていないといえば嘘になる。

「リオ」

「ふあい!」

 呼びかけられたことに驚いて、変に間の抜けた声で返事をしてしまった。兄は眉間に皺を寄せはしたものの、何も言わずに一冊のファイルを差し出してきた。それほど厚くない、むしろ薄すぎるほどの、青いファイルだった。

「これが、今回の任務の資料だ。熟読しておけ」

「はい……」

 恐る恐るファイルに手を伸ばし、受け取る。その薄さに見合う軽さだった。これほど軽いものでいいのだろうかと、兄を見やる。書類が何枚か抜けているのかもしれない、それを問おうと口を開きかけた。

「わからないことがあれば、誰かに()け。話は以上だ」

 僕の発言を遮るかのように、兄はそう口にした。そして、この話の間中ずっと膝に載せていたそれを机の上に置いた。結局、僕はそれ――真っ白でふわふわなウサギのぬいぐるみに対して、兄に何の指摘もできなかった。兄の機嫌が悪くなって、僕の頭にたんこぶができることだけは、本当に回避したいからだ。

「失礼、します」

 そう言って、胸にファイルを抱えたまま頭を下げた。

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