12.この場所は
こんにちは、葵枝燕です。
連載『救いたがりの死神』、第十三話「12.この場所は」をお送りします。
前回の投稿が、二〇一八年三月初頭のことなので、一ヶ月以上ぶりになりますかね。お待たせいたしました。やっぱり、投稿する勇気が湧かないもので……。
それでは、どうぞご覧ください!
鈍く銀色に光るドアを引き開ける。思った以上に重いドアは、しかし軋む音を立てずに開いた。そのまま、僕は足を踏み入れる。
かすかに漂っているその香りは、鼻の奥を刺すようなアルコールのものだった。それだけで、僕はこの場所が何なのかを察した。多分ここは、人間の生死を幾度も見てきた場所だ。
そんな思いを抱えたまま、僕はどこかへと惹かれるように歩き出したのだった。
五階建てのそこは、僕の思ったとおりの場所だった。病を抱えた者、傷を負った者、新たな命を抱えた者――そんな人々が、老若男女を問わずいる、そんな場所。そこは、病院だった。とはいっても、最新の設備が整えられた大きな病院ではなく、最低限の治療や手術ができるくらいの比較的小さな病院のようだった。……まあ、初めて人間界に来た僕にはそんなこと、よくわからないのだけれど。
僕は、そんな場所の三階をウロウロしていた。そこはどうやら、手術を必要とする若い患者を集めたフロアらしかった。ちなみに、五階はさっきまでいた屋上で、四階は病室らしきものが並んでいるがどれも倉庫となっていた。四という数字が“死”に繋がるからなのかもしれないが、そこまで忌まなくてもいいのではと、死神である僕は感じた。数字のもつ不吉さでそれがどうにかなるのなら、僕らみたいな存在は必要ないのだ、多分。
そう思いながら歩いていたときだった。前方にふと目を向けた僕は、それを確認して、硬直した。全身が動くことを拒否している感覚がした。一方、僕の姿を認めたそれは、キラキラと目を輝かせた。
「ワフッ」
そんな、嬉しそうな声を上げて、ご丁寧に尻尾まで振っている。
「……ヒィッ」
そんな情けない声が、僕の口からこぼれる。
それの正体は、英国生まれの大型犬――ゴールデンレトリバーだった。