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10.人間界へ

 こんにちは、葵枝燕です。

 連載『救いたがりの死神』、第十一話「10.人間界へ」をお送りします。

 もうこれ、今月完結とか絶対無理じゃ――と思っています、はい。

 それでは、どうぞご覧ください!

 受付所の扉を開けたのは、出発予定時刻の一時間五分前だった。脇目もふらず全力疾走した甲斐があった――というと、自業自得なのに何を言っているんだという感じがするが、とりあえず間に合ったことに安心した。

「お、お願い、しま、す……」

 身分証を差し出し、息切れしながら言葉を発する。身分証を受け取った係員は、それを機械で読み込んだ。

「リオさんですね。今回が初めての任務ということですが、対象者のファイル、それと通信機はお持ちですか?」

「は、はい……えっと、これ、ですよね?」

 カバンの中から、青いファイルと、真っ黒な通信機を取り出す。それを確認した係員は、身分証を差し出しながら、

「確認がすみました。二階に上がって、正面の廊下を三歩くらい歩いたところにある第五扉――二〇五と書かれたドアを開けてください。そうすれば、対象者の元へ行けますので」

と、にこやかな笑顔を浮かべて言った。その手は、僕から見て右側にある階段をさしている。そこから上がればいいということらしい。

「ありがとう、ございます」

「幸運を祈っています」

 そんな言葉に押されるように、僕は階段に向かって足を向けたのだった。


「って……ドア、多すぎやしないか……?」

 二階に上がると、前方と左方と右方の三カ所に廊下が伸びていた。しかも、それぞれにドアがずらりと、向かい合うように並んでいる。一応、隣り合うドアを邪魔しないようになのか、ある程度の距離を空けてはあるのだが、それでもドアが大量に並んでいる様は不気味なものとして僕の目に映った。

「この中から、二〇五のドアを探せと……?」

 途方もない作業な気がして、早くも心が折れかける。が、まだスタートラインにすら立っていないことに気付いた。そこで、とりあえずさっきの係員の言っていたことを思い出して、そのとおりにしてみることにした。

「たしか、“正面の廊下を三歩くらい歩いたところ”――だったな」

 三歩くらい、という曖昧な物言いが気になるが、やってみるしかないと思った。

 まったく、こんなになっているなら、やっぱりもっと早めに家を出るべきだった。ていうか、どうして兄さんは、このことに関して何も言ってくれなかったんだろう。そこらへん、教えてくれたってよかったんじゃ――そこまで思ってから、兄さんならきっと「お前が()いてこなかったからだろうが。ま、訊いてきたとしても、俺は教える気などないがな」なんて言うに違いないと思った。

「あ、あった」

 キョロキョロ見回しながら歩いたおかげで、目的のドア――二〇五という木製のプレートがかけられている――を見つけることができた。なぜかドアノブに、黄色いビニールテープがグルグル巻きに貼られている。隣のドア――二〇七とプレートには書いてある――を見ると、ピンク色のハートだの、青色の星だのといった大小様々なシールが、無造作に貼られていた。かと思えば、背後のドア――こちらは、二〇六と書かれたプレートがかかっている――は、飾り気のない茶色の木製ドアだ。飾り付けたいのか、それとも、簡素なままいきたいのか、よくわからない。

「このドアを開けたら人間界――なんだよな」

 ひどく実感がわかなかった。このドアの向こうが別世界だなんて、簡単に信じられるはずがない。それでも、ここまで来たら行くしかない。

「よし!」

 両頬をパチンと叩く。深呼吸をする。朝は妙に余裕があったくせに、今は少しだけ不安がぶり返していた。けれどもう、引き返すことはできなかった。

 黄色いビニールテープが巻かれたドアノブを(つか)む。そして、反時計回りに回した。心臓が、早鐘を打つ。僕は、ギュッと目を閉じて、ドアを開けた。

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