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PEST  作者: リボーンズ
3/5

哀少女

空を飛翔する多数の小型AAP。

頭部は正に食虫植物、大きな葉を翼として備え、そして足の先にも食虫植物がついているこのタイプのAAPは『鳥型』と呼ばれる。


その鳥型の群れに立ち向かう1機の蜂をモチーフとしたMMSの姿があった。


鳥型の群れは、飢えた禿鷹の如く獲物であるMMSに襲いかかった。

しかし、MMSは動く気配を全く見せない。

徐々に縮まる距離、それでも蜂型のMMSは回避行動をとろうともしなかった。

が、次の瞬間。

蜂でいうところの腹部にあたる部位から、10基の攻撃端末が勢いよく飛び出した。


1つ1つの攻撃端末がまるで意思を持っているかのように鳥型AAPに襲いかかり、その様子は女王の命令を受けた兵隊蜂を思わせた。


鳥型AAPは全滅、残ったのは悠然と浮かぶ蜂型MMS『ノーヴィアントレーネー』のみだった。



「以上がオーストラリア戦線でのテスト結果及び戦闘映像です。」


「ほほう、これがMMSの、いや、コミュニケーターの力というものか。」


テスト映像を観ていたP.E.S.T上層部の人々はこの新型MMSノーヴィアントレーネーの力を目の当たりにし、がやがやと騒ぎ立てた。


「早く実戦に投入したまえ。本部に隠していても仕方あるまい。」


「しかしアントレーネーシリーズとの連携は難しいですぞ。どこの隊に入れるかが...。」


「コミュニケーターのみで編成する特殊部隊の件はどうなっているのだ?」


「知っての通りコミュニケーターは貴重な人材だ。実戦に耐えうるのは彼女だけだぞ、今の段階ではな。」


「しかしこのまま待ち続けるのは――」


上層部があれやこれやと議論を展開している中、生気を感じさせない、どこか哀しげな表情をした少女がたたずんていた。


「守るために、戦わないと...。」


誰に聞こえるわけでもなく小さく呟いたその少女の目はひどく哀しげで、それでいて決意に満ちていた。







P.E.S.Tの総司令本部はインド洋の中央に位置していた。

地球本土のほとんどをAAPの侵略によって奪われた人類は、このように人工の島を作り出した。

P.E.S.T総司令本部以外には複数の支部、そして太平洋には国際連合の本部が置かれている人工島がある。

他に巨大企業が運営する、人々が避難するための人工島がいくつか存在するのみである。


南アフリカ鉱山基地での任務を終えたバニミール中隊はマダガスカルを経て、現在はインド洋のP.E.S.T総司令本部へと向かっていた。


「おー、見えてきた見えてきた。」


輸送ヘリの窓にしがみつくボマー、それに続いてノエルもゼシルも外の様子を確認した。


到着時間が夜のため、P.E.S.T総司令本部の外灯、そして本部を囲む居住区の灯りが綺麗に映える。


「やっと帰ってきたって感じだな。」


時間的には南アフリカ鉱山基地へ派遣され1週間、そしてマダガスカルで1泊とそこまで経っていないのだが、MMSでの初任務ということも相まってやけに長く感じた。


「ゼシルのプレディカドールの整備もあるし、明日は1日休みって話よ。」


ノエルの言葉にゼシルもボマーも思わず歓喜の声を上げる。


「ゼシル、どうする?街に出て女の子でもナンパするか~?」


うーん、とボマーの誘いをゼシルは少し考えたふりをしたが、やはり断っておいた。


「ノエル隊長殿にシバかれたくないしな。」


「ちょっとボマー!ゼシルまで不埒な方向に連れていかないで!」


ノエルにそう言われてしまったボマーは立ち上がり、まるで心外といった様子で反論する。


「それじゃ俺は既に不埒な奴みたいだろ!」


はぁ、と溜め息をついたノエルはもはや反論する気も失せたようだ。

仕方なく代わりにゼシルが笑顔で言い放った。


「ボマーはもう既に、変態だよ?」


えぇ!と今初めて新事実を突きつけられたかのように驚くボマーをよそに、輸送ヘリのパイロットから連絡が入った。


「まもなく着陸します。」


さてと、と立ち上がったゼシルは総司令本部のMMS整備施設へプレディカドールを収容するため大型輸送ヘリのMMSコンテナへ向かった。


機体を起動させコンテナが開かれるのを待つ。

ややモニターはざらついており、頭部が半壊しているのを実感する。


「それにしてもひどい有り様だな。」


中破したプレディカドールの様子をコクピットから確認し、ゼシルは小さく呟いた。


「ゼシルのプレディカドール、ボロボロだな。」


突然、ボマーの顔がコクピット内のモニターに現れた。

どうやらボマーも彼のプレディカドールを本部の整備施設へ収容するためにコクピットで待機するらしい。


「そういうボマーのは、頭だけ綺麗になくなってるな。」


「ははっ。隊長が回避した流れ弾に当たっちまって。」


「ある意味奇跡に近いな。」


やがてズシン、という感触を感じ大型輸送ヘリが着陸したのを確認した。

徐々に開かれるMMSコンテナ。

外にはこの中隊の帰還を出迎える者、そして荷物の取りだしや空中バイクを整備施設へ移動させる者などが集まっていた。


「遠征帰りは出迎えがあるからいいよな~。」


わざわざコクピットを開き出迎えの人に笑顔で手を振るボマーはしみじみそう言った。


「南アフリカ遠征なんてまだまだ甘いよ。他の隊はヨーロッパとか東アジアにまで行ってる。」


ゼシルは苦笑しつつ外の様子を見ていた。

とてもではないがプレディカドールを中破させた立場上、笑顔で手を振り返すわけにはいかなかった。






整備施設へとそれぞれのプレディカドールを収容した彼らはすぐに整備兵と共に機体の再調整に取りかかる。

パイロットそれぞれに合ったチューンを施すのだが、一戦毎に再調整しなければ僅かに生じたズレが大きくなってしまう。

故に戦闘後には毎度チューンし直す必要があるのだ。


ゼシルはコクピットを開け、垂れ下がるロープをつたって降り立った。


「小僧、よく帰ってきたな。」


話しかけてきたのはバニミール中隊専属の整備員、バルド・アンデルス技術中尉。


「ええ、なんとか無事に。」


軽く会釈してゼシルは言葉を返した。

ゼシルの様子を確認したバルドはすぐに視線を先ほどまでゼシルが乗っていたプレディカドール弐式へと移した。


「初陣で派手にやられたな。羽もやられたのか。」


「そうですね。頭部も歪んでカメラの映りが悪くなったのと、左腕は根本から失いました。」


改めて確認すればするほど、プレディカドールはボロボロだった。


「こりゃ修理も一苦労だな。1日くらいかかるかも知れん。」


それだけを伝えるとバルドはすぐに人員を呼び、すぐにプレディカドールの修復作業を開始した。


ゼシルは最後にバルドへ感謝の言葉を残し、そこから立ち去った。

向かった先はノエル達が作業しているところである。


「あれ、ゼシルはいいの?自分の機体の整備手伝わなくて。」


軽い損傷や再チューンならば自分でもできるのだが、今回は事情が違う。


「あそこまで損壊してるとね、専門の人に頼んだ方が早いよ。」


「あっははー。たしかにね。」


こんなたわいのない会話をしていると、司令本部の建物へと繋がる通路の方から二人の人物がやって来た。


一気に回りの空気が変わったのを感じる。


そのまま通りすぎるものかと思っていたゼシルだったが、やって来た二人はノエルとゼシルがいる場所で歩みを止めた。


やや白髪が混じっている厳格そうな顔つきの男、そしてどこか哀しげな顔をした少女だった。


少女はともかく白髪の男はゼシル達よりも上官であるのは疑いようがなく、ノエル、ゼシル、そしてその場に居合わせたシエルが瞬時に敬礼する。


「総司令本部所属、エーリッヒ・アイヒンガー大佐だ。」


ノエルが慌てて背筋を伸ばし自らの名を名乗った。


「第88独立機動中隊所属、ノエル・バニミール中尉であります!」


ゼシルとシエルも背筋を伸ばし、敬礼の姿勢を崩さない。


「君達のアフリカ基地での話は聞いたよ。それで、少し話したいことがあるのだがここだとあれだ、ついてきたまえ。」


すぐに背を向け歩き出すエーリッヒ大佐、それに続く少女。

ゼシル達は顔を見合せ、すぐに彼についていくことにした。





ゼシル達が連れて来られたのは、整備施設の上階にあたる広めの部屋。

壁はガラス張りとなっており、そこから見えるのは先程までゼシル達が作業をしていた場所だった。


周りを見渡すゼシル達の反応にどこか満足げな表情をするエーリッヒ大佐は、やがて口を開き本題へと話を進めた。


「一番手前のハンガーに収容されているのは極秘で開発が進められていた新型のMMSだ。」


示されたハンガーには蜂をモチーフにしたのであろうMMSが存在した。


『ノーヴィアントレーネー』


それがその機体の名前らしい。

エーリッヒ大佐の話によると、ノーヴィアントレーネーには他のMMSにはない特殊な装備を搭載しており、運用試験を終えてつい先日ロールアウトしたばかりだと言う。


「君らは、『コミュニケーター』というものを聞いたことがあるかね?」


コミュニケーター。

ゼシルには思い当たる節があったのだが、詳しくは思い出せなかった。

そんなとき、シエルが口を開いた。


「た、たしか、自分の意思を他の人にテレパシーのようにして伝達することができる能力を持った人ですよね?」


「その通りだシエル・バニミール中尉。このノーヴィアントレーネーはコミュニケーター専用MMSとして設計された機体だ。」


そう言うと、エーリッヒ大佐は彼の後ろに隠れるように立っていた少女を前に出させた。


少女は不服そうにむっとした顔を浮かべたが、背筋を伸ばしてゼシル達に挨拶した。


「技術開発局所属、クーデリカ・マナロフ少尉です。」


クーデリカと名乗った少女がここにいるということは、話の流れから考えるにそのコミュニケーターという存在なのだろう。


「君らもここまで話せば予想はつくだろうが、マナロフ少尉はコミュニケーターだ。それも、かなり優秀な逸材だよ。」


ここまでの話は理解できたが、なぜわざわざそんなことを話すのだろうか?

大佐の何か意図があるのか。

もしかするとその少女を...。


「そこで、だ。」


勿体振るかのように軽く咳払いをしたエーリッヒ大佐は続けた。

ここがどうやら大佐が一番伝えたいことらしい。


「一時的でもかまわん、マナロフ少尉を君ら第88独立機動中隊へ配属させたいと私は考えているのだが、どうかね?」


こちらの意見を求めているようで、求めていない。

返事はイエスしか用意されていないのだ。


「し、しかし大佐。コミュニケーターの力を私たちは知りません。どのように連携を取れば良いのか...。」


ノエルの反論はもっともである。

コミュニケーターの実力も知らず、さらには極秘で開発が進められていたという新型MMSの特殊兵装とやらもこちらは知らない。

中隊として連携を取れ、ということ自体難しい話だ。


「実のところ、技術開発局も通常のMMSと組み合わせた有効な戦術を発見できていないらしい。しかし上層部の者は早く結果を示してほしいと一点張りでな。だからこそ――」


そのとき、部屋の外から大佐を呼ぶ声が聞こえてきた。

連絡員なのだろうか、やや焦っている様子を声色から窺うことができる。


「アイヒンガー大佐、緊急連絡です!至急司令室へお戻りください!」


「かまわん、ここで言いたまえ。」


僅かに困惑した様子を見せた連絡員であったが、上官の命令である、断るわけにはいかない。

大佐以外の人物がいるのを気にしたのか、少しばかりかゼシル達に視線を走らせたが、すぐに連絡事項を伝えた。


「ニュージーランド戦線から帰還予定の第5MMS突撃機動連隊との連絡が途絶しました。同じく作戦に参加していた第3MMS突撃機動連隊からの報告では大型の飛行タイプAAPを中心とした群れに襲撃された模様、第3連隊の危険も時間の問題とのことです。」


報告を受けたエーリッヒ大佐は大きく動揺している様子だった。

拳を握り、思わず怒鳴るようにさらに詳細の情報を求める。


「連隊のプレディカドールは何をやっていたのだ!?第5連隊の輸送船はどうなっている!?」



一連の報告が終わり、連絡員は敬礼してそこから足早に立ち去った。

報告によれば状況は一刻を争う。

ニュージーランド戦線より撤退し総司令本部へと向かう予定だった第5突撃機動連隊は、飛行タイプのAAPの襲撃を受けた。

ニュージーランド戦線で疲弊した彼らはまともに対抗することができず、疑似無限機関の活動時間の限界を迎えたプレディカドール弐式ではAAPの群れを追い払うに至らなかったのである。


比較的に疑似無限機関のエネルギー残量の多い機体でもあまりのAAPの数に対抗しきれず、また1機、また1機と撃破されていった。


第3突撃機動連隊の援護も虚しく第5連隊の輸送船はAAPに同化され、現在は第3連隊と交戦しつつ総司令本部へと向かっているらしい。


数刻後、バニミール中隊に新たな任務が与えられる。

一時的にエーリッヒ・アイヒンガー大佐率いる第1突撃機動連隊に組み込まれ、第3連隊の撤退の援護、及び第5連隊の船内に残された人員の救出、そして侵攻するAAPの殲滅の任に就くこととなった。


休む一時さえ与えられないバニミール中隊は総司令本部への帰還も早々に絶望の海へと出発するのであった。


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