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第2話:明かされる真実(1)

「あ、霧島君」

 放課後、宏人が学校から帰る途中で琴音に声をかけられた。

「何だよ、今度は何がしたいのかな?シーナ君」

 冗談半分で怒ったように問いかける。

「ち、違うよ。私、シーナじゃないよ……。ほら、眼鏡かけてないし」

「なんだ……」

 宏人は安堵で大きく息を吐いた。

 一方の琴音は大きく深呼吸をして小さく口を開いた。

「あ、あの、この間の夜は、本当にごめんなさい……」

 あの時のように涙を潤ませながら小声で言う。途中から肩も震えてきた。

 そういえば、と思い出す。よく考えてみればあの時は同人誌モエはぴを狙って襲われたんだっけな……。そう思い出してみるが、シーナの強烈な印象にそんな事思ってもみなかった。

「そ、そんな泣かないで」

 謝られている立場である宏人だが、なんだか申し訳ない気持ちになる。

「許してもらえる事じゃないって分かってる……。でも、本当に、本当に、うう……」

 道の真ん中で泣き崩れ始めた琴音に、戸惑う宏人。事情を知らない通行人達は、白い目を宏人に向ける。お前が泣かせたのか、と。

 戸惑う宏人の目に眼鏡が飛び込んできた。しっかりと琴音の手に握られている。

「椎名崎さん、眼鏡貸して!」

 返事を聞く前に宏人は眼鏡を取って、無我夢中で琴音にかけさせる。

 途端に琴音は泣き止み、普通の顔に戻る。

「もう!!女の子泣かすなぁ!!ろくでなし!!」

 もう琴音ではなくシーナだ。

「てめぇのせいだぁ!!」

 二人の口論は数分続いた。


「ねぇねぇ、今日さ、久しぶりに行ってみない?」

 シーナは空に向かってチョップをした。

「は?なんだそれ、スイカ割りか?」

「これだから男っちゅう生き物はぁ……」

「全く、ハンバーガーショップに着てまで口喧嘩する必要ないだろ……。ハンバーガーが冷めるぞ」 

 そう言われてシーナは急いでハンバーガーに喰らい付く。口に含んだハンバーガーをよく噛んで飲み込むと、ジュースを飲んで一呼吸置いた。

「んで、結局あたしが言いたかったのは狩りよ、狩り!しゅ、りょ、う!!」

 宏人の表情が怪しくなる。手に持ったハンバーガーをトレイにそっと乗せて、深呼吸する。

「やなこった。俺は行かん」

「何で?そんな事じゃ強くなれないよ?」

「お前先週のあれ、覚えて無いわけないだろ?」

「む……」

 シーナの表情も不機嫌そうになった。



「あ〜眠い」

 目を擦りながら宏人は深夜の住宅街を歩いていた。この日もモンスター狩りだ。

 いつもの公園に向かう途中、琴音に出会った。その後は公園までずっと雑談を続けた。

「そういやさ、椎名崎さんの時には戦わないの?」

「私自身は何の変哲も無いただの人間だから。シーナに任せないと何にも出来ないんだ」

 少し目が悲しそうになる。自分の無力さを自嘲するように。

「そんな悲しんじゃだめだよ。だってシーナだって椎名崎さんの一部じゃん」

「そんな事無い」

 小さな声だがはっきりと言い切った。

 そんな姿を見た宏人はどうすることも出来なかった。

「シーナはもう一人の誰かって感じがする。私という体に入っているもう一つの魂みたいな感じ」

「ん……」

 宏人はただ黙っている。そのことが良い事なのか悪い事なのか見当もつかないのだから当たり前だ。下手な言葉は掛けられない。ただ、重い空気を打破するために宏人は質問を変えた。

「あ、あのさ……。椎名崎さんは神様になれたらどうする?」

「私はお母さんに生き返ってもらう。ただそれだけ」

 空気はより一層重くなった。

「あ、その、何て言うか……」

 言葉に迷う宏人を見かねてか、琴音は言葉を続ける。

「お母さんね、私が小学生の頃に死んじゃったんだ。信号無視の車にかれてね」

 遂に足が止まった。それでもまだ話し続ける。

「その後ね、お父さんが博打に走って借金抱えちゃったり、会社をリストラされたりで色々あったの……」

 何を考えてか、ただひたすら喋り続ける琴音。それをひたすら見ているしかない宏人。空気は色付くかの様に澱んだ。

 宏人は話を聞きながら考えた。俺みたいなのがこんな選考会ラリーに参加して良いんだろうか?椎名崎さんはかなりの覚悟があって望んでいる。俺みたいな興味半分で参加したような奴に神の座なんておこがましい。

 宏人の表情を窺った琴音は、はっとした。腕時計で時間を確認すると、宏人に言った。

「ごめんなさい、こんな話して……。霧島君には関係無いのにね。……じゃあ私の出番はそろそろお終い。それじゃあ、おやすみなさい。頑張って」

 そう言って急いで眼鏡を掛けた。自分の顔を仮面で隠す様に。

 いつもならシーナの顔は元気で満たされていたが、今日は違った。

「ごめんちゃい……な〜んか空気が……」

「いや、謝る事じゃないし。それよりも行こうか」

 二人はその後何も言わないまま公園まで歩いた。

 

 数分で公園に到着した二人は早速狩りの準備をした。

「宏人、呼び出し!!」

 頷くと宏人は腕時計のツマミを引こうとした。その直後に物音がする。

「羽ばたきか?」

 宏人が呟く。

 次の瞬間、

蝙蝠こうもり!?」

 とシーナが叫んだと同時に、ボールに羽が生えた様なモンスターが現れた。

「つっても目玉しかねぇし……行くぞ!」

 宏人はほぼ垂直に跳躍を、シーナはバットを握って突っ込んだ。

「それっ!」

 その体を覆いつくさんとする巨大な眼球がシーナのバットを目にする前に、シーナは思い切りバットをモンスターにブチ込んだ。

 モンスターは叫ぶ事も無く宙をフラフラと舞う。だがそこに容赦無く宏人の蹴りが垂直に降りて来た。 

 宏人の攻撃が効いたのか、モンスターはそのまま地面に落ちて動かなくなった。

 シーナはバットでそれを突いた。

「これで終わり?」

 戦闘開始からほんの数十秒、呆気に取られる間も無く終わった。

「なんだよ、雑魚キャラ敵な奴か?」

「RPGで最初に倒す敵みたいな?」

 そう言いながら一息ついているとモンスターの体に異変が現れた。

「う、ああ……」

「宏人なんか言ったぁ?変態みたいな声出さないで……」

 振り返ったシーナの目に映ったのは、人の口が現れたモンスターの体とそれに唖然とする宏人だった。

「うぁぁぁぁぁあっぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 口は突然絶叫した。それに呼応するかのようにモンスターの体から明らかに人間の腕や足、目、骨、数え切れないパーツが赤黒い血液と一緒にむき出した。その様はボールに人間の体のパーツを無造作に付けたと、言えば容易い。

 各部はそれぞれに暴れていたが十秒も立たないうちにぐったりとした。

 シーナは立ち尽くす宏人にしがみ付く。宏人は胸の鼓動が高鳴るのを感じた。 

 死骸とも言えない様な残骸を凝視していた二人に三人目の声が割って入ってきた。

「これを見るのは初めてかい?」

 二人は同時に後ろを振り返る。そこには若い男が一人立っていた。夜中だと言うのにサングラスを掛けている。それ以上に目を惹くのが頭を覆う白髪だった。

「アンタ、誰?」

 シーナが呟く。

「……ああ、参加者ではないよ。ただ少し関わりがあるだけさ」

 サングラスをいじりながら男は優しい笑みを浮かべながら答える。

「そ、それよりもあれって何なんですか?」

 宏人も口を開く。

「あれは亡骸ジャンクと呼ばれている、人間の成り果て。勿論、参加者の。手持ち、つまり今回では君達の持つ漫画というか同人誌モエはぴの手持ちが全て失われたときに時々起こる。」

「でも、手持ちが無くなるとモンスターになるんじゃないの?これじゃあ惨殺死体みたいじゃん!!」

「君達は相当この選考会ラリーを知っていない様だね……。では、一から君達に教えよう」

もう「遅れないように」とか言いません!!すいません!!

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