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一-六

No.12

 動物園とは何だろう。別に私は動物が好きではないのだけれども。しかし、夢で動物を見るのも悪くはない。動物の出てくる夢はあまり見たことがないけど、珍しい動物がいるかもしれない。私は隣の部屋に入る。

 隣の部屋は、屋上だった。ここは何処だ? 私は何処にいるのだろう? ビルの屋上のようだ。周りを見回してみる。エレベーターがあり、ほっとした。日が暮れてきた。私は端まで歩いて、手すりを握り、下方を見下ろした。下には、この夢の街が広がっていた。これは私の街だ。

 私はこれから何処に行くのだろう。何処に行ったって同じだ。何も無かったし、何も無いだろう。これが私の夢ならば、私は何者なんだ? 私の意識(無意識)とは何だ? それは、こんな形なのだろうか? 私は私の意識について、周りの人間に言及された事は無かった。もちろん言及された事はある。それも何度も。ただ、それは、どれ一つとして私の的を射たものではなかった。よって私は、私の的を私で射る事にしてみよう。

 私は私自身について、生前ずっと考え続けていた。それはもう考え過ぎたぐらいだ。そして考える事とは、少しも人間を進ませるものではないという結論に至った。この結論から始めてみよう。

 その① 考える事は人間を進歩させない

 人間は何故考えるのだろう。また考えることを善しとするのだろう。人間は病気であると私は考える。全ての人間は病気だ。しかし病気と言うものはない。全ての病気は被害者である。人間の存在だけが病気だ。何故人間は病気なのだろうか? それは人間は身体のみで生きていけないからだと思う。人間は衣、食、住があれば生きていける。そうかもしれない。だが、衣、食、住だけで満足しないのも人間だ。

 そしてその満足を知らない人間は、何時まで考え続けるのだろうか? きっと何時までも考え続けるだろう。そうだ。人間には終わりは無い。常に考えが変わり、意識は変わり続ける。そして変わり続ける事は、進歩ではない。何故か?

 過去の人間と未来の人間は同じである。もちろん変わり続けるだろう。しかし変わらない事がある。それは人間が生きている事であり、それは、私たちが作るものではないからだ。人間がいくら進歩しようが進化しようが、何一つ動かす事も、(本当の意味では)考える事すらできない。

 その② 変わらない事こそ真理だ

 人間はその考え(思想に)右往左往する。しかし生とは常に一貫したものであるはずだ。そしてその一貫したものの中に、変わらないものが含まれているのだろう。人間の作るものも、変わらないものを目指しているに違いない。人間の考えたものは人間の営みを反映し、また人間は生活の中でそれを利用する。だがそれは変化し続ける。変わらないものとはその生の中でどのように係っているのだろうか? 私たちは私たちの作ったものに囲まれている。そして生が一貫したものであるなら私たちの全てはその変わらないものの中で生きているのではないか? 変わらないものとは人間の作ったものとはかけ離れたものだ。しかし全ては変わらないものだ。

 ただ、私たちはそれを知ることができない。何故か? 私たちは意識の上で変わり続けるからだ。そして変わり続ける意識というものを持つ人間に変わらない事という真理を知ることはできないだろう。しかし変わらない事を知りたいと願うとき、どうしたら良いだろうか?

 その③ 意識は殺すべきもの

 もし本当の事を知りたいのなら、真理と呼ぶべきものを知りたいのなら、意識というものを殺してしまうべきだろう。しかし何かを知るには(まさに知るという事自体が)意識を必要としているではないか? そうかもしれない。それでも私は意識は必要ではないと言わなければならない。人間の中で人間を(自分という意識を)考えてはだめだろう。ではどのように真理というものを捉えるか? それは、静止したものを動かすように、持っているものを捨てるように、生きているものを殺すように、助けるものを見放すように、集まっているものを孤立させるように、無いものを有るようにすることだろう。

 人間がその人間であるところの本質を知るために(真理とはその様なものであればよいが)生きているのなら、まさに人間はその意識を殺し、克服する事によってのみ、知ることができるのではないか?

 私の後ろを誰かが、急いで走っている。振り返ると、三人の人間が屋上にあるエレベーターに向かっている。三人とも制服を着ている。会社員かな。私も歩いてエレベーターに向かった。



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