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三-六

No.33

 私の部屋。下手奥に本棚、手前にベッドがある。上手奥にドア、手前に机と椅子がある。ベッドの前に、男(1、2、3、4)が立っている。私は上手奥のドアの前に立っている。(図A参照)


 紳士 (勢いよくドアを開ける)

 私 (ドアが当たる)痛いな。

 図A

挿絵(By みてみん)

 紳士 (気にせず)すいません、五分遅れてしまいました。来る途中、戦車に轢かれそうになってしまいまして。どうもこの建物は危険な物に溢れていますね。(皆に頭を下げて)すいません、どうも。

 男1 挨拶はいいから、(ベッドを指し)ここに座ってくれたまえ。

 紳士 わかりました。(座る)

 男2 君を呼び出したのは他でもなく、君自身に訊ねたい事があるからだ。君も判っているとは思うが。

 紳士 ええ、わかっています、わかっています。何も言われなくても結構です。わかっていますので。

 男3 それでは、始めようか。君は今まで一体何人の人たちを殺してしまったのかね。正直に言いたまえ。

 男4 洗いざらい話した方がいいぞ。君が詐欺師ではなく、たとえ犯罪を犯したとしても、誠実な人物だと私たちは考えているからな。

 紳士 それでは言いましょう。よいしょ。(ベッドの上に立ち上がる)え~それでは、語らせて頂く。いや、語るというより、(観客に向かって手を広げ)ここにいる全ての方々に演説するつもりで、この私の、日々思い、考えているところの全てを曝け出しましょう。

 私 (モノローグ)この人はこれから裁かれるのに、何だかふざけ過ぎているな。それにこの人は僕の知っている紳士とは違うな。これは僕の夢ではないようだ。

 紳士 (私の方を見る)何か言いましたか? よろしい、まずはあなたと私の関係から、語って聞かせましょう。何故、私が存在し、また、この様な役割を与えられたか? そして、私が如何にして生まれ、育ち、この人物の中で大きな位置を占めるに至ったか。

 男1 前置きはいいから早く言いたまえ。君、それから簡潔にな、簡潔に。

 紳士 わかりました。簡潔に。

 男2 私たちが知りたいのは、他でもなく君自身の事だ。(私を指し)この人物と君の関係ではない。

 紳士 ええ、まあわかっています。承知しております。ただ、そこから始めないとあなた方や、見ている方に理解して頂けないのでは、と、こう思いまして。

 男3 なるほど、それでは話しなさい。君は何故、人を殺してしまったのかね。簡潔に事実だけを言いたまえ。

 男4 真実を話した方がいいぞ。君は幼稚な人間ではなく、どの様な状況においても、冷静に事を進めることが出来る人物だと私たちは考えているからな。

 紳士 ありがとうございます。それでは冷静に、客観的に話しましょう。私がこの様な姿で生まれ、仕事を始めてから、まだ十二年しか経っておりません。生まれてから十二年と言いますと、まだ子供かもしれません。人間で言いますと、三十歳ぐらいだと思いますがね。でも十二歳です。でも大人です。

 私 (モノローグ)この人はいい『齢』して、何故こんな事を言うのか? どう見ても三十台前半だろう。年齢を偽る事で何を狙っているのだろうか? 私はここにいるべきか?

 紳士 (私の方を見て)何か言いましたか? うん、あなたは何も知らないようだ。教えてあげますよ、あなたに。私とあなたが切っても切れない関係であるのを。この四人の人物と、そしてこの観客の皆さんに証人になってもらいましょう。……私はもともと犯罪をするような人間ではありませんでした。善良な心を持ち、日々楽しく暮らし、また愉快に生きていました。その様な私の暮らしに、一つの(または一人の)影が忍び寄って来たのです。その時私は一つの苦しみを抱えていました。その苦しみは私には耐え難く、また私の存在以上に大きな力があり、解く事が、そして取り除くことが不可能と思われるものでした。影は言ったのです。(声色を変えて)「君の苦しみを取り除いてあげよう。もっと高い価値を、より良い幸せをあげよう。その代わり、君の人生を私に預けてはもらえないか?」僕は悩みました。僕はその時、殆んど一人で(つまり孤独だったのです)考えていたので、先の事は考えず(考えてはいましたが)、その提案を受け入れてしまったのです。そしてその結果、どうでしょう? 皆さん。私はより高い価値というものを与えられたでしょうか? 私はより良い幸せを手にしたでしょうか? 私は影の召使に成り下がり、私の善良な心は殺意の塊になり、私は生きる楽しみを無くしました。私の希望は殺す事になり、私の心は愉快な事を理解しなくなりました。私の暮らしの中の唯一の仕事は殺す事です。影である私の主人が私に命ずるのです。(声色を変えて)「これが君の新しい仕事だ。諸々を壊す事によってのみ、君は救われる。苦しみから解放される」彼は嘘を付きました。私は彼の命ずるまま、殺してきました。私の最後の仕事は影である私の主人を殺す事のみになりました。その時なって、彼は私から逃げるように自らの命を絶ちました。……(私の方を見て)その人物が彼です。(と指さす)

 男(全員) 影なのに主人とはどういうことだ。

       主人から影になるとは何たることだ。

       苦しみから逃れる為に殺すとはどういうことだ。

       己の主人を召使が殺すとは何たることだ。



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